軍龍の巫女嫁

第四話 霧生家の様子

〇一週間後。場所は羽音に与えられた一室。
 熱が下がり元気になった羽音。屋敷の掃除をしようと襷をする。
羽音「お世話になったお礼を少しでも返さなくては」
 玄関先を箒で掃く。そこに慌てて花枝が駆け寄ってくる。
花枝「何をなさっているのですか⁉」
羽音「申し訳ありません。熱が下がったのでお掃除をしようと思ったのですが、勝手をいたしました」
 深く頭を下げる羽音。それに焦る花枝。
花枝「そうではなく。羽音様は瑞葵様の花嫁になられる方。このようなことはしなくてもよいのです」
羽音「ですが……私は破魔の力もありませんし、花嫁なんて何かの間違いかと…」
 そこに依子と瑞葵が現れる。
瑞葵「何をしているんだ?」
花枝「それが」「羽音様が掃除をしようとなさるので」困った顔。
羽音「お世話になりました。おかげさまですっかり元気になりました」「実家から連れ出していただきありがとうございます」深く頭を下げる。
瑞葵「回復したのならよかった」
羽音「はい。ですから少しでも恩返しをしたくて。ここに置いていただけるよう、精一杯働きますので……」
瑞葵「俺はあなたにそのようなことを求めていない」ため息をつく。
 では自分は何を求められているのだろうと困惑する羽音。ぎゅっと箒を握り締める。その様子に瑞葵は呆れながら提案する。
瑞葵「ではまず、健康になってからだ」
羽音「もうすっかり、風邪は治りました」
瑞葵「医者の話では慢性的な栄養不足とのことだ。身体も細すぎる」「まずは滋養のあるものを食べ健康的な身体になれ」「依子、あとは頼む」
三人「いってらっしゃいませ」と見送る。
羽音(健康的?)箒を持って首を傾げる。

〇以降一ヶ月の様子をダイジェスト的に展開。※(・印はコミカルにテンポよく)
・卵、魚、あたたかいお味噌汁に驚く羽音。お代わりを薦められ、さらに驚く(こんなに食べられない)
・消化の良い物をと茶碗蒸しを作ってもらう。初めて食べるそれに目を輝かせる。
・瑞葵は仕事が早く終わると、手土産を持って帰ってくる。手土産を渡され、戸惑う描写(餌付けされている?)
・着物を仕立てるため花枝に身体を採寸される。花枝「もう少し、肉が必要です」羽音(皆さん揃って太らせようとしている)
・元気になって庭の花を摘んだり、花枝と一緒に依子から裁縫を教わる様子。
<このシーンは少し丁寧に描写>
 夜、眠る前に必ず花枝から「安眠のため」と西洋の「ハーブティ」を飲まされる。
 ハーブティを飲む羽音。それを確かめ部屋を出る花枝。羽音、帯の間から水晶を取り出し、額に当てる
羽音「お母様、おやすみなさい」
 抗いがたい眠気に襲われる。
羽音(環境が変わったせいか、夜になるとすぐに眠くなる)
 寝息を立てる羽音。その部屋に瑞葵が入ってきて手を握る。


〇一ヶ月後、
 縁側で冬物の着物支度を始める羽音。
羽音(沢山の着物を用意していただき、瑞葵様にはどう感謝申し上げてよいか)(お礼をしたいけれど、瑞葵様は忙しく、たまに一緒に食事をするぐらい……)
瑞葵「こんなところにいて、冷えないか?」
羽音「きゃぁ」突然話かけられ、びっくりする。
 振り返ると着物姿の瑞葵がいた。夕食を一緒に摂るときも軍服姿だったので、寛いだ姿を見るのは初めて。羽音、姿勢を正して三つ指付き頭を下げる。
羽音「お帰りなさいませ、瑞葵様。ご帰宅に気づかず申し訳ありません」「ご夕食はどうされますか?」
瑞葵「上司と夕食をしてきたから、必要ない。それに俺の帰りなどいちいち気にする必要はない」「ところで、何をしているんだ」
 羽音の隣に瑞葵が座る。羽音、戸惑いながら着物を見せる。
羽音「素敵な着物を私なんかのためにご用意いただきありがとうございます。今、羽織の綿を増やして、冬でも着られるようにしております」
瑞葵「そんなことしなくても、冬用の着物を買えばいいではないか」不思議そうに首を傾げる。
羽音「とんでもございません。これ以上お世話になるわけにはまいりません」
 首を振る羽音。その様子に呆れた瑞葵がため息を吐く。
瑞葵「あなたは俺の花嫁になるのだから、着物ぐらい好きなだけ買えばいい」「なんなら行商を家に呼ぶか」
羽音「そ、そんな! 私なんかに分不相応です! もう充分なほどよくしていただいております」恐縮して頭を下げる羽音。
瑞葵「俺も、充分に助けてもらっている」手の甲を見る。手袋をしている。
 羽音、おずおずと顔を上げる。
羽音「あの、お伺いしたいことがあるのですが」
瑞葵「なんだ?」
羽音「ど、どうして私が花嫁、なのでしょうか」
 緊張した顔で、でも思い切って聞く。瑞葵が目を見張る中、羽音話続ける。
羽音(この一ヶ月、ずっと不思議だった)「私には破魔の力はございません」(夢菜のほうが花嫁に相応しいはず)「どうして私なんかを花嫁に選ばれたのか、分かりません」
瑞葵「……俺がそう感じたから、それでは答えにならないか?」
羽音「そ、そんなことは」
瑞葵「羽音は俺の花嫁になるのが嫌なのか?」
 詰め寄るように至近距離で聞かれ、羽音の心臓が高鳴る。鼻先が付きそうな距離で見つめ合う二人。
羽音「い、嫌とか、そんな恐れ多い。ただ、私なんかが」赤い顔でうつむく。
瑞葵「どうして『私なんか』と言うのだ? この数分だけでも、何度もその言葉を聞いた」
羽音「それはっ、私が屑で、価値がなく、役立たずだからで……。申し訳ありません」
 消え入りそうになる声。反射的に謝る様子に、瑞葵が険しい顔をする。
瑞葵(羽音はすぐに謝る。それに自己肯定感が低い。これもすべて小花衣での環境のせいか)(俺がもっと早く見つけていれば)
 視線を自分の手袋に落とす。
瑞葵(どうして羽音が必要なのか、理由は明快だ)(ただ、彼女はその理由を受け止めてくれるだろうか)(恐れないか、気味悪がらないだろうか)(もし、俺の元から逃げ出せば――)
 無礼なことを聞いたと身を小さくする羽音の肩に瑞葵が触れる。
瑞葵「今は、必要だ、としか言えない」「それでは足りないか?」
羽音「い、いいえ。そのようなことは」「ただ、具体的に何をすれば、瑞葵様のお役に立てるのか分かれば、よりいっそうお勤めができるかと思いまして」
瑞葵「それなら、ずっとこの家にいてくれればいい」
羽音「えっ? それだけでよいのですか?」「ここに住まわせてもらえるだけで、私には過分です」
 下げていた頭を上げ、瑞葵を見つめる。あどけない表情に見惚れる瑞葵。自然と手が動き、羽音の髪に触れようとする。
花枝「あっ、おふたりともここにいましたか」「瑞葵様のお土産のお団子をお持ち致し……出直してきます」
 踵を返そうとする花枝。それを呼び止める瑞葵。
瑞葵「食べよう、持って来てくれ」
花枝「はい、かしこまりました」
 二人の前に、みたらし団子が置かれる。艶々とした餡に羽音の目が輝く。
瑞葵「まさか、みたらし団子を見たことがないとは言わないよな?」みたらし団子の櫛を手にする。
羽音「見たことはあります。両親と夢菜が食べていました」串に手を伸ばす。
瑞葵「では食べたことはないのか?」食べながら話す。
羽音「はい」
 美味しそうにみたらし団子を食べる羽音。瑞葵、自分の手を握り締める。
瑞葵(花枝がこなかったら、羽音に触れていた)「いい顔で笑うようになった。健康的な身体つきになったしな」羽音に向かって優しく微笑む。
瑞葵(どうしようもく触れたくなった)(あの感情はいったい……)
羽音「あ、ありがとうございます」(そういえば、最近よく笑っている気がする。霧生家にきて、私変わった?)

〇深夜、眠った羽音の部屋に忍び込む瑞葵。
 手袋を取り、羽音に触れる。
瑞葵(いつか本当のことを話さなくては)(そのとき、羽音は俺を受け入れてくれるのだろうか)