軍龍の巫女嫁

第十四話 羽音が蓮斗に掴まり、瑞葵の龍化の原因を知る。

〇蓮斗に捕まった羽音
場所:帝都の端にある洋館の一室。部屋の奥三分の一ぐらいは幕がかかっている。薄暗い。
 羽音、目を覚ます。妙なうめき声と異臭。羽音は部屋の真ん中にいる。
羽音(ここは……?)(私、蓮斗さんに会って……)
 起き上がろうとして、首に鈍い痛みが走り、手で押さえる。
羽音(そうだ、突然首に痛みが走って、それから気を失って)
 扉が開き、廊下の光が差し込む。蓮斗のシルエット。
蓮斗「目が覚めたようですね、羽音さん」
羽音「蓮斗様、ここは……。あの、一体どうして」上体を起こして聞く。
蓮斗「灯をつけようか」
 扉付近のスイッチを押す。部屋が明るくなる。
 部屋の左右の壁には鎖がはめ込まれていて、その鎖には妖魔に取りつかれた(元)人間が繋がれている(以下、異形の妖魔と呼ぶ)。男の子以上に鬼のような異形になっている。目は黒目と白目が逆転、口から牙が生え涎をたらす。皮膚は血管が浮いて木の皮のように。額には角のようなもの
羽音「きゃぁぁぁ!」
 異形の妖魔達、羽音の声に反応したかのように両手を伸ばし、羽音を食べようとする。
蓮斗「羽音さん、そいつらを刺激しちゃだめだよ」「たっぷりの人間を与えているから、もう人に戻るのは無理だろうね」
羽音(そういえば、帝都近辺で多数の人が行方不明になっていると聞いた)「ど、どうしてそんなことを?」怯えながら聞く。腰が抜け座ったまま。
蓮斗「妖魔に取りつかれ、人を喰らい続けた人間って、恐ろしく強くなるんだ」「妖魔退治特能部隊の隊員五人がかりで一体をやっと滅せられるぐらいかな」
羽音「そ、そんな。彼らが帝都を襲ったら……どうしてそんな危険なことをしているのですか?」 
 青ざめる羽音。蓮斗怖い笑みを浮かべる。
蓮斗「そうだね、僕からの手紙を受け取った兄さんが来るまでもう少し時間がかかりそうだから、ちょっとおしゃべりでもしようか」

〇蓮斗の回想 ※文章は地の分、()内はそれに合わせた絵。
(幼い瑞葵と蓮斗の姿。瑞葵の周りには多くの大人がいるのに対し、蓮斗はひとりぼっち)
 僕が物心ついたときには、兄はもう特別な子供だった。両親は兄をとても大事にする一方で、破魔の力を持ちながらも攻撃力のない俺にはまったく興味を示さなかった。
(幼い蓮斗を叱責する男性のシルエット。倒れ込み、ぶたれた頬を抑える蓮斗)
 破魔の力を他者から他者へ送れる――そんなことが何の役に立つのだ。お前は霧生家の恥さらしだと罵られ、僕は育った。
 父親は難癖をつけ頻繁に僕をぶったし、与えられた部屋は屋敷の隅にある納屋だった。母も僕を疎んじ、食事を与えられない日もある。
(幼い蓮斗に食事を運ぶ瑞葵)
 そんな僕に唯一優しくしてくれたのが、兄だった。
 僕の怪我の手当をし、食事をこっそりと持ってきてくれた。そのたびに俺は兄に感謝した――なんてことはなく、ただただ兄が恨めしかった。
(背中合わせの瑞葵と蓮斗。瑞葵は綺麗な服。連斗はぼろぼろでみすぼらしい)
 打たれてボロボロになった僕に対し、栄養の行き届いた兄は健康そのものだ。
 着ている服だって、僕が継ぎはぎや染みだらけなのに対し、兄はいつも石鹸の香りのする綺麗なものを来ていた。
 同じ兄弟なのに。地面に這いつくばり憐れまれるのはいつも僕。いつかこいつを地面に伏し、踏みつけてやりたいと思った。
(瑞葵の身体に、鱗が出ている絵)
 兄が十八歳のとき、龍化の症状が現れた。
 でも、両親はそれを隠していた。霧生家次期当主が、始祖の巫女が封じた龍の姿になる可能性があるなんて、誰にも知られてはいけない。
(成人した瑞葵と蓮斗の姿)
 やがて両親は死に、兄が当主となると、僕の虐げられた生活は終った。
 それまでは外出先は学校のみだったが、自由にどこへでも行けるようになった。
 そこで僕は、長年温めていた、兄を当主から引きずり落とす計画を実行に移すことにした。

〇現在
羽音「計画?」
蓮斗「兄の龍化を進めることにしたんだ」「兄は次期当主の座を奪われると同時に、蔑まれる。龍となった兄を殺すのは、部下の妖魔退治特能部隊員だ」
羽音「では、瑞葵様の龍化は蓮斗様の策略だったの」「いったいどうやって」困惑の表情。
蓮斗「僕が破魔の力を他者に送るのは、見ただろう「本来は対象者に触れなくてはいけないんだけれど、あるものを媒介することによって離れていても破魔の力を送れるようにしたんだ」
羽音「もしかして、刀?」はっと気づいたような顔で。
蓮斗「羽音さんが気づくってことは、あの刀鍛冶やっぱりしゃべったんだな」「昨日、あのあたりで妖魔が出たって聞いたから、もしかして刀鍛冶と接触したかもと危惧していたんだ」「急いで羽音さんを攫ったのは正解だったな」にこにこと笑いながら話す。
 部屋の奥からうめき声が聞こえる。羽音、その方向を見る。
蓮斗「そうだ。この人もここにいるって教えてあげないとね」
 蓮斗、幕を取る。檻があり、その中に鎖に繋がれた異形の妖魔。それが手を伸ばし、ギリギリ届かない場所に猿轡をされた夢菜がいる。檻の大きさは縦横高さ二メートル四方ぐらい。
羽音「夢菜!」
夢菜「う、うぅぅぅ!!!」涙で顔はぐちゃぐちゃに。身体は震え顔は真っ青。
羽音「どうして夢菜がここに」
蓮斗「この屋敷一体に結界を張って欲しいって頼んだんだ。でも、こいつらを見ると怖がっちゃって」「で、お願いを聞いてくれないのなら、破魔の力を奪い取ったあげく、異形の妖魔の餌にしちゃうけどって言ったら……」
 蓮斗、檻の向こうから手を伸ばし、夢菜の頭を撫でる。
夢菜「ひっっ‼」
蓮斗「やっとお願いを聞いてくれたんだ」 夢菜に向かって凄むような笑みを見せる。
羽音「夢菜の破魔の力を奪い取る?」「もしかして、あの変死体は……」察して青ざめる。
蓮斗「あぁ、そのことか。彼女達から破魔の力を奪い、兄に送っていたんだ。皆、僕が次期当主になるって言ったら、喜んで協力してくれたよ」「そうだよね、夢菜?」夢菜を見て、はっと気づく。「あっ、そのままでは話せないから」
 蓮斗、手を伸ばし夢菜の猿轡を取る。
夢菜「助けて!! お願い、結界は張るから! ここから出して!!」
蓮斗「うん、頑張って張り続けてね。こいつらをここから出したら、僕が目的を達成する前に妖魔退治特能部隊が駆けつけて来ちゃう」
 夢菜が悲壮な顔で泣き叫ぶ。檻は小さくて妖魔が手を伸ばすと夢菜までの距離は十センチぐらい。
 羽音、夢菜を襲う異形の妖魔に手を伸ばし神気を使おうとも、神気が出ない。
羽音(まだ、神気を操れない。時間がかかるかもって神楽坂さんに言われたけど、そんな悠長なこと言っていられないっ)
蓮斗「へぇ。あれだけ虐げられていたのに、妹を助けようとするんだ」「いいね。美しい光景だ」にこにこ笑いながら拍手「反吐が出る」最後の一言で、顔を歪める。
 突然扉が開き瑞葵が現れる。刀を鞘から抜く。
瑞葵「蓮斗! やはりお前が‼」
蓮斗「思ったより遅かったですね。おや、今日はいつもと違う刀を持っている。もしかして、気づいちゃいました?」
瑞葵「俺に破魔の力を送り、龍化を促進していたのはお前だな。そのために何人犠牲にした。目的は当主の座か?」
蓮斗「そうだよ、破魔の力を送っても、受け取り手は気づかない」「龍化が進んだ兄さんは、最後は異形の妖魔相手に破魔の力を暴走させて龍になる。そして部下に滅せられる」「いい筋書きでしょう」
 蓮斗、話ながら壁に向かう。レバーのような物があり、それを下にすると異形の妖魔を捉えていた鎖が壁から外れる。
 解き放たれる異形の妖魔。
 ただし夢菜を閉じ込めていた檻と、その中にいる異形の妖魔を繋いでいた鎖はそのまま。
羽音、夢菜「きゃぁぁぁ‼」
瑞葵「羽音‼」羽音に向かって駆け出す