軍龍の巫女嫁

第十一話 目覚めだす始祖の巫女の力

〇十話の続き
場所:瑞葵の執務室。ソファに並んで座る羽音と蓮斗。瑞葵は扉の前。
瑞葵「何をしている」
蓮斗「兄さん、お帰り。怪我人が出たって連絡があって来たんだ」笑顔
瑞葵「それで、どうしてここにいる。いつも用が終われば帰るだろう」
蓮斗「あぁ、ベストの釦が取れていて、羽音さんにつけてもらってた」「だよね、羽音さん」羽音を見る
羽音「は、はい。蓮斗様できました」ベストを手渡す。
蓮斗「ありがとう。うわぁ、上手だね」ベストを両手で持ち、広げながら褒める。
瑞葵「蓮斗、用がすんだら帰ったらどうだ? それともまだ怪我人がいるのか?」蓮斗を忌々しそうに見る。
蓮斗「久しぶりに会ったのにつれないね。僕、義理の姉ともっと話をしたいんだけど」不貞腐れた顔で立ち上がる。
蓮斗「羽音さん、ありがとう。今度はもっとゆっくり話をしよう」
 ベストを着ながら羽音に話かける。
羽音「は、はい…」不穏な空気に戸惑う羽音。
 蓮斗、帰っていく。瑞葵、軍服の上着をソファの背もたれにかけ、羽音の隣に座る。ふう、とシャツの襟を緩める。
羽音「外は暑いですよね。冷たい手ぬぐいを持ってきましょうか?」
瑞葵「いや、それはいい。それより蓮斗と何を話していた」
羽音「特に……ただ、なぜ私が花嫁か不思議がっていらっしゃいました」
瑞葵「羽音が始祖の巫女の生まれ変わりと言う話は?」
羽音「いえ! それについては何も。瑞葵様と誰にも言わないと約束しましたから」
瑞葵「それならいい」ほっとした様子。
瑞葵「ところで、神気について書かれた書物を読み進めているようだが、新たに分かったことは?」
羽音「龍の妖力を引き継いだ者が、破魔の力の使い手。破魔の力と妖魔の能力は、どちらも起源は『妖力』です」「その妖力をぶつけ合って、戦っています」「対して『神気』は別物ですから、それで妖魔と戦うことはできません」「ただ、妖力を封じることができます」
 羽音、瑞葵を見上げる。
羽音「ここまでは理解しましたが、夢菜のように結界を張るのも『神気』といえるのではないでしょうか?」
瑞葵「結界は妖魔を封じるものではない。その場にとどまらせるだけ。もしくは自分の周りに結界を張って妖魔を近寄らせないものだ。攻撃というより防御だな。妖魔を封じることができるのは『神気』を持つ巫女だけだ」
 羽音納得したように頷く。そうして自分の手を見る。
羽音「妖魔の封じ方についても書いていました。こうやって五芒星を……」
 指で五芒星を宙に描こうとしたとき、扉が開いて日下部が駆けこんでくる。
日下部「隊長! 妖魔に取りつかれたものが出ました!」
瑞葵「なに? 人を喰って力をつけた妖魔が、人間に取りつくことはあるが……この一年、そのような事例はなかった」立ち上がる瑞葵。
日下部「妖魔が力をつける前に我らが滅していましたからね。どこかで力をつけた妖魔が帝都付近に現れたようです」
瑞葵「場所は?」上着を羽織りながら聞く。
日下部「ここから来るまで一時間の山の中腹です」
瑞葵「行くぞ! 羽音は俺が帰るまでここに……いや、誰かに送り届けさせよう」足早に部屋を出ようとする瑞葵。
羽音「待ってください! 私も連れて行ってください」その後ろ姿に向かって羽音が叫ぶ

〇通報があった場所に駆けつける妖魔退治特能部隊。
場所:山の中間にある山小屋。
 車から降りる瑞葵、羽音、日下部。他にも車があり、五人ぐらいの隊員がいる。
 数体の妖魔がいて、その奥に十歳ぐらいの男の子がいる。男の子の顔は鬼のように変形している。
 日下部と部下が妖魔を倒すべく刀を抜き、向かっていく。その間をすり抜けるようにして瑞葵と羽音は男の子のもとへ。
羽音「ひっ」男の子の禍々しい姿に、羽音が口に手を当てる。
瑞葵「下がっていろ」
 男の子が飛び掛かってくる。爪が伸びていてその爪で引き裂こうとする。口元には牙。(猛獣が人に襲いかかるイメージ)
瑞葵「こうなっては、人間ともども妖魔を斬るしかない」苦渋の表情
羽音「ま、待ってください。あの男の子はまだ、正気を失っていないように思います!」男の子を指差す。
 瑞葵たちに飛び掛かろうとする男の子。しかし苦しそうに踏みとどまり、自制しようとする。だけれど再び飛び掛かってくる。
羽音「瑞葵様、男の子の動きを少しだけ止めることはできませんか?」
瑞葵「数分なら、可能かもしれない。それなりに負傷はするだろうが」「何をするつもりだ」
羽音「神気を持つ始祖の巫女は龍を封じました。龍の持つ力と妖魔の持つ力が同じ妖気なのであれば、私は妖魔を封じることができるはずです」(書物によると、龍の心臓に五芒星を描き、神気を注ぐことで封じられるはず、と書かれていた)
 羽音、一瞬不思議そうにする。
羽音(始祖の巫女は龍を封じたのに、どうして書物には「はず」と書かれていたのかしら?)
瑞葵「……分かった。無理はしないと約束をしてくれ。封じられないと判断したら斬る」
 険しい顔の瑞葵。覚悟を決めたかのように頷く羽音。
 瑞葵が刀を地面に刺す。そこから雷が地面を這い、男の子を感電させる。
羽音「瑞葵様、私は動きを止めてとお願いしたはず……」
瑞葵「だから弱い電流を流して気絶させた。数分で目を覚ますだろう」
 ふたり、男の子の傍らに膝を着く。瑞葵、男の子が着ていた着物の前をあけ、胸元を露わにする。そこに羽音が緊張した顔で手を当てる。
 羽音、指で男の子の胸に五芒星を描き、その上に手をかざす。
羽音(いつも瑞葵様の身体を暖めているときのように)(神気を身体の中で高めて)(それを手のひらに集中させる)
 ぼんやりと五芒星が光り、男の子の身体から黒い珠が浮かびあがる。手のひらに乗るサイズ(直径十センチぐらい)
 宙に浮かぶ黒い珠を、ふたりが呆然と見る。
羽音「これは……」
瑞葵「この珠の中に妖魔が圧縮されているように感じる」驚愕の表情。
羽音「では、封じることに成功したのでしょうか?」躊躇いながら聞く。
――隊員の制御も聞かず走り寄ってくる男の姿。年齢四十歳ぐらい。
男「藤吉!」気を失っている男の子の傍らに跪く。
瑞葵「気を失っているだけだ」
男「妖魔に取りつかれたと聞きました」「あなたは、妖魔退治特能部隊の方ですか?」「どうか弟子を助けてください」
 懇願する男。弟子が斬られると思い、弟子に覆いかぶさる。羽音の顔は見ていない。
羽音「あ、あの。おそらくもう、大丈夫だと思います」
 男の背中に手を当てるも、男は動こうとしない。
羽音「瑞葵様、ここから先については書物に書いていなくて」「この珠をどうしたらいいのでしょうか?」
 考え込む瑞葵。瑞葵は手にしていた刀を頭上に掲げる。
――ザッ
 刀を振る音。決死の表情で弟子を守る男。顔を覆う羽音。
瑞葵「もう大丈夫だ」
 黒い珠が二つに割れ、霧散していく。
瑞葵「羽音が封じた妖魔を、俺の破魔の力で斬った」「正直、こんな芸当ができるとは、予想外だ」ふぅ、と息を吐く。
 顔を上げる男
男「ありがとうございます」羽音の姿を見て息を呑む。
男「双羽(ふたば)?」※双羽は羽音の母親の名前。