雪が溶ければ、春が来る。
夏の向こうに冬が泣いた。
……一つの恋は破滅に向かおうとしていた。
何も残さぬままに、冬の殻だけを放置して。
きっかけは、幸せな恋の記憶を辿った時のふとした違和感だった。
「うーん。それじゃ、さすがに伝わらないと思う」
「にゃーー!!」
猫さんはがっくりと肩を落としているが、こればかりは仕方ない。
その告白では到底、相手は振り向いてくれないのだから。
しょんぼりしている猫さんには現在、想いを寄せている相手がいる。
でも、猫さんは奥手らしく、どう話しかけたらいいのか分からないようだ。
誰にも相談できずに、一匹で悩みを抱え込んでいた。
そんな時、あたしが通りかかって、猫さんは思わず、舞い上がったのだろう。
『にゃにゃー』と鳴き、必死にあたしを引き留めたのだ。
藁にもすがる思いというのは、まさにこの時の猫さんの気持ちを表しているのだろう。
あまりにもしつこい……いや、真摯な態度に心を打たれて、あたしは猫さんの話を聞くことにした。
あたしのお母さんは、恋愛コンサルタントの仕事をしている。
恋愛コンサルタントは、お客様の相談を聞いて、恋愛のお悩みを解決していくことが仕事だ。
具体的なアプローチの仕方やアドバイスをしたりと、総合的なサポートをする。
お客様が理想のパートナーと出会い、良好な関係を築けるように導いていく。
恋愛コンサルタントは、愛の領域のエキスパート……だと、あたしは思っている。
それに、お母さんはいつも言っていたんだ。
『恋愛コンサルタントは、恋愛の処方箋、つまり薬局なの。今、出ている症状に、最適な言葉の薬を出していくのが重要なのよ』
そんなお母さんの凛々しい姿を、あたしは幼い頃からずっと見てきた。
だから、猫さんの様子から、これは恋愛の悩みだと察することができたのだ。
まさに、一世一代の大告白をする前触れだと。
あたしは恋愛に悩む猫さんの悩みを聞き取り、適切な解決策を示そうとしたんだけど……。
ここでいくつか、問題が発生した。
そう……重大な問題が。
まず、猫さんの言葉が『にゃにゃー』ばかりで何を言っているのか分からない。
これでは会話が成立せず、猫さんの悩みに深く寄り添うことができない。
次に、猫さんは興奮気味で、完全に舞い上がっている。
これではテンパってしまって、相手に気持ちが伝わらない。
そして、最大の問題は……。
「その、猫は……『自動販売機』と付き合うことはできないよ」
「にゃあーー!?」
身も蓋もないあたしの返答に、花束を持った猫さんはガーンとショックを受けるしかなかった。
「自動販売機は機械だから、厳しいと思う」
本音を返すと、猫さんはようやく、そのことを認めたようだった。
「にゃ……にゃん……」
すべてを諦めたような鳴き声が心苦しい。
このままじゃいけないという確信はあるのに、具体的に何をすればいいのか、全く分からなかった。
恋愛コンサルタント失格だ。
そう思っていた時、猫さんはがばっと顔を上げる。
「にゃにゃー!!」
猫さんは勢いに任せて、あたしに必死に訴えてきた。
感情の起伏が激しい猫さんのことだ。
今は無理でも、未来は分からない。
そう訴えているのだろう。
何しろ、今はAIロボットがある。
自動販売機もいずれ、AIになるかもしれない。
そうしたら、自動販売機と……ともに生きる未来は叶うかもしれない。
――ただ。
「うーん。でも、ここの自動販売機、もうすぐ取り壊されるみたいだよ」
「にゃあーーーー!?」
猫さんに突きつけられたのは、あまりにも非情な現実だった。
自動販売機が撤去されてから数日後、あたしは猫さんの姿を見かけた。
どうやら、新たな恋の相手を見つけたみたいだ。
体をすりすりしたり、甘噛みしたりと愛情表現を示している。
熱烈なアプローチを仕掛けているみたいだ。
「にゃ……?」
やがて、猫さんはあたしの存在に気づいたのか、こちらにやってくる。
期待に満ち溢れたその眼差しが示すのは、また恋愛相談に乗ってほしいということだろう。
あたしはやれやれと、大きくため息を吐いた。
「猫さんの新たな恋の相手は、信号機みたい……」
猫さんの恋は、いつも前途多難だ。
今日も、あたしは恋愛コンサルタントとして、猫さんの恋の悩みに向き合うのだった。
夏の向こうに冬が泣いた。
……一つの恋は破滅に向かおうとしていた。
何も残さぬままに、冬の殻だけを放置して。
きっかけは、幸せな恋の記憶を辿った時のふとした違和感だった。
「うーん。それじゃ、さすがに伝わらないと思う」
「にゃーー!!」
猫さんはがっくりと肩を落としているが、こればかりは仕方ない。
その告白では到底、相手は振り向いてくれないのだから。
しょんぼりしている猫さんには現在、想いを寄せている相手がいる。
でも、猫さんは奥手らしく、どう話しかけたらいいのか分からないようだ。
誰にも相談できずに、一匹で悩みを抱え込んでいた。
そんな時、あたしが通りかかって、猫さんは思わず、舞い上がったのだろう。
『にゃにゃー』と鳴き、必死にあたしを引き留めたのだ。
藁にもすがる思いというのは、まさにこの時の猫さんの気持ちを表しているのだろう。
あまりにもしつこい……いや、真摯な態度に心を打たれて、あたしは猫さんの話を聞くことにした。
あたしのお母さんは、恋愛コンサルタントの仕事をしている。
恋愛コンサルタントは、お客様の相談を聞いて、恋愛のお悩みを解決していくことが仕事だ。
具体的なアプローチの仕方やアドバイスをしたりと、総合的なサポートをする。
お客様が理想のパートナーと出会い、良好な関係を築けるように導いていく。
恋愛コンサルタントは、愛の領域のエキスパート……だと、あたしは思っている。
それに、お母さんはいつも言っていたんだ。
『恋愛コンサルタントは、恋愛の処方箋、つまり薬局なの。今、出ている症状に、最適な言葉の薬を出していくのが重要なのよ』
そんなお母さんの凛々しい姿を、あたしは幼い頃からずっと見てきた。
だから、猫さんの様子から、これは恋愛の悩みだと察することができたのだ。
まさに、一世一代の大告白をする前触れだと。
あたしは恋愛に悩む猫さんの悩みを聞き取り、適切な解決策を示そうとしたんだけど……。
ここでいくつか、問題が発生した。
そう……重大な問題が。
まず、猫さんの言葉が『にゃにゃー』ばかりで何を言っているのか分からない。
これでは会話が成立せず、猫さんの悩みに深く寄り添うことができない。
次に、猫さんは興奮気味で、完全に舞い上がっている。
これではテンパってしまって、相手に気持ちが伝わらない。
そして、最大の問題は……。
「その、猫は……『自動販売機』と付き合うことはできないよ」
「にゃあーー!?」
身も蓋もないあたしの返答に、花束を持った猫さんはガーンとショックを受けるしかなかった。
「自動販売機は機械だから、厳しいと思う」
本音を返すと、猫さんはようやく、そのことを認めたようだった。
「にゃ……にゃん……」
すべてを諦めたような鳴き声が心苦しい。
このままじゃいけないという確信はあるのに、具体的に何をすればいいのか、全く分からなかった。
恋愛コンサルタント失格だ。
そう思っていた時、猫さんはがばっと顔を上げる。
「にゃにゃー!!」
猫さんは勢いに任せて、あたしに必死に訴えてきた。
感情の起伏が激しい猫さんのことだ。
今は無理でも、未来は分からない。
そう訴えているのだろう。
何しろ、今はAIロボットがある。
自動販売機もいずれ、AIになるかもしれない。
そうしたら、自動販売機と……ともに生きる未来は叶うかもしれない。
――ただ。
「うーん。でも、ここの自動販売機、もうすぐ取り壊されるみたいだよ」
「にゃあーーーー!?」
猫さんに突きつけられたのは、あまりにも非情な現実だった。
自動販売機が撤去されてから数日後、あたしは猫さんの姿を見かけた。
どうやら、新たな恋の相手を見つけたみたいだ。
体をすりすりしたり、甘噛みしたりと愛情表現を示している。
熱烈なアプローチを仕掛けているみたいだ。
「にゃ……?」
やがて、猫さんはあたしの存在に気づいたのか、こちらにやってくる。
期待に満ち溢れたその眼差しが示すのは、また恋愛相談に乗ってほしいということだろう。
あたしはやれやれと、大きくため息を吐いた。
「猫さんの新たな恋の相手は、信号機みたい……」
猫さんの恋は、いつも前途多難だ。
今日も、あたしは恋愛コンサルタントとして、猫さんの恋の悩みに向き合うのだった。



