軍龍の巫女嫁

第八話 妖魔退治特能部隊で働き始める羽音

〇七話の続き、羽音をベッドに押し倒す瑞葵
羽音「あっ、あの……」
瑞葵「龍化がかなり進んでいる。今宵はこのままでいたい。ダメだろうか」
 剥き出しの瑞葵の肩と腕が羽音の視界に入る。そこにはまだ鱗が残っていた。
羽音「分かりました」
瑞葵「俺が怖いか?」(このまま龍になってしまうかもしれない。人間としての理性や知性が無くなったら……怖い)思い悩む顔。
羽音「怖い? 瑞葵様を恐れるはずありません」
 瑞葵の腕の中で頬を染めながら当然のように言う。視線は瑞葵に向けられている。そのまっすぐな眼差しに、目を見張る瑞葵
瑞葵「怖くない? 龍だぞ。皆恐れると思って、龍化についてはごく一部の人間にしか話していないというのに」戸惑う表情。
羽音「ですが、瑞葵様は瑞葵様ですから。私でお役に立てるのであれば、この身体、好きにしてください」(私は瑞葵様に地獄のような日々から救われた)
瑞葵「その言葉、不用意に言うものではない」少し顔を赤くしながら、諫める瑞葵。
羽音「えっ、も、申し訳ありません」意味が分からないがとりあえず謝る羽音。
瑞葵 深いため息を吐く。「言葉の意味が分かっていないようだが、言質はとった」
羽音「は……い?」目をパチパチとさせる。
 腕の力が強まる。密着した身体に焦る羽音。
羽音(もしかして私、すごくはしたないことを口走ったのでは)
 そのままベッドで眠りにつくふたり。真っ赤な顔の羽音。穏やかでどこか嬉しそうに口角を上げる瑞葵。

〇軍の一室で上司と対面している瑞葵
場所:軍の本部、上司の部屋
時刻:季節は春・四月 お昼すぎ
 執務机に瑞葵の上司が座り、その前で瑞葵が報告書を読み上げている。
瑞葵「以上が、先月妖魔退治特能部隊が解決した案件です」
上司「分かった。半年おきに出る若い女性の変死体については?」
瑞葵「先月は何も。この前に発生したのが年末だったので、次に出るとしたら二ヶ月後ではないかと」
上司「分かった」
 瑞葵、緊張していた表情を少し緩める。
上司「ところで、婚約者を妖魔退治特能部隊で働かせていると聞いた。堅物のお前が片時も手放したくないとは、どのような女性なんだ?」
 にやっと笑って姿勢を崩す隊長。むっとする瑞葵。
瑞葵「それについては、隊の雑務を手伝わせていると報告したはずです」
上司「そうだったかな」とぼける口調。「妖魔退治特能部隊の仕事は特殊だ」「身内を働かせるのは秘密保持の観点から見て悪くない」にやにやと瑞葵を見る。
瑞葵「どうも仕事をしていないと落ち着かない性格のようで」「ですから、掃除などを頼んでいます」気まずそうに上司から目を逸らす。
上司「ははは、そうか、そうか」「なにはともあれ、お前が身を固めて亡きご両親もほっとしているだろう」豪快に笑いながら言う。
瑞葵「ではこれで、失礼します」淡々と言って退室する。
 廊下に出た瑞葵
瑞葵(上司には龍化を話していないから、誤解されるのも仕方ないか)(それにしても……)


〇瑞葵の回想
場所:霧生家のダイニング
時刻:朝。瑞葵が龍化について話した一週間後ぐらい。
 朝食を食べ終えたばかりの瑞葵。出勤前で軍服姿でテーブルについている。その隣に立つ羽音。
瑞葵「妖魔退治特能部隊で働きたい?」少し怒り気味の怪訝な顔。
羽音「はい。依子さんから妖魔退治特能部隊には巫女について書いた資料もあると聞きました」「それを読んでみたいと思ったのですが……」遠慮がちに「瑞葵様は龍化を内密にされています」「私が資料を読むには、妖魔退治特能部隊で働くのが不自然ではないと考えました」
 いつも下を向いていた羽音が、真正面から瑞葵に頼みごとをする。いきいきとした表情。
瑞葵「婚約者を俺の仕事場で働かせるのは、充分不自然だと……」
依子「瑞葵様! よいではありませんか。羽音様がお傍に居れば、すぐに龍化を防ぐ手当ができます」
花枝「そうですよ。最近以前にも増して辛そうですし!」
 羽音の肩に手を置き、後押しする依子と羽音。
瑞葵(たしかに年明けから鱗が頻繁に現れるようになった)(羽音のおかげで龍化自体は進んでいないように思うが)思案する瑞葵。
羽音「妖魔退治特能部隊のある資料は外部への持ち出し禁止と聞きました。巫女としての力を扱えるようになれば、もっと瑞葵様のお役に立てます」
 羽音の言葉に、感激するそぶりの依子と花枝。
花枝「愛、ですわ」
羽音「そ、そのようなものではなく!」(なぜ私が花嫁に選ばれたかずっと分からず不安だった)(私を小花衣家から救い出してくださった瑞葵様に御恩返しがしたい)
羽音「私の役目は、瑞葵様の龍化を防ぐことですから」
 依子と花枝、胡乱な目で瑞葵を見る(それだけではないだろう)と言う感じ。瑞葵、気まずそうに視線を逸らす。
羽音(花嫁に選ばれた理由を知れたのに、どうして胸が苦しくなるのだろう)羽音、なぜか胸が痛み手を当てる。
瑞葵「……分かった。では上司に打診してみよう」
羽音「ありがとうございます」
 立ち上がる瑞葵。見送りに行く羽音。

〇現在へ戻る 
場所:妖魔退治特能部隊の部屋の前。軍の本部とは敷地が少し離れている。
 瑞葵、妖魔退治特能部隊の扉を開ける。
 部屋の様子。机が並ぶ。両サイドの壁に扉がある。片方は瑞葵の執務室に繋がる。もう片方は書庫。
隊員「お帰りなさい」
 机に座っていたり、立ち話をしていたり。椅子に座って報告書を書く人もいる。働いている様子。
羽音「お帰りなさいませ」
 お盆を持っていて、そこに湯飲みがある。お茶を隊員に配っているところ。
 いきいきとしたその姿に、嬉しそうに目を細める瑞葵。
瑞葵(会ったときには、あんなふうに笑わなかった)(俺はいつから、あの笑顔を見たいと思うようになったのだろうか)(羽音に傍にいて欲しいのは、龍化を防ぐためだけではない)