第九話 距離を縮めだした二人の様子
〇瑞葵の執務室
瑞葵「茶は各自で用意させると言っただろう」
羽音「ですが、掃除も終わりましたし。それに日下部さんが喉が渇いたと」
瑞葵「また、あいつか。あれの言うことは無視してもいい」
羽音(瑞葵様は口では辛辣なことを仰るけれど、日下部さんのことをとても信用している)「皆さんにご用意したので」
くすっと笑いながらソファーの前のテーブルにお茶を置く。瑞葵、
瑞葵「二ヶ月で随分と馴染んだようだな。初日、男所帯に驚いていたのが、嘘のようだ」上着を脱ぎながら話す。
羽音「皆様、いい方なので」(瑞葵様の上司からここで働く許可がおりたのが、二月)(ずっと書庫に籠るのも不自然だからと、雑務をしながら巫女について書かれた書物を読んでいる)羽音、上着を受け取る。
羽音「感謝されるのは嬉しいです。自分の存在を認められたような気持ちになります」
上着をハンガーに通しながら、羽音が嬉しそうに言う。その横顔を見る瑞葵。
瑞葵「羽音がそう思うなら、茶でも掃除でも好きにすればいい」ちょっとバツが悪そうに言う。
羽音「ありがとうございます。でも、もちろん巫女の力についても調べます」ばっと顔を明るくする羽音。
瑞葵「書類が古語で書かれていて読みにくいと言っていたな?」ソファに座る。
羽音「古文を学ぶところから始め、やっと読み進めれるようになりました」羽音も隣に座るよう促され、腰掛ける。
瑞葵「何か分かったか?」お茶を飲む。
羽音「始祖の巫女の力を『神気』と呼ぶらしいのですが、それを体内で高める方法が書いてありました」「精神を統一し、書物に描いてある五芒星を脳裏に浮かべながら、お腹のあたりに呼吸を溜める感じだそうです」
羽音が実際にやってみる。そうして手を差し出す。瑞葵は手袋を外してその手に触れる。
瑞葵「たしかに、僅かだがいつもより神気が強いように思う」
羽音「では、このやり方で間違っていないのですね」「精神統一とか呼吸とか、目に見えないものばかり書かれているので、不安だったのです」
ほっとする羽音。窺うように瑞葵を見る。
羽音「それから、始祖の巫女について書かれた書物の一枚が、破り取られていました。瑞葵様は何かご存知ですか?」
瑞葵「破り取られていた? 初耳だ。いったい、いつの間に」考えこむ。「分かった、隊員に聞いてみよう」
羽音小さく頷く。そして瑞葵の手の甲に受かんだ鱗に視線をやり、辛そうに眉を寄せる。
羽音「最近、鱗がなかなか消えてくれません」
瑞葵「龍化が進んでいる。破魔の力が、制御できないほど膨れ上がることがある」
羽音(早く神気を使いこなせるようにならなくては)意気込む。
瑞葵は優しく笑い、その耳元に口を近づける。
瑞葵「今宵も一緒に寝てもいいだろうか」
羽音「へっ、へい?」思わず変な返事になって口を覆う。
回想――羽音を抱きしめながら眠る瑞葵の姿。
羽音(最近は、毎晩一緒に眠っている)(神気が伝わるようにお互い薄い着物一枚だから)(瑞葵様の体温と呼吸が……!)
思い出すだけで赤くなる羽音。
バサリと書類の落ちる音。二人揃ってそちらを見ると日下部が立っている。
日下部「一緒に寝る……」驚いた様子。
羽音「日下部さんっ! いつからそこに⁉」
日下部「いやいやいやいや。でも、婚約者だし。しかし祝言がまだ? 隊長、僭越ながら男子たるものそこはけじめを……」
瑞葵「うるさい! それより至急の用できたんじゃないのか?」しかめっ面。
日下部「そ、そうでした。実は例の変死体がまた出たんです」慌てて書類を拾う。
瑞葵、日下部の持つ書類を奪い取る。
瑞葵「この前に変死体が出たのは年末。まだ、四ヶ月しか経っていない」書類を捲る瑞葵
羽音「日下部さん、変死体とは妖魔の仕業でしょうか」
日下部「三年前から半年に一度、破魔の力を持つ女性が殺されているんだ」「その亡くなった姿というのが、木乃伊のように干からびていて」「木乃伊や殺された女性が破魔の力を持つということは公にしていないから、世間では連続殺人だと噂されている」
羽音(そういえば、夢菜の着物を取りに隣町に行ったとき、そんな話を聞いた気が……)
瑞葵「日下部、そこまでだ。現場に行くぞ」手にしていた書類を日下部に押し付ける。
日下部「は、はい」「羽音さんは怖がらなくても大丈夫だよ」「俺達、妖魔退治特能部隊がついているから」どん、と胸を叩く。
羽音「あ、ありがとうございます」(そもそも、私に破魔の力はないから……)
走り去っていく二人。見送る羽音。
〇林の奥。足もとには木乃伊のような死体
その横に立つ瑞葵と日下部。他にも妖魔退治特能部隊がいて、犯人の手がかりがないか調べている。
瑞葵「これでは素性が分からないな。着物で女性だと分かるぐらいだ」
日下部「実家から捜索願が出ていないか、調べてみます」
瑞葵(まるで生気を抜かれたような死体だ)(定期的に狙われる原因は何だ?)難しい顔
〇その日の夜
場所:霧生家の羽音の部屋。
時刻:深夜
帰宅した瑞葵が、寝間着姿で羽音の部屋を訪ねる。
羽音「瑞葵様、お部屋を暖めておきました」(薄い着物で寝るから、これぐらい暖かいほうがいいわよね)暖炉の前でしゃがみながら話す。
瑞葵、ちょっと悪い顔で笑う。
瑞葵「まるで、俺と寝るのが待ち遠しいようだな」
羽音「そういうわけでは」
立ち上がって振り返ると、すぐそこに瑞葵がいる。
素早く腰に手を回され、口をパクパクさせる。
羽音「あ、あの……」赤い顔
瑞葵「俺も最近、夜が待ち遠しい」色気のある顔
羽音「それはっ、龍化を防ぐためで」(まるで恋人か夫婦のような言い方!)(距離が近すぎる)
真っ赤になってしどろもどろの羽音。瑞葵はフッと笑いながら、手を離す。
瑞葵「俺に触れられるのはすっかり慣れたと思ったが」ちょっと意地悪な顔。
羽音「か、からかわないでください」
瑞葵「最初は身体を強張らせていたが、昨日はすぐに熟睡していた。そこまで信用されるのも微妙な気持ちだ」
羽音「あ、あれは。疲れていたからで」
瑞葵、言い訳をする羽音の手を引きベッドまで連れて行く。
羽音「ちょっと待ってください」
ベッドに腰掛け、水晶を取り出し、額に当てる。
羽音「おやすみなさい」
瑞葵「母親の形見、だったな。毎夜そう言ってから寝るのが習慣なのか?」布団に入りながら話す。
羽音「はい」(水晶については、一緒に眠るようになってから瑞葵様に話をした)(変に思われたらと心配していたけれど、気にしてはいないよう)
さっさと横になる瑞葵。水晶を帯に仕舞う羽音。後ろから引っ張られ、ベッドに押し倒される。
羽音「み、瑞葵、様?」
瑞葵、そっと羽音の頬を撫でる。そのまま抱きしめる。
瑞葵「おやすみ」
羽音「……おやすみなさい」赤い顔。
目を瞑る二人。
羽音(瑞葵様の心音が心地いい、私に触れる箇所から身体があたたかくなっていく)(神気を高めて……)
五芒星を浮かべ、呼吸を整える羽音。瑞葵の身体に腕をまわし抱きしめる。
瑞葵「うっ」急に密着され、赤い顔。
羽音「苦しかったですか? 神気を高めてみたのですが」
瑞葵「そのようだな。いつもより早く身体が暖かくなる」少し照れくさそうに。
羽音「それはよかったです」少し赤い顔で、嬉しそうに羽音を抱きしめ直す。
瑞葵(ぬくもりが心地いい)(だが、いつごろからかもっと触れたくなった)(もし羽音が神気を操れるようになったら――)
思いつめた表情の瑞葵のアップ(瑞葵は羽音が神気を操れるようになり、自分の龍化が今より進んだら、自身を羽音に封印してもらおうと考えている。だから辛そうな表情)
瑞葵(このまま時が止まればいいのに)
寄り添って眠る二人の姿。
〇瑞葵の執務室
瑞葵「茶は各自で用意させると言っただろう」
羽音「ですが、掃除も終わりましたし。それに日下部さんが喉が渇いたと」
瑞葵「また、あいつか。あれの言うことは無視してもいい」
羽音(瑞葵様は口では辛辣なことを仰るけれど、日下部さんのことをとても信用している)「皆さんにご用意したので」
くすっと笑いながらソファーの前のテーブルにお茶を置く。瑞葵、
瑞葵「二ヶ月で随分と馴染んだようだな。初日、男所帯に驚いていたのが、嘘のようだ」上着を脱ぎながら話す。
羽音「皆様、いい方なので」(瑞葵様の上司からここで働く許可がおりたのが、二月)(ずっと書庫に籠るのも不自然だからと、雑務をしながら巫女について書かれた書物を読んでいる)羽音、上着を受け取る。
羽音「感謝されるのは嬉しいです。自分の存在を認められたような気持ちになります」
上着をハンガーに通しながら、羽音が嬉しそうに言う。その横顔を見る瑞葵。
瑞葵「羽音がそう思うなら、茶でも掃除でも好きにすればいい」ちょっとバツが悪そうに言う。
羽音「ありがとうございます。でも、もちろん巫女の力についても調べます」ばっと顔を明るくする羽音。
瑞葵「書類が古語で書かれていて読みにくいと言っていたな?」ソファに座る。
羽音「古文を学ぶところから始め、やっと読み進めれるようになりました」羽音も隣に座るよう促され、腰掛ける。
瑞葵「何か分かったか?」お茶を飲む。
羽音「始祖の巫女の力を『神気』と呼ぶらしいのですが、それを体内で高める方法が書いてありました」「精神を統一し、書物に描いてある五芒星を脳裏に浮かべながら、お腹のあたりに呼吸を溜める感じだそうです」
羽音が実際にやってみる。そうして手を差し出す。瑞葵は手袋を外してその手に触れる。
瑞葵「たしかに、僅かだがいつもより神気が強いように思う」
羽音「では、このやり方で間違っていないのですね」「精神統一とか呼吸とか、目に見えないものばかり書かれているので、不安だったのです」
ほっとする羽音。窺うように瑞葵を見る。
羽音「それから、始祖の巫女について書かれた書物の一枚が、破り取られていました。瑞葵様は何かご存知ですか?」
瑞葵「破り取られていた? 初耳だ。いったい、いつの間に」考えこむ。「分かった、隊員に聞いてみよう」
羽音小さく頷く。そして瑞葵の手の甲に受かんだ鱗に視線をやり、辛そうに眉を寄せる。
羽音「最近、鱗がなかなか消えてくれません」
瑞葵「龍化が進んでいる。破魔の力が、制御できないほど膨れ上がることがある」
羽音(早く神気を使いこなせるようにならなくては)意気込む。
瑞葵は優しく笑い、その耳元に口を近づける。
瑞葵「今宵も一緒に寝てもいいだろうか」
羽音「へっ、へい?」思わず変な返事になって口を覆う。
回想――羽音を抱きしめながら眠る瑞葵の姿。
羽音(最近は、毎晩一緒に眠っている)(神気が伝わるようにお互い薄い着物一枚だから)(瑞葵様の体温と呼吸が……!)
思い出すだけで赤くなる羽音。
バサリと書類の落ちる音。二人揃ってそちらを見ると日下部が立っている。
日下部「一緒に寝る……」驚いた様子。
羽音「日下部さんっ! いつからそこに⁉」
日下部「いやいやいやいや。でも、婚約者だし。しかし祝言がまだ? 隊長、僭越ながら男子たるものそこはけじめを……」
瑞葵「うるさい! それより至急の用できたんじゃないのか?」しかめっ面。
日下部「そ、そうでした。実は例の変死体がまた出たんです」慌てて書類を拾う。
瑞葵、日下部の持つ書類を奪い取る。
瑞葵「この前に変死体が出たのは年末。まだ、四ヶ月しか経っていない」書類を捲る瑞葵
羽音「日下部さん、変死体とは妖魔の仕業でしょうか」
日下部「三年前から半年に一度、破魔の力を持つ女性が殺されているんだ」「その亡くなった姿というのが、木乃伊のように干からびていて」「木乃伊や殺された女性が破魔の力を持つということは公にしていないから、世間では連続殺人だと噂されている」
羽音(そういえば、夢菜の着物を取りに隣町に行ったとき、そんな話を聞いた気が……)
瑞葵「日下部、そこまでだ。現場に行くぞ」手にしていた書類を日下部に押し付ける。
日下部「は、はい」「羽音さんは怖がらなくても大丈夫だよ」「俺達、妖魔退治特能部隊がついているから」どん、と胸を叩く。
羽音「あ、ありがとうございます」(そもそも、私に破魔の力はないから……)
走り去っていく二人。見送る羽音。
〇林の奥。足もとには木乃伊のような死体
その横に立つ瑞葵と日下部。他にも妖魔退治特能部隊がいて、犯人の手がかりがないか調べている。
瑞葵「これでは素性が分からないな。着物で女性だと分かるぐらいだ」
日下部「実家から捜索願が出ていないか、調べてみます」
瑞葵(まるで生気を抜かれたような死体だ)(定期的に狙われる原因は何だ?)難しい顔
〇その日の夜
場所:霧生家の羽音の部屋。
時刻:深夜
帰宅した瑞葵が、寝間着姿で羽音の部屋を訪ねる。
羽音「瑞葵様、お部屋を暖めておきました」(薄い着物で寝るから、これぐらい暖かいほうがいいわよね)暖炉の前でしゃがみながら話す。
瑞葵、ちょっと悪い顔で笑う。
瑞葵「まるで、俺と寝るのが待ち遠しいようだな」
羽音「そういうわけでは」
立ち上がって振り返ると、すぐそこに瑞葵がいる。
素早く腰に手を回され、口をパクパクさせる。
羽音「あ、あの……」赤い顔
瑞葵「俺も最近、夜が待ち遠しい」色気のある顔
羽音「それはっ、龍化を防ぐためで」(まるで恋人か夫婦のような言い方!)(距離が近すぎる)
真っ赤になってしどろもどろの羽音。瑞葵はフッと笑いながら、手を離す。
瑞葵「俺に触れられるのはすっかり慣れたと思ったが」ちょっと意地悪な顔。
羽音「か、からかわないでください」
瑞葵「最初は身体を強張らせていたが、昨日はすぐに熟睡していた。そこまで信用されるのも微妙な気持ちだ」
羽音「あ、あれは。疲れていたからで」
瑞葵、言い訳をする羽音の手を引きベッドまで連れて行く。
羽音「ちょっと待ってください」
ベッドに腰掛け、水晶を取り出し、額に当てる。
羽音「おやすみなさい」
瑞葵「母親の形見、だったな。毎夜そう言ってから寝るのが習慣なのか?」布団に入りながら話す。
羽音「はい」(水晶については、一緒に眠るようになってから瑞葵様に話をした)(変に思われたらと心配していたけれど、気にしてはいないよう)
さっさと横になる瑞葵。水晶を帯に仕舞う羽音。後ろから引っ張られ、ベッドに押し倒される。
羽音「み、瑞葵、様?」
瑞葵、そっと羽音の頬を撫でる。そのまま抱きしめる。
瑞葵「おやすみ」
羽音「……おやすみなさい」赤い顔。
目を瞑る二人。
羽音(瑞葵様の心音が心地いい、私に触れる箇所から身体があたたかくなっていく)(神気を高めて……)
五芒星を浮かべ、呼吸を整える羽音。瑞葵の身体に腕をまわし抱きしめる。
瑞葵「うっ」急に密着され、赤い顔。
羽音「苦しかったですか? 神気を高めてみたのですが」
瑞葵「そのようだな。いつもより早く身体が暖かくなる」少し照れくさそうに。
羽音「それはよかったです」少し赤い顔で、嬉しそうに羽音を抱きしめ直す。
瑞葵(ぬくもりが心地いい)(だが、いつごろからかもっと触れたくなった)(もし羽音が神気を操れるようになったら――)
思いつめた表情の瑞葵のアップ(瑞葵は羽音が神気を操れるようになり、自分の龍化が今より進んだら、自身を羽音に封印してもらおうと考えている。だから辛そうな表情)
瑞葵(このまま時が止まればいいのに)
寄り添って眠る二人の姿。



