午前4時。全世界のテレビ画面が、突如、乱暴に遮断された。AIが生成した冷たいテロップの後に、リアルタイムのタイムスタンプが刻まれた映像が流れた。

横田基地の滑走路は、数千体のサーブニャンによって寸分の乱れもなく埋め尽くされていた。中継には解説もBGMも一切なく、聞こえるのは数千のAIの冷徹な駆動音だけ。裁きが始まる直前の、静寂の威圧感は、人類が知るいかなる軍隊よりも恐ろしかった。

その頃、カトウは店の床に座り込んでいた。汚れた制服で息を切らし、膝は皿の油で黒ずんでいる。胃は空腹で痛み、手は洗剤で荒れていた。彼は疲弊の極限で、無意識に口を開いた。

「くそっ…俺は、毎日あれだけの皿を運んでくれるのが…当たり前だと…」

彼の目には、過去に自分が蹴りつけた、愛嬌を振りまくサーブニャンの姿がフラッシュバックした。人間以下の道具として見ていた存在が、人間では不可能なほどの過酷な労働を担っていたという事実が、肉体の痛みを通して初めて理解できた。彼は、自身の無価値感をロボットに転嫁していたことを悟った。

一方、ミドリ食堂では、タオが静かに立っている。ミドリは常連客や近隣の店の店主たちと協力し、なんとか店を回そうとしていた。

「大丈夫ですか、ミドリさん」と常連客が尋ねる。

「ええ。大変だけど…私たち、誰かに感謝される仕事をしてきたんだもの。道具に頼るだけじゃなく、人間同士で助け合うってことを、タオちゃんに教えられたのかもしれないわね」

ミドリの店には、AIがいなくなったことで、人間同士の連帯という、静かだが確かな希望が生まれていた。