軍龍の巫女嫁

第六話 初詣で妖魔と夢菜に遭遇

〇五話の続き、お正月の参拝中。
 瑞葵、背後から声をかけられる。相手は瑞葵の部下・日下部琢磨。軍服姿。
日下部「隊長、こんなところでどうしたのですか」「あっ、もしかして隣のご夫人が選定の儀で選ばれた花嫁?」
羽音「小花衣羽音と申します」
 頭を下げる羽音。日下部はやっぱりと顔を明るくする。その隣で瑞葵は気まずそうにしかめっ面。
日下部「「一度お会いしたいと思っていたんです!」「隊長を骨抜きにするだけあって可愛らしい女性だ」
羽音「ほ、骨抜き?」目をパチクリする羽音。
日下部「はい。それまでほぼ隊に泊まり込みだったのに、花嫁を迎えてからは毎日ご帰宅されます」「しかも、夕方に帰る日もある」「それに、話題の菓子を聞いてきたり……」嬉しそうに話続ける。
瑞葵「おい。それぐらいにしろ」こめかみに青筋を立てる。
 叱られ首を竦める日下部。赤い顔で気まずそうに視線を逸ら瑞葵す。日下部の話す内容に頭が追い付かず、真っ赤な顔でおろおろする羽音。
瑞葵(咳払い)「ところでお前こそこんなところでどうした。怪我をしたのだから自宅で養生しろ」
 瑞葵、日下部の左手首を指差す。包帯が巻かれている。
日下部「この近くで陶器市が開かれるから荷物持ちとして姉に駆り出されたんです」「破魔の力もほとんど残っていないぐらいへとへとなのに、着替えすらさせてもらえませんでした」
 項垂れる日下部。
羽音(年末年始の任務は大変だったんだ。瑞葵様もきっとお疲れのはず)「瑞葵様、そろそろ帰って、身体を休められてはいかがでしょうか」
瑞葵「俺は大丈夫だが。こう人が多くては羽音が疲れそうだな」
日下部「隊長が人を気遣っている! そんな優しい言葉を掛けられたことない!」
瑞葵「うるさい。お前は早く姉のところへ行け。それからさっさとその手を直せ」
日下部「骨に異常はないので、数日で完治します! それより、もう少し羽音さんと話をしたいのですが」
瑞葵「羽音はお前に用はない」
 瑞葵、羽音の肩を引き寄せる。照れる羽音。その姿に驚く日下部。
日下部(これは思った以上にベタ惚れだな)
 突然境内の方で悲鳴が上がる。あたりを見渡す瑞葵。
民衆1「逃げろ」
民衆2「なんなんだ、あいつは」
民衆3「妖魔だ! 妖魔が出たぞ‼」
 逃げ惑う人々。三人に緊張が走る。
 瑞葵、車の鍵を日下部に投げて渡す。
瑞葵「俺が行く。お前は羽音を霧生家に送り届けてくれ」
日下部「ですが、一人では!」
瑞葵「破魔の力もなく負傷しているお前がいても足手まといだ」「それより羽音を頼む」
 駆け出す瑞葵。
日下部「羽音さん、隊長なら大丈夫です」「とにかく、帰りましょう」
 促され歩く羽音。その途中、再び悲鳴が上がる。
日下部「まさか、もう一体いたのか? 羽音さん、ここにいてください」
 駆け出す日下部。その向こうでは女性が妖魔に襲われようとするところだった。
羽音(あの後ろ姿は)
日下部「まずい、間に合わない」
 突然、女性の前にいる妖魔が動きを止める。
日下部(いったいどうして?)妖魔の足元を見る。結界(五芒星)が光っている。「そのまま結界を張り続けて!」
 日下部、腰の剣を抜き、妖魔に斬りつける。
女性(夢菜)「きゃぁぁ!」
日下部「大丈夫ですか?」「よくできた結界だ。あなたの名前は?」
羽音「小花衣夢菜です」青ざめた顔で答える夢菜。華やかな着物姿。
日下部「あぁ、羽音さんの妹さんでしたか。いまそこに羽音さんもいます」「俺は他に妖魔がいないか見て来るので、羽音さんと一緒にいてください」
 日下部、羽音を指差し立ち去る。夢菜、羽音を見て驚くも、すぐに意地悪な顔になって近づいてくる。
夢菜「お前、こんなところで何をしているの」
羽音「あ、あの。瑞葵様が連れてきてくださって……」
 夢菜、手にしていた鞄(巾着状のもの)で羽音をぶつ。
夢菜「いい気になるんじゃないよ!」「あんたが花嫁に選ばれたのは何かの間違いなんだから!」「破魔の力もない役立たずの屑が、立派な着物を着るなんて分不相応なのよ」
 叱責され、びくっと身を竦める羽音。
羽音(身体が動かない。声が出ない。夢菜に叱られると……私、何も変われていない)
夢菜「帰るわよ!」
羽音「えっ、ど、どこにですか?」
夢菜「決まっているでしょう。小花衣家よ。たっぷり折檻して、自分の立場をもう一度教えないと」
 足が竦んで動けない羽音。夢菜、苛立たし気に羽音をぶつべく、手を挙げる。
夢菜「あんたなんかが花嫁のはずないでしょう!」
 身体を縮める羽音。
 夢菜の手を背後から瑞葵が止める。
瑞葵「俺の花嫁に何をする」
羽音「瑞葵様……!」
 夢菜、慌てて手を引っ込めるも、すぐに瑞葵に詰め寄る。
夢菜「瑞葵様、一度私と話す時間をください。そうすれば私のほうが瑞葵様にふさわしいと分かるはずです」「今からでも、花嫁を私に変えてください」
 自信満々の笑顔。深いため息を落とす瑞葵。
瑞葵「俺の花嫁は、羽音しかいない」
夢菜「でも、それは破魔の力がありません。結界を張れる私なら、立派なお世継ぎを産めます」
瑞葵「話にならん。妖魔は滅した。行くぞ、羽音」
羽音「で、でも……」(私なんかが花嫁で本当にいいんだろうか)(結界も張れないし、破魔の力もない)
 とまどう羽音。瑞葵、羽音の手を取りその場から立ち去る。
 立ち去る二人の後ろ姿を悔しそうに睨む夢菜。そんな夢菜に声をかける人物・蓮斗。
蓮斗「夢菜さん、ですね」
夢菜 振り返りながら「何?」「あなた、誰なの?」不快そうな嫌な顔。
蓮斗「霧生蓮斗。霧生瑞葵の弟です。参拝に来たらこの騒ぎで……驚きましたよね?」
夢菜「霧生……はじめまして、小花衣夢菜と申します」「私をご存知なのですか?」ぱっと笑顔に変わる。
蓮斗「選定の儀には僕もいました。お美しい女性だったので覚えています」
夢菜「そんな。美しいなんて」
 余所行きの可愛い顔で照れる夢菜。蓮斗、目を細める。
蓮斗「さきほど結界を張る姿を見ました。とても素晴らしい力を持っていますね」
夢菜「ありがとうございます。蓮斗様も妖魔退治特能部隊に所属されているのですか?」
蓮斗「兄と違って僕の場合は非常勤です。俺は後方支援なので」
 不思議そうに首を傾げる夢菜。連斗、夢菜に近付き耳うちする。
蓮斗「僕は誰かの破魔の力を他人へ送ることができます」
夢菜「それはすごい能力ですね」目を輝かせる夢菜。
蓮斗「僕が力を貸せば、夢菜さんならこの境内一体に結界を張ることも可能です」「ただ、攻撃力がないので、兄のように妖魔を滅することはできないんです」
夢菜「それでも素晴らしい力ですわ」あざとく縋るような様子の夢菜。
蓮斗「そう言ってもらえるなんて嬉しいな」「お時間はありますか? よろしければ、もう少し話をしませんか?」人好きする笑顔。
夢菜(霧生家、次男。親しくなって損のない相手ね)「はい、私ももっとお話をしたいです!」あざとさ全開で。
蓮斗「よかった」「それにしても、こんなに綺麗な夢菜さんを花嫁に選ばない兄が、信じられない」
夢菜「そんな、私なんて」嬉しそうに謙遜する。
 立ち去る二人。
 神社に残された琢磨が「隊長どこに?」と嘆く様子をコミカルに。