軍龍の巫女嫁

第十三話 山から帰ったふたりの様子と、暗躍する蓮斗

〇霧生家に帰宅。寝間着姿で廊下を歩く瑞葵。神楽坂に言われたことを思い出し、思案する。
<回想>
神楽坂「蓮斗様は、ご自身の送った破魔の力を、刀を経由して兄に送ることはできないかと尋ねられました」
蓮斗「僕は後方支援しかできないから」「それができたら、もっと効率的に妖魔退治特能部隊の役に立てると思って」
<現在>
瑞葵(どうして蓮斗はそんなことを頼んだんだ)(俺は何も聞いていない)(刀を新調したのは三年前)(龍化が進んだのも、その頃だ)廊下で立ち尽くす瑞葵。
 背後から羽音が声をかける。こちらも寝間着姿。手にお盆、そこには硝子製の徳利、硝子の杯がふたつ載っている。
羽音「瑞葵様、どうされましたか?」
瑞葵「羽音、いや、何でもない。羽音の部屋に行くところだ」
羽音「そうかと思い、お飲み物を用意いたしました」
瑞葵「酒?」
羽音「はい。依子さんと花枝さんが、瑞葵様はお疲れのようだからと仰って」「私の分も用意してくれたのですが……」
瑞葵「羽音も飲むのか?」盆の上のふたつの杯を見ながら言う。
羽音「何事も、ものは試しだと」
 瑞葵、依子と花枝の顔を思い浮かべる。その顔が「頑張れ」と握り拳を握っている。二人の意図(思惑)を察し、頭を抱える瑞葵。
羽音「どうされました?」
瑞葵「いや、とりあえず部屋へ行こうか」

〇羽音の部屋のソファに並んで座る。杯にお酒を注ぐ。それを手に取り、じっと見る羽音。
瑞葵「無理はしなくてもいいんだぞ」
 羽音、思い切って飲む。瑞葵、豪快な飲み方にぎょっとする
羽音「意外と、美味しいかもしれません」からになった杯を見ながら言う。
 瑞葵、目を瞬かせたあと、くっくと笑う。
瑞葵「一口で真っ赤になると思っていた。飲むのはいいが、今日はあと一杯だけにしておこう」
羽音「はい」恥ずかしそうな羽音。
 瑞葵、羽音の杯に少しだけ酒を注いであげる。そのあと、ベッドサイドのチェストに置かれた水晶を見る。それに気が付いた羽音が立ち上がり、水晶を手にする。
羽音「これを作ってくれたのは、神楽坂さんだったのですね」
瑞葵「眠る時、いつもそれを額に当てて『おやすみ』と言っていたな。母親の教えか?」
羽音「はい。馬車が事故に遭ったと聞き、父と一緒に病院へ駆けつけました」「母はまだ、意識がありました」「父が医師と話している間に、母が私にこれをくれ肌身離さず持つよう言いました」「額に当てるよういわれたのもその時です」ソファに座りながら話す。
瑞葵「そうか。だが、今は身に着けていなかった。それは俺のためか?」
 羽音頷く。手のひらにのせていた水晶を、目の前のテーブルに置く。
羽音「神気が強まれば、瑞葵様の龍化を防げるかもしれません」
瑞葵「だが、羽音の身体の負担になる可能性がある」
羽音「そのときは、そのときです」「始祖の巫女だって神気を使うときは水晶を持っていなかったのですから、少しぐらいなら大丈夫だと思います」
瑞葵「しかし…‥」困ったような表情
羽音「体調に異変があれば、すぐにお伝えいたします」「無理はしないと約束します」「だから……私は瑞葵様のお役に立ちたいのです」訴えかけるような表情ではっきり言う。
羽音(今まで、自分の考えを口にするなんてできなかった)(それどころか、意思を持つことさえ、忘れていた)(瑞葵様に会ってからの日々が、私を変えてくれた)
 瑞葵、驚いた顔。しかし次の瞬間には優しく微笑む。
瑞葵「強くなった。羽音、ではひとつ頼まれてくれないか?」
羽音「はい! 何でしょうか」
 瑞葵真剣な顔で羽音と向かい合う。そうして羽音の手を握る。
瑞葵「もし俺が龍になったら、封じて欲しい」
 言葉を失う羽音。
瑞葵(誰も傷つけたくない)(その中でも、羽音は……俺にとって特別)(唯一無二の、俺の――愛する花嫁だから)
羽音「あ、あの。それはどういう……」
瑞葵「万が一の話だ。さぁ、もう眠ろう」
 瑞葵、羽音の手を取ってベッドへ。ふたり並んで眠る。瑞葵が羽音を軽く抱きしめるような体勢。
瑞葵「今日はいつもより羽音が温かく感じる」
羽音「す、水晶を持っていないからでしょうか? それともお酒を飲んだから?」(顔が熱い! 今になって酔いがまわってきたのかも)
 瑞葵、羽音の肩に顔を埋める。
瑞葵(最近、急激に龍化が進んできた。それに蓮斗が関わっているのか?)
羽音(今日は普段と様子が違う気が……)(何かを恐れている?)
 羽音、そっと瑞葵の背中に腕を回す。
羽音(「封じて欲しい」とは、どういうこと?)(瑞葵様は万が一と仰っていたけれど)(最近、龍の鱗が広がってきている)(私が神気を使えるようになれば)
 瑞葵、少し身体を離して羽音を見つめる。優しく羽音の髪を撫でる。羽音、熱の籠った視線に胸をどきどきさせ、顔を赤らめる。
羽音「み、瑞葵様」
瑞葵「……眠ろう」
羽音「は、はい」
 再び瑞葵が羽音を抱きしめる。厳しい瑞葵の顔。
瑞葵(あとどれだけ、俺は人の姿でいられるのだろう)

〇小花衣家の庭で話す蓮斗と夢菜 
時刻:瑞葵と羽音が眠る数時間前。
状況:夢菜が両親に蓮斗を紹介し、一緒に食事をしたその帰り。蓮斗を見送るために、夢菜だけが庭へ出てきた。
 庭の中央あたりで話すふたり。
夢菜「蓮斗様、今日は来ていただきありがとうございます。両親もとても喜んでいました。
<回想>
父「霧生家の蓮斗様が夢菜と親しくしてくださっていたとは。本当にありがとうございます」お酌をする父
義母「夢菜は気立ても良く、また親からみても器量よしに育ちました」「さらに破魔の力も強いので、きっと素晴らしいお世継ぎを産めますわ」自慢げに笑う。
<現在>
蓮斗「僕も夢菜さんのご家族に会えて嬉しかったよ。今度は兄達も交えて一緒に食事をしよう」
夢菜「……ええ。でも蓮斗様、さっき話していたことは本当なのですか?」
蓮斗「さっき? あぁ。霧生家はゆくゆくは僕が継ぐって話かな」「そうだよ」
 蓮斗、意味深な笑みを夢菜に向けながら、夢菜の頬に手を当てる。
蓮斗「夢菜さんの協力があれば、僕が霧生家当主だ」
夢菜「では、私が霧生家当主の妻……」夢菜うっとりとした顔をする。
蓮斗「……では、そろそろ帰るよ。また明日」蓮斗、すっと冷めた表情。
夢菜「はい。また明日」蓮斗の表情に気づかず夢見心地。
 別れる二人。待たせていた車に乗る蓮斗。
蓮斗「兄は山小屋に行ったようだな」窓の外を見ながら、独り言。
 蓮斗たちが山小屋へ行く様子を隠れて見ていた蓮斗。
蓮斗「となると、刀の秘密に気が付いたかもしれない」「そう言えば、隊員が羽音さんが始祖の巫女の本を読んでいるっと言っていた」
 はっと身体を前のめりにする。
蓮斗(まさか羽音さんが神気を使える? 思った以上に龍化が進まないのはそのせいか?)「――決着をつける頃だな」
 厳しい顔の蓮斗。

〇翌日
 妖魔退治特能部隊の玄関を掃除する羽音。そこに蓮斗が現れる
蓮斗「羽音さん、おはよう」
 満面の笑み。でも目は笑っていない。
羽音「おはようございます。今日も来られた……うっ!」
 羽音、首の後ろを殴られ、気を失う。