第五話 羽音と瑞葵、初詣に行く。
〇瑞葵の書斎を掃除する羽音
場所:瑞葵の書斎。
時刻:年明け数日後(一月五日ぐらい)。時刻は十時ぐらい
本棚をはたきで掃除する羽音。
羽音(瑞葵様は年末も年始もお仕事で帰って来られなかった)(なんだか寂しい)(いいえ!お国のために働いてくださっている方に、私はなんて失礼なことを!)
百面相のような状態ではたきを振る羽音、そんな羽音の背後から依子が声をかける。
依子「羽音様?」
羽音「ひ、ひゃあい」
飛び上がりながら驚く羽音。依子は笑いながら手に持っていた手紙を羽音に手渡す。
依子「速達です。午後には瑞葵様がお戻りになるそうですよ」
羽音「本当ですか。ありがとうございます」
手紙を受け取り、読む羽音。その嬉しそうな顔に、依子が目を細める。
羽音「瑞葵様はお仕事がお忙しいのですね。お帰りになったらゆっくりしていただきたいです」
依子「妖魔退治特能部隊には年末も年始もありませんから」「そういえば、羽音様のお父様も、以前は妖魔退治特能部隊に所属されていたのですよね」
依子「はい。私が十歳のとき怪我をして隊を辞め、今は役人をしています」
依子「それでしたら、破魔の力や始祖の巫女の話もご存知ですよね?」
羽音「……恥ずかしながら、無能な私が知る必要はないと、教えてもらっておりません」首を振り下を向く羽音。
依子は本棚から一冊本を出し、ソファに座るよう促す。
依子「知らないのは羽音様のせいではありません」「それに今から知ればよいだけのこと」「瑞葵様の乳母でもあったわたくしが、お教えいたしましょう」
依子は本を捲る。本は和書で片側を紐で閉じた古いもの。
依子「今から数千年前、始祖の巫女は龍を封じました」「場所はここからずっと西にある、当時の帝都があった場所です」「そこでは龍が妖魔を従え、人を襲っていたそうです」「その龍を封じ、数多の妖魔を滅したのが、始祖の巫女です」「龍を封じたあと巫女が生んだ子供は、破魔の力を持っていました。その子供が霧生家初代当主です」ダイジェスト風に。
羽音「以前に一度、瑞葵様が風を操ったのを見たことがあります」
依子「通常でしたら、火や水など特定の物を操るのですが、瑞葵様にはそれらすべてを操る力がございます」
羽音「凄い」
依子「破魔の力が強いですから。でも、そのせいで弊害も……」言い淀む依子。
羽音「弊害?」不思議そうに首を傾げる羽音。
音がして書斎の扉が開く。瑞葵かと思って振り返る二人。
蓮斗「あれ、兄が帰って来たと聞いたから、新年の挨拶に来たんだけれど」
依子「蓮斗様、あけましておめでとうございます。瑞葵様は午後にお帰りの予定です」依子、立ち上がり頭を下げる。
蓮斗「そうなんだ。で、そちらにいるのは、もしかして兄の花嫁?」
羽音も慌てて立ち上がる。
羽音「初めまして、羽音と申します」(花枝さんから弟がいると聞いたけれど)
蓮斗の全身像。茶色の短髪、服装はスーツ。身長は175センチぐらい。愛想の良い笑顔。
蓮斗「初めまして。あれ、選定の儀で兄が話しかけていた女性とは違うような…。ま、いいか」「個々の暮らしには慣れたかい?」
羽音「はい。皆様、とてもよくしてくださります」
蓮斗「兄が見初めただけあって、可愛ね。そうだ、兄からは龍化の話はもう聞い……」
依子「蓮斗様! それ以上は」依子、二人の間に割って入る。
蓮斗「あぁ、まだ知らないのか」「羽音さん、今の会話は忘れてね」肩を竦めヘラっと笑う。
瑞葵「蓮斗、こんなところで何をしている」
開け放たれた扉の前に立つ瑞葵。腕組みをして険しい顔をしている。
蓮斗「兄さん、お帰りなさい。新年の挨拶にきました。あっ、これは手土産です」
そう言って、お酒をテーブルに置く。忌々しそうにそれを見る蓮斗。
羽音「あの。よろしければ酒杯やおつまみを用意いたしましょうか」
蓮斗「それはいいや。ぜひ……」嬉しそうに笑う
瑞葵「必要ない。蓮斗はすぐに帰る」冷たく言い放つ
羽音「えっ?」(わざわざ新年の挨拶にきた弟をもう帰すというの?)
驚く羽音。肩を竦める蓮斗。睨む瑞葵。
蓮斗「分かったよ。ではまた来るね」
そう言って手を振りながら蓮斗は部屋を出て行く。
羽音「瑞葵様、お帰りなさいませ。お疲れでしょう」「すぐにお風呂の用意をいたしましょうか? それともお休みになられますか?」
瑞葵「いや、それより蓮斗は何か言っていなかったか?」
羽音(何か、とは。もしかして龍化のこと?)返事ができない羽音
瑞葵「もういい」「ところで初詣は行ったか?」上着を脱ぎ依子に手渡す。
羽音「いいえ。実家にいたときから、初詣に行く習慣がなく、まだ……」
瑞葵「そうか、では支度を整えるから一緒に行こう」
羽音に背を向け、シャツの釦をはずしがら話す。
羽音「えっ」
驚く羽音を残し、瑞葵は扉続きになっている自室へ行く。あとを追う依子。
羽音(初詣?)
呆気に取られていると、開いたドアから花枝が現れる。
花枝「では、羽音様も用意をいたしましょう」
羽音「で、でも私は」
花枝「瑞葵様が新年用にと仕立てられた着物にまだ袖を通されていませんよね」「帯は南天柄にしましょう。それと……」
張り切る花枝。引きずられるようにして部屋を出る羽音。
〇神社で初詣をする二人。
場所:車で三十分ほど行った場所にある神社。神社の前の参道にはお店が並び、沢山の人でごった返している。
羽音「すごい人の数……」
人の多さに驚く羽音。二人とも新年らしい着物と羽織姿。瑞葵、手袋をしている。
お面をつけた子供がぶつかってきてよろける羽音。それを瑞葵が支える。
瑞葵「大丈夫か?」
羽音「は、はい。ありがとうございます」
顔が近づき、羽音が赤くなる。
瑞葵「三が日が過ぎたから空いていると思ったのだが」まいったなという顔
羽音「そうですね」距離を取り恥ずかしがる羽音。
瑞葵が羽音の手を握る。
羽音「えっ?」驚く
瑞葵「人が多いから、はぐれないようにしよう」羽音の赤らんだ顔を瑞葵が微笑ましく眺める。
羽音「は、はい」(いつもより瑞葵様との距離が近いような……)
神社に行き手を合わせる。真剣な顔の羽音。瑞葵より手を合わせる時間が長く、瑞葵が横目でその姿を見る。参拝客の列から離れる。
瑞葵「随分と長い間手を合わせていたが、何を願っていたんだ」
羽音「瑞葵様のご無事を。妖魔退治特能部隊は常に危険と隣り合わせだと聞きました」
瑞葵「俺のことを? 羽音自身については願わなかったのか?」
羽音「私、ですか?」暫く考える「ありません。霧生家に来てから大変よくしていただいています」「これ以上何か望んだらバチがあたってしまいます」
笑顔で答える羽音。それに対し、羽音の生い立ちを思い出し悲しそうな顔をする瑞葵。
羽音、屋台に視線を巡らせ、頬を紅潮させる。
瑞葵「このような場所に来たことは?」
羽音「母が生きていた頃にあったように思いますが、よく覚えていません」
瑞葵「お母上は、幼いときに亡くなったそうだな」
羽音「はい、三歳のときに」「馬車で遠出をして、崖から落ちたと聞いています」(そういえば、お母様はどこへ出かけたのかしら)
考え込む羽音を、母親を思い出し気落ちしたと勘違いする瑞葵。目に止まった屋台を指差す。
瑞葵「りんご飴でも食べるか」
羽音「えっ?」目をパチパチさせる。
瑞葵「食べたことがなさそうだな。ちょうどいい」
屋台に進み、りんご飴を買い羽音に手渡す。
羽音「ありがとうございます」頭を下げ両手で受け取る羽音。
周りを見回すとりんご飴を齧る子供がいた。同じように齧ってみる。
羽音「! 美味しいです」目を丸くして、顔をきらきらさせる。
瑞葵「それは良かった」
羽音「瑞葵様が買ってくださるものは、何でも美味しいです」
美味しそうに食べる羽音。満足そうな瑞葵。
そんなふたりに、ひとりの男が気づく(二人のアップ、肩越しに男の姿。男は瑞葵の部下)
〇瑞葵の書斎を掃除する羽音
場所:瑞葵の書斎。
時刻:年明け数日後(一月五日ぐらい)。時刻は十時ぐらい
本棚をはたきで掃除する羽音。
羽音(瑞葵様は年末も年始もお仕事で帰って来られなかった)(なんだか寂しい)(いいえ!お国のために働いてくださっている方に、私はなんて失礼なことを!)
百面相のような状態ではたきを振る羽音、そんな羽音の背後から依子が声をかける。
依子「羽音様?」
羽音「ひ、ひゃあい」
飛び上がりながら驚く羽音。依子は笑いながら手に持っていた手紙を羽音に手渡す。
依子「速達です。午後には瑞葵様がお戻りになるそうですよ」
羽音「本当ですか。ありがとうございます」
手紙を受け取り、読む羽音。その嬉しそうな顔に、依子が目を細める。
羽音「瑞葵様はお仕事がお忙しいのですね。お帰りになったらゆっくりしていただきたいです」
依子「妖魔退治特能部隊には年末も年始もありませんから」「そういえば、羽音様のお父様も、以前は妖魔退治特能部隊に所属されていたのですよね」
依子「はい。私が十歳のとき怪我をして隊を辞め、今は役人をしています」
依子「それでしたら、破魔の力や始祖の巫女の話もご存知ですよね?」
羽音「……恥ずかしながら、無能な私が知る必要はないと、教えてもらっておりません」首を振り下を向く羽音。
依子は本棚から一冊本を出し、ソファに座るよう促す。
依子「知らないのは羽音様のせいではありません」「それに今から知ればよいだけのこと」「瑞葵様の乳母でもあったわたくしが、お教えいたしましょう」
依子は本を捲る。本は和書で片側を紐で閉じた古いもの。
依子「今から数千年前、始祖の巫女は龍を封じました」「場所はここからずっと西にある、当時の帝都があった場所です」「そこでは龍が妖魔を従え、人を襲っていたそうです」「その龍を封じ、数多の妖魔を滅したのが、始祖の巫女です」「龍を封じたあと巫女が生んだ子供は、破魔の力を持っていました。その子供が霧生家初代当主です」ダイジェスト風に。
羽音「以前に一度、瑞葵様が風を操ったのを見たことがあります」
依子「通常でしたら、火や水など特定の物を操るのですが、瑞葵様にはそれらすべてを操る力がございます」
羽音「凄い」
依子「破魔の力が強いですから。でも、そのせいで弊害も……」言い淀む依子。
羽音「弊害?」不思議そうに首を傾げる羽音。
音がして書斎の扉が開く。瑞葵かと思って振り返る二人。
蓮斗「あれ、兄が帰って来たと聞いたから、新年の挨拶に来たんだけれど」
依子「蓮斗様、あけましておめでとうございます。瑞葵様は午後にお帰りの予定です」依子、立ち上がり頭を下げる。
蓮斗「そうなんだ。で、そちらにいるのは、もしかして兄の花嫁?」
羽音も慌てて立ち上がる。
羽音「初めまして、羽音と申します」(花枝さんから弟がいると聞いたけれど)
蓮斗の全身像。茶色の短髪、服装はスーツ。身長は175センチぐらい。愛想の良い笑顔。
蓮斗「初めまして。あれ、選定の儀で兄が話しかけていた女性とは違うような…。ま、いいか」「個々の暮らしには慣れたかい?」
羽音「はい。皆様、とてもよくしてくださります」
蓮斗「兄が見初めただけあって、可愛ね。そうだ、兄からは龍化の話はもう聞い……」
依子「蓮斗様! それ以上は」依子、二人の間に割って入る。
蓮斗「あぁ、まだ知らないのか」「羽音さん、今の会話は忘れてね」肩を竦めヘラっと笑う。
瑞葵「蓮斗、こんなところで何をしている」
開け放たれた扉の前に立つ瑞葵。腕組みをして険しい顔をしている。
蓮斗「兄さん、お帰りなさい。新年の挨拶にきました。あっ、これは手土産です」
そう言って、お酒をテーブルに置く。忌々しそうにそれを見る蓮斗。
羽音「あの。よろしければ酒杯やおつまみを用意いたしましょうか」
蓮斗「それはいいや。ぜひ……」嬉しそうに笑う
瑞葵「必要ない。蓮斗はすぐに帰る」冷たく言い放つ
羽音「えっ?」(わざわざ新年の挨拶にきた弟をもう帰すというの?)
驚く羽音。肩を竦める蓮斗。睨む瑞葵。
蓮斗「分かったよ。ではまた来るね」
そう言って手を振りながら蓮斗は部屋を出て行く。
羽音「瑞葵様、お帰りなさいませ。お疲れでしょう」「すぐにお風呂の用意をいたしましょうか? それともお休みになられますか?」
瑞葵「いや、それより蓮斗は何か言っていなかったか?」
羽音(何か、とは。もしかして龍化のこと?)返事ができない羽音
瑞葵「もういい」「ところで初詣は行ったか?」上着を脱ぎ依子に手渡す。
羽音「いいえ。実家にいたときから、初詣に行く習慣がなく、まだ……」
瑞葵「そうか、では支度を整えるから一緒に行こう」
羽音に背を向け、シャツの釦をはずしがら話す。
羽音「えっ」
驚く羽音を残し、瑞葵は扉続きになっている自室へ行く。あとを追う依子。
羽音(初詣?)
呆気に取られていると、開いたドアから花枝が現れる。
花枝「では、羽音様も用意をいたしましょう」
羽音「で、でも私は」
花枝「瑞葵様が新年用にと仕立てられた着物にまだ袖を通されていませんよね」「帯は南天柄にしましょう。それと……」
張り切る花枝。引きずられるようにして部屋を出る羽音。
〇神社で初詣をする二人。
場所:車で三十分ほど行った場所にある神社。神社の前の参道にはお店が並び、沢山の人でごった返している。
羽音「すごい人の数……」
人の多さに驚く羽音。二人とも新年らしい着物と羽織姿。瑞葵、手袋をしている。
お面をつけた子供がぶつかってきてよろける羽音。それを瑞葵が支える。
瑞葵「大丈夫か?」
羽音「は、はい。ありがとうございます」
顔が近づき、羽音が赤くなる。
瑞葵「三が日が過ぎたから空いていると思ったのだが」まいったなという顔
羽音「そうですね」距離を取り恥ずかしがる羽音。
瑞葵が羽音の手を握る。
羽音「えっ?」驚く
瑞葵「人が多いから、はぐれないようにしよう」羽音の赤らんだ顔を瑞葵が微笑ましく眺める。
羽音「は、はい」(いつもより瑞葵様との距離が近いような……)
神社に行き手を合わせる。真剣な顔の羽音。瑞葵より手を合わせる時間が長く、瑞葵が横目でその姿を見る。参拝客の列から離れる。
瑞葵「随分と長い間手を合わせていたが、何を願っていたんだ」
羽音「瑞葵様のご無事を。妖魔退治特能部隊は常に危険と隣り合わせだと聞きました」
瑞葵「俺のことを? 羽音自身については願わなかったのか?」
羽音「私、ですか?」暫く考える「ありません。霧生家に来てから大変よくしていただいています」「これ以上何か望んだらバチがあたってしまいます」
笑顔で答える羽音。それに対し、羽音の生い立ちを思い出し悲しそうな顔をする瑞葵。
羽音、屋台に視線を巡らせ、頬を紅潮させる。
瑞葵「このような場所に来たことは?」
羽音「母が生きていた頃にあったように思いますが、よく覚えていません」
瑞葵「お母上は、幼いときに亡くなったそうだな」
羽音「はい、三歳のときに」「馬車で遠出をして、崖から落ちたと聞いています」(そういえば、お母様はどこへ出かけたのかしら)
考え込む羽音を、母親を思い出し気落ちしたと勘違いする瑞葵。目に止まった屋台を指差す。
瑞葵「りんご飴でも食べるか」
羽音「えっ?」目をパチパチさせる。
瑞葵「食べたことがなさそうだな。ちょうどいい」
屋台に進み、りんご飴を買い羽音に手渡す。
羽音「ありがとうございます」頭を下げ両手で受け取る羽音。
周りを見回すとりんご飴を齧る子供がいた。同じように齧ってみる。
羽音「! 美味しいです」目を丸くして、顔をきらきらさせる。
瑞葵「それは良かった」
羽音「瑞葵様が買ってくださるものは、何でも美味しいです」
美味しそうに食べる羽音。満足そうな瑞葵。
そんなふたりに、ひとりの男が気づく(二人のアップ、肩越しに男の姿。男は瑞葵の部下)



