三週間後。陸の自宅の裏手、物置の冷蔵庫が荒らされていた。陸は登山家としての冷静な知識を総動員し、クマの襲撃痕を調べた。床に散乱した食材の中に、クマの食性とはかけ離れた三つの痕跡を見つけた。一つは、悠人が唯一克服した納豆。二つ目は、クマが避けるはずのインスタントコーヒーの粉末が舐め取られた跡。そして最も決定的なのは、ポットのお湯が注がれたまま、ふやけた状態で残されたカップラーメン。物置に籠もる獣の生臭さの中に、微かに納豆特有の発酵臭と、醤油の焦げた匂いが混ざっていた。それは、悠人が人間として最後に口にした食事の痕跡だった。
陸はすべてを悟った。クマの姿をした、人間としての知性に抗おうとする親友の存在を。裏切りの罪が、今、再び陸を呼び戻そうとしている。
地下のワインセラー。陸が「ユウト」と呼びかけ、ヤマタノオロチポーズを再現した。クマは激しく唸り声をあげた。低く湿った地響きのような唸り声が、陸の胸の奥底を揺らす。巨大な体は、怒りか苦痛かで痙攣し、口元には唾液が泡立っている。しかし、クマは本能に抗うように自らの爪を丸め、前足を不器用に持ち上げ、歪なポーズを作ろうとした。鉄を軋ませるような嗚咽にも似た苦痛の音が、喉の奥から漏れる。それは、「愛しているからこそ、近づくな」という、悠人の沈黙の叫びだった。その痛々しいほどの努力が、陸の罪悪感と、親友を救う義務感を決定づけた。彼は親友を匿うことを決意した。同時に、いつか殺す覚悟も。
陸はすべてを悟った。クマの姿をした、人間としての知性に抗おうとする親友の存在を。裏切りの罪が、今、再び陸を呼び戻そうとしている。
地下のワインセラー。陸が「ユウト」と呼びかけ、ヤマタノオロチポーズを再現した。クマは激しく唸り声をあげた。低く湿った地響きのような唸り声が、陸の胸の奥底を揺らす。巨大な体は、怒りか苦痛かで痙攣し、口元には唾液が泡立っている。しかし、クマは本能に抗うように自らの爪を丸め、前足を不器用に持ち上げ、歪なポーズを作ろうとした。鉄を軋ませるような嗚咽にも似た苦痛の音が、喉の奥から漏れる。それは、「愛しているからこそ、近づくな」という、悠人の沈黙の叫びだった。その痛々しいほどの努力が、陸の罪悪感と、親友を救う義務感を決定づけた。彼は親友を匿うことを決意した。同時に、いつか殺す覚悟も。



