第二話 夜の峠と選定の儀
〇一話の続き、場所は夜の峠
戸惑う羽音。一度は落ち着きを取り戻した瑞葵がまた「うっ」と苦しみ出す。
(瑞葵は「龍」の力を強く引き継いだ「先祖返り」。破魔の力の根源は、巫女が体内に封じた龍の力に基づく。瑞葵の破魔の力は桁外れに強いが、ここ数年破魔の力を使うと「龍」に身体が近づく異変が起きていた。手の甲にも鱗があり手袋で隠している。今は破魔の力を使ったせいで、その鱗が腕にまで及んでいた)
羽音「大丈夫ですか? お水を汲んできます」
瑞葵「いや、その必要はない」
突然瑞葵に抱きすくめられる羽音。驚きで目を丸くして身体を強張らせる。
羽音「あ、あの……!」
瑞葵「これ以上何もしない。だから、俺を助けたいのであれば暫くこのままでいてくれ」
苦しそうな声を聞きながら、羽音はただ身体を固くさせる。
初対面の男性に抱きしめられ、戸惑う。瑞葵の鱗には気づいていない。
だけれどなぜか恐怖はなく、懐かしささえ感じる(羽音は龍を封じた巫女の生まれかわり)
羽音(命の恩人が、このままでいて欲しいというのなら……)
躊躇いながら瑞葵の身体に腕を回し抱きしめ、目を閉じる。
途端に辺りが淡く光りだし、瑞葵は目を見張る。鱗が消えていく。
瑞葵、身体の異変に意識を失う。
――翌朝、目が覚める瑞葵。だけど羽音はもういない。
瑞葵「名前さえ聞けなかった」「しかし、必ず見つける」「始祖の巫女の生まれ変わり――俺の花嫁」
唯一残されていた手ぬぐいを握り締め、瑞葵が立ち上がる。
〇峠から帰った羽音を叱責する小花衣一家
場所:小花衣家、夢菜の部屋。
時刻:早朝
義母と夢菜に帰りが遅いのを叱られ、土下座をする羽音。
義母「まったく、屑はどこまでも役立たずだね!」
羽音「申し訳ありません」
義母「隣街に行って着物を持って帰ってくるだけなのに、どうして帰りが朝になるんだい! いったいどこで遊んでいたのか! この大事な日に」
義母が近くにいた使用人から箒を奪い、羽音をぶつ。さらにそれを実父が奪い取る。
父「この役立たずが! 死んだお前の母親と一緒だ‼ その顔も声も忌々しい」
強く打たれ、羽音は身体を丸くしてそれに耐える。
羽音「申し訳ありません!」
畳につく手を、夢菜が踏みつける。
夢菜「今日は時間がないから、帰ったらしっかりと躾なおさないと。お母様、着物は無事なのですよね」
義母「ええ。急いで支度をしなくては。羽音、いつまでも這いつくばっていないで、さっさと夢菜の準備を手伝いなさい」
父「お前にできることは、ろくでなしの母親の代わりにこの家に尽くすことだけだ!」
羽音「……お父様、お母様のことを悪く言わなで……痛っ!」よりいっそう強く打たれる。
父「俺を父と呼ぶな。お前を娘と認めることはない!」
ひとしきり打たれ、父と義母が出ていく。羽音、顔を上げ着物を見る。
羽音(少し汚れていたけれど、土を払ったら綺麗になってよかった。汚れていたらこの程度の折檻では済まなかった)
熱と寝不足、過労でふらふらしながら、夢菜に振袖を着せる羽音。
羽音、夢菜の髪を梳く。
夢菜「痛いっ! 何すんのよ!」
羽音「す、すみません」
夢菜「わざとでしょう。私が選定の儀に行くのが妬ましくって、朝に帰ってきたあげく、髪もまともに結おうとしない」
羽音「そんなことありません」
夢菜「いいのよ、いいわけしなくても。屑だって小花衣の血を引くものね、妬んで当然だわ」
そう言いながら、夢菜は笑顔で羽音の手を取る。突然のことに戸惑う羽音。
夢菜、鏡台にあった簪で羽音の手の甲を突きさす。
羽音「ぐっ……」
唇を噛んで耐える羽音。手の甲から流れる血。
夢菜「龍を封じた巫女の血が流れているはずなのに、お前は本当に役立たずの屑ね。お前と同じ血が流れていると考えるだけで、おぞましいわ」
羽音「も、もうしわけ、ありません」
夢菜、簪を庭に投げる。目を丸くする羽音。簪は池の中に。
夢菜「あれを取ってきない」
羽音「で、でも……」
夢菜「できないなら、縛ったあげくに棒で打つわ。いえ、私の簪を無くしたのだから、火傷ぐらい負わせないとお母様が納得しないわね」
ぶるぶる震える羽音。夢菜は別の使用人を呼んで髪を結わせる。
夢菜「帰ってくるまでに見つけておくのよ!」
羽音「……かしこまりました」
羽音、池の中に入る。身支度ができた夢菜と義母、実父は霧生家へ向かう。
〇選定の儀
場所:霧生家
霧生の屋敷に着く三人。屋敷の大きさと豪華さに驚く。
夢菜「お母様、瑞葵様の花嫁に選ばれたら、私ここで住むことになるのよね」
義母「そうよ。きっと選ばれるわ。だって、夢菜はここにいる誰よりも綺麗だし、破魔の力も強い」
父「あぁ。夢菜が霧生家に嫁げば、小花衣の地位も確固たるものになる。さすが、私の娘だ」
着飾った多くの娘。その中を夢菜が進んでいく。
女性達が集められたのは、秋薔薇が咲き誇る庭。その中央に、瑞葵が現れる。瑞葵の美しさに息を呑む人々。瑞葵、挨拶を始める。
夢菜(選ばれるのは私。だって私はこの中で一番美しく、強い破魔の力を持っているのだもの)
挨拶を終えた瑞葵を取り囲む女性達。
瑞葵、夢菜と目が合うと驚いたように眉をあげ、まっすぐに夢菜のほうへ向かう。
夢菜「お母様! 瑞葵様が来られるわ」
義母「きっとお眼鏡にかなったのよ!」
父「夢菜、この好機を掴むんだ」
瑞葵、三人の前で足を止める。そうして夢菜の着物をじっと見る。
瑞葵「その着物は?」
夢菜「母の実家で仕立てたものです! この日のために誂えました」
瑞葵を見つめる夢菜。瑞葵は夢菜を一瞥すると父親に問う。
瑞葵「家名を教えて欲しい」
父「小花衣と申します。こちら私の娘で夢菜……」
瑞葵「娘は一人か?」
父の言葉を遮る瑞葵。冷たい視線。答えに窮する父の前に義母が立つ。
義母「はい! 私の娘は夢菜だけです。親の私が申し上げるのもおこがましいのですが、このように器量よしで、結界を張ることもできます。きっと瑞葵様のお役にたてるかと……」
瑞葵「そうか、分かった」
興味を無くし、踵を返し立ち去る瑞葵。執事らしき人に耳打ちすると、邸の中に入っていく。集まった人達、唖然とする。
執事「当主さまより、花嫁を見つけたと伝言を賜りました。よって、選定の儀を終わりといたします」
突然の閉会にどよめく人々。自分たちが選ばれたに違いないと喜ぶ夢菜、義母、父。
〇屋敷に戻ったあとの瑞葵の様子。
場所:自宅の一室。洋風の部屋。
ネクタイを緩める瑞葵。そこに現れる瑞葵の弟・蓮斗。
蓮斗「花嫁が見つかったと執事から聞きました」
口元を綻ばせているが目は笑っていない。真意の読めない顔。不穏な空気。
蓮斗「さっき話をされていた、綺麗なご令嬢ですか?」
瑞葵「いずれきちんと紹介する」
蓮斗「それは待ち遠しいですね。ところで最近、体調はどうですか? 結婚式までに龍化を止める方法が見つかるよう、僕も尽力いたします」
無言の瑞葵。ジャケットを脱ぎシャツの釦を外す。
蓮斗「では、失礼します」帰りかけて振り返る。「そういえば、若い女性の連続変死事件について進展はありましたか?」
瑞葵「ない」
蓮斗「そうですか」
部屋を出ていく。ひとりになった瑞葵はため息を吐きシャツを脱ぐ。
裸体の左胸、心臓あたりに鱗がある
瑞葵(破魔の力が強すぎて、龍化が進むとは皮肉だな)「俺には、彼女がどうしても必要なのだ」
〇一話の続き、場所は夜の峠
戸惑う羽音。一度は落ち着きを取り戻した瑞葵がまた「うっ」と苦しみ出す。
(瑞葵は「龍」の力を強く引き継いだ「先祖返り」。破魔の力の根源は、巫女が体内に封じた龍の力に基づく。瑞葵の破魔の力は桁外れに強いが、ここ数年破魔の力を使うと「龍」に身体が近づく異変が起きていた。手の甲にも鱗があり手袋で隠している。今は破魔の力を使ったせいで、その鱗が腕にまで及んでいた)
羽音「大丈夫ですか? お水を汲んできます」
瑞葵「いや、その必要はない」
突然瑞葵に抱きすくめられる羽音。驚きで目を丸くして身体を強張らせる。
羽音「あ、あの……!」
瑞葵「これ以上何もしない。だから、俺を助けたいのであれば暫くこのままでいてくれ」
苦しそうな声を聞きながら、羽音はただ身体を固くさせる。
初対面の男性に抱きしめられ、戸惑う。瑞葵の鱗には気づいていない。
だけれどなぜか恐怖はなく、懐かしささえ感じる(羽音は龍を封じた巫女の生まれかわり)
羽音(命の恩人が、このままでいて欲しいというのなら……)
躊躇いながら瑞葵の身体に腕を回し抱きしめ、目を閉じる。
途端に辺りが淡く光りだし、瑞葵は目を見張る。鱗が消えていく。
瑞葵、身体の異変に意識を失う。
――翌朝、目が覚める瑞葵。だけど羽音はもういない。
瑞葵「名前さえ聞けなかった」「しかし、必ず見つける」「始祖の巫女の生まれ変わり――俺の花嫁」
唯一残されていた手ぬぐいを握り締め、瑞葵が立ち上がる。
〇峠から帰った羽音を叱責する小花衣一家
場所:小花衣家、夢菜の部屋。
時刻:早朝
義母と夢菜に帰りが遅いのを叱られ、土下座をする羽音。
義母「まったく、屑はどこまでも役立たずだね!」
羽音「申し訳ありません」
義母「隣街に行って着物を持って帰ってくるだけなのに、どうして帰りが朝になるんだい! いったいどこで遊んでいたのか! この大事な日に」
義母が近くにいた使用人から箒を奪い、羽音をぶつ。さらにそれを実父が奪い取る。
父「この役立たずが! 死んだお前の母親と一緒だ‼ その顔も声も忌々しい」
強く打たれ、羽音は身体を丸くしてそれに耐える。
羽音「申し訳ありません!」
畳につく手を、夢菜が踏みつける。
夢菜「今日は時間がないから、帰ったらしっかりと躾なおさないと。お母様、着物は無事なのですよね」
義母「ええ。急いで支度をしなくては。羽音、いつまでも這いつくばっていないで、さっさと夢菜の準備を手伝いなさい」
父「お前にできることは、ろくでなしの母親の代わりにこの家に尽くすことだけだ!」
羽音「……お父様、お母様のことを悪く言わなで……痛っ!」よりいっそう強く打たれる。
父「俺を父と呼ぶな。お前を娘と認めることはない!」
ひとしきり打たれ、父と義母が出ていく。羽音、顔を上げ着物を見る。
羽音(少し汚れていたけれど、土を払ったら綺麗になってよかった。汚れていたらこの程度の折檻では済まなかった)
熱と寝不足、過労でふらふらしながら、夢菜に振袖を着せる羽音。
羽音、夢菜の髪を梳く。
夢菜「痛いっ! 何すんのよ!」
羽音「す、すみません」
夢菜「わざとでしょう。私が選定の儀に行くのが妬ましくって、朝に帰ってきたあげく、髪もまともに結おうとしない」
羽音「そんなことありません」
夢菜「いいのよ、いいわけしなくても。屑だって小花衣の血を引くものね、妬んで当然だわ」
そう言いながら、夢菜は笑顔で羽音の手を取る。突然のことに戸惑う羽音。
夢菜、鏡台にあった簪で羽音の手の甲を突きさす。
羽音「ぐっ……」
唇を噛んで耐える羽音。手の甲から流れる血。
夢菜「龍を封じた巫女の血が流れているはずなのに、お前は本当に役立たずの屑ね。お前と同じ血が流れていると考えるだけで、おぞましいわ」
羽音「も、もうしわけ、ありません」
夢菜、簪を庭に投げる。目を丸くする羽音。簪は池の中に。
夢菜「あれを取ってきない」
羽音「で、でも……」
夢菜「できないなら、縛ったあげくに棒で打つわ。いえ、私の簪を無くしたのだから、火傷ぐらい負わせないとお母様が納得しないわね」
ぶるぶる震える羽音。夢菜は別の使用人を呼んで髪を結わせる。
夢菜「帰ってくるまでに見つけておくのよ!」
羽音「……かしこまりました」
羽音、池の中に入る。身支度ができた夢菜と義母、実父は霧生家へ向かう。
〇選定の儀
場所:霧生家
霧生の屋敷に着く三人。屋敷の大きさと豪華さに驚く。
夢菜「お母様、瑞葵様の花嫁に選ばれたら、私ここで住むことになるのよね」
義母「そうよ。きっと選ばれるわ。だって、夢菜はここにいる誰よりも綺麗だし、破魔の力も強い」
父「あぁ。夢菜が霧生家に嫁げば、小花衣の地位も確固たるものになる。さすが、私の娘だ」
着飾った多くの娘。その中を夢菜が進んでいく。
女性達が集められたのは、秋薔薇が咲き誇る庭。その中央に、瑞葵が現れる。瑞葵の美しさに息を呑む人々。瑞葵、挨拶を始める。
夢菜(選ばれるのは私。だって私はこの中で一番美しく、強い破魔の力を持っているのだもの)
挨拶を終えた瑞葵を取り囲む女性達。
瑞葵、夢菜と目が合うと驚いたように眉をあげ、まっすぐに夢菜のほうへ向かう。
夢菜「お母様! 瑞葵様が来られるわ」
義母「きっとお眼鏡にかなったのよ!」
父「夢菜、この好機を掴むんだ」
瑞葵、三人の前で足を止める。そうして夢菜の着物をじっと見る。
瑞葵「その着物は?」
夢菜「母の実家で仕立てたものです! この日のために誂えました」
瑞葵を見つめる夢菜。瑞葵は夢菜を一瞥すると父親に問う。
瑞葵「家名を教えて欲しい」
父「小花衣と申します。こちら私の娘で夢菜……」
瑞葵「娘は一人か?」
父の言葉を遮る瑞葵。冷たい視線。答えに窮する父の前に義母が立つ。
義母「はい! 私の娘は夢菜だけです。親の私が申し上げるのもおこがましいのですが、このように器量よしで、結界を張ることもできます。きっと瑞葵様のお役にたてるかと……」
瑞葵「そうか、分かった」
興味を無くし、踵を返し立ち去る瑞葵。執事らしき人に耳打ちすると、邸の中に入っていく。集まった人達、唖然とする。
執事「当主さまより、花嫁を見つけたと伝言を賜りました。よって、選定の儀を終わりといたします」
突然の閉会にどよめく人々。自分たちが選ばれたに違いないと喜ぶ夢菜、義母、父。
〇屋敷に戻ったあとの瑞葵の様子。
場所:自宅の一室。洋風の部屋。
ネクタイを緩める瑞葵。そこに現れる瑞葵の弟・蓮斗。
蓮斗「花嫁が見つかったと執事から聞きました」
口元を綻ばせているが目は笑っていない。真意の読めない顔。不穏な空気。
蓮斗「さっき話をされていた、綺麗なご令嬢ですか?」
瑞葵「いずれきちんと紹介する」
蓮斗「それは待ち遠しいですね。ところで最近、体調はどうですか? 結婚式までに龍化を止める方法が見つかるよう、僕も尽力いたします」
無言の瑞葵。ジャケットを脱ぎシャツの釦を外す。
蓮斗「では、失礼します」帰りかけて振り返る。「そういえば、若い女性の連続変死事件について進展はありましたか?」
瑞葵「ない」
蓮斗「そうですか」
部屋を出ていく。ひとりになった瑞葵はため息を吐きシャツを脱ぐ。
裸体の左胸、心臓あたりに鱗がある
瑞葵(破魔の力が強すぎて、龍化が進むとは皮肉だな)「俺には、彼女がどうしても必要なのだ」



