誠のぺたんこな胸をしかとこの目で確認した俺は、目をパチクリさせながら掠れ声を漏らす。
「うっそ……本当に男だった……」
「それさ、僕のセリフなんだけど」
誠は頭を掻きながら、照れくさそうな笑みを浮かべた。
「本当のことを言うとさ、イラストみたいに桜舞い散る中でめっちゃ好みの女の子が泣いてるよ! と思って、下心満載でティッシュを探しました」
「そ、それは俺だって! 滅茶苦茶綺麗な女の子に声をかけられたから、あわよくば連絡先をもらって今後とかっ、色々と下心が!」
今度は誠が目をパチクリさせる。長い人差し指で、誠が自分の顔を差した。
「え……綺麗な女の子って、僕のこと?」
「そ、そうですよ!」
「えー……そうかあ」
小首を傾げる姿はやっぱり大変麗しい。だけど男だと判明した今、よく観察して見てみると確かに男だな……という部分が見え始める。
俺より大きな骨ばった手とか、オーバーサイズのシルエットのせいでわかりにくいけど実は広そうな肩幅もそうだし、なにより白い首の真ん中にある喉仏はどう考えても女の子のものじゃない。
なんでこの存在に気付かなかった、俺。さっきまでの自分がいかにパニクっていたのかがわかるというもんだ。
でも今回は許してほしい。だって、信じていた彼氏の手酷い裏切りをまざまざと目の当たりにした直後に、突然現れた美女に慰められたんだぞ? 次々に俺の身に起きたことは非現実感しかなかったから、興奮状態に陥らないほうが無理だと思う。
誠に続いて、俺も照れ笑いを浮かべると頭を掻く。
「俺、かなりジロジロ見てましたよね……? すごい綺麗な子だなって思って内心大興奮していて……うわ、恥ずかしいなあもうっ」
恥ずかしさのあまり、両手で顔をパタパタと扇いだ。
誠が顔を俺のほうに近付けてくる。
「え、マジ? もしかして僕、来の好みど真ん中だったりする?」
もうここまで暴露してしまった以上、今更隠す意味もない。俺は肯定の意を示す為、何度も小刻みに首を縦に振った。
なんなら男だとわかった今でも、全然恋愛対象として見られる。颯真くんに捻じ曲げられた性癖のお陰で、かつては俺の中にあった性別の垣根は最早存在していなかった。それがいいのか悪いのかは、俺にはわからない。
誠が口を大きな手で押さえながら、どこかソワソワした様子を見せる。
「マジかあー……。女に間違われたのは久々だったけど、ならまあいっかなー」
「え?」
突然、誠がスッと立ち上がった。ぽかんとしている俺の前に立つと、ゴツい指輪とダボッとしたハンドウォーマーみたいなものをはめている手を差し出してくる。
「あとさ、さっきから来ってば敬語だけど、俺も新入生だからタメ口にして」
「え、そうなの!? 大人っぽいからてっきり……!」
差し出された手をどうしたらいいのかわからなくて座ったまま見上げていると、誠が指先を「来て」とばかりにクイクイ動かした。……手を掴めっていう意味だよなあ、これ。
訳がわからないまま、とにかく右手を誠の手に重ねる。誠はニッと楽しそうな笑顔になると、一気に俺を引っ張り上げた。
「わっ」
誠が思ったよりも近くに立っていたので、ぶつかりそうになってバランスを崩す。後ろに避けてよろけそうになった俺の背中を、誠が「おっと」と軽々と支えた。
「高校に入ってぐんぐん背が伸びたからさ、女顔だけどさすがに間違われることはなくなってたんだよね」
「そ、そうなんだ……?」
「うん」
いたずらっ子のような笑みを浮かべている誠が、真上から俺を見下ろしている。誠の言う通りだった。隣に座っていた時は平均身長の自分と同じくらいにしか思えなかったのに、こうして目の前に立たれると全然違う。俺の首が痛くなるくらい見上げないと、顔を見合わすこともできないんだよ。
「滅茶苦茶背、高いね……?」
引き攣り笑いを浮かべながら言うと、誠が可愛らしく「んー」と首を傾げた。
「ギリ一九〇届かないくらい?」
「マジすか……羨ましい……」
それにしても、と誠の腰の位置を見る。ダボッとしたバンドTシャツのせいですぐにはわからなかったけど、かーなーり高い位置にある。これが、俺が誠の背の高さを認識していなかった理由だろう。誠は滅茶苦茶足が長い。モデルかよ……恐るべし、都会。
「ていうか、足長すぎでしょ……」
感嘆の息を吐くと、誠があははと楽しそうに笑った。
「否定はしないけどさ、なかなか長さがないから服を探すのも大変なんだよ?」
「羨ましすぎる悩みなんだけど」
俺はザ・平均身長で足の長さも並なので、裾をカットすることはあっても足りないと悩んだことは一度もない。
誠が器用に他を竦める。
「まあ、満員電車で息はしやすくはある」
「何それ、最高じゃないか」
「あは、まあね」
誠は明るい笑顔のまま、一歩後ろに下がる。すると、そういえば繋がれたままだった俺の右手も前に引っ張られて、よたよたと前に一歩踏み出した。誠は俺の手を掴んだままだ。え……と?
誠が懇願するような目で尋ねてきた。
「なあ、ここで会ったのも縁だと思うんだよね。僕たち性格の相性もよさそうだし、お互いの外見も気に入ってる同士じゃん? この後遊びに行って仲を深めてさ、大学での最初の友達になってよ」
「えっ、あ、い、いいの!?」
まさか遊びにまで誘ってもらえるとは考えてもいなかった。なんだそれ、嬉しすぎる。なので当然、即座に誠の提案に乗っかる。だって、だって俺も誠と仲良くなりたい一択だし!
笑顔を向けると、誠も嬉しそうな笑みを俺に向けてきた。
「やった! じゃあ行こ!」
「うん!」
こうして俺は誠に手を引っ張られたまま、町に繰り出すことになったのだった。
「うっそ……本当に男だった……」
「それさ、僕のセリフなんだけど」
誠は頭を掻きながら、照れくさそうな笑みを浮かべた。
「本当のことを言うとさ、イラストみたいに桜舞い散る中でめっちゃ好みの女の子が泣いてるよ! と思って、下心満載でティッシュを探しました」
「そ、それは俺だって! 滅茶苦茶綺麗な女の子に声をかけられたから、あわよくば連絡先をもらって今後とかっ、色々と下心が!」
今度は誠が目をパチクリさせる。長い人差し指で、誠が自分の顔を差した。
「え……綺麗な女の子って、僕のこと?」
「そ、そうですよ!」
「えー……そうかあ」
小首を傾げる姿はやっぱり大変麗しい。だけど男だと判明した今、よく観察して見てみると確かに男だな……という部分が見え始める。
俺より大きな骨ばった手とか、オーバーサイズのシルエットのせいでわかりにくいけど実は広そうな肩幅もそうだし、なにより白い首の真ん中にある喉仏はどう考えても女の子のものじゃない。
なんでこの存在に気付かなかった、俺。さっきまでの自分がいかにパニクっていたのかがわかるというもんだ。
でも今回は許してほしい。だって、信じていた彼氏の手酷い裏切りをまざまざと目の当たりにした直後に、突然現れた美女に慰められたんだぞ? 次々に俺の身に起きたことは非現実感しかなかったから、興奮状態に陥らないほうが無理だと思う。
誠に続いて、俺も照れ笑いを浮かべると頭を掻く。
「俺、かなりジロジロ見てましたよね……? すごい綺麗な子だなって思って内心大興奮していて……うわ、恥ずかしいなあもうっ」
恥ずかしさのあまり、両手で顔をパタパタと扇いだ。
誠が顔を俺のほうに近付けてくる。
「え、マジ? もしかして僕、来の好みど真ん中だったりする?」
もうここまで暴露してしまった以上、今更隠す意味もない。俺は肯定の意を示す為、何度も小刻みに首を縦に振った。
なんなら男だとわかった今でも、全然恋愛対象として見られる。颯真くんに捻じ曲げられた性癖のお陰で、かつては俺の中にあった性別の垣根は最早存在していなかった。それがいいのか悪いのかは、俺にはわからない。
誠が口を大きな手で押さえながら、どこかソワソワした様子を見せる。
「マジかあー……。女に間違われたのは久々だったけど、ならまあいっかなー」
「え?」
突然、誠がスッと立ち上がった。ぽかんとしている俺の前に立つと、ゴツい指輪とダボッとしたハンドウォーマーみたいなものをはめている手を差し出してくる。
「あとさ、さっきから来ってば敬語だけど、俺も新入生だからタメ口にして」
「え、そうなの!? 大人っぽいからてっきり……!」
差し出された手をどうしたらいいのかわからなくて座ったまま見上げていると、誠が指先を「来て」とばかりにクイクイ動かした。……手を掴めっていう意味だよなあ、これ。
訳がわからないまま、とにかく右手を誠の手に重ねる。誠はニッと楽しそうな笑顔になると、一気に俺を引っ張り上げた。
「わっ」
誠が思ったよりも近くに立っていたので、ぶつかりそうになってバランスを崩す。後ろに避けてよろけそうになった俺の背中を、誠が「おっと」と軽々と支えた。
「高校に入ってぐんぐん背が伸びたからさ、女顔だけどさすがに間違われることはなくなってたんだよね」
「そ、そうなんだ……?」
「うん」
いたずらっ子のような笑みを浮かべている誠が、真上から俺を見下ろしている。誠の言う通りだった。隣に座っていた時は平均身長の自分と同じくらいにしか思えなかったのに、こうして目の前に立たれると全然違う。俺の首が痛くなるくらい見上げないと、顔を見合わすこともできないんだよ。
「滅茶苦茶背、高いね……?」
引き攣り笑いを浮かべながら言うと、誠が可愛らしく「んー」と首を傾げた。
「ギリ一九〇届かないくらい?」
「マジすか……羨ましい……」
それにしても、と誠の腰の位置を見る。ダボッとしたバンドTシャツのせいですぐにはわからなかったけど、かーなーり高い位置にある。これが、俺が誠の背の高さを認識していなかった理由だろう。誠は滅茶苦茶足が長い。モデルかよ……恐るべし、都会。
「ていうか、足長すぎでしょ……」
感嘆の息を吐くと、誠があははと楽しそうに笑った。
「否定はしないけどさ、なかなか長さがないから服を探すのも大変なんだよ?」
「羨ましすぎる悩みなんだけど」
俺はザ・平均身長で足の長さも並なので、裾をカットすることはあっても足りないと悩んだことは一度もない。
誠が器用に他を竦める。
「まあ、満員電車で息はしやすくはある」
「何それ、最高じゃないか」
「あは、まあね」
誠は明るい笑顔のまま、一歩後ろに下がる。すると、そういえば繋がれたままだった俺の右手も前に引っ張られて、よたよたと前に一歩踏み出した。誠は俺の手を掴んだままだ。え……と?
誠が懇願するような目で尋ねてきた。
「なあ、ここで会ったのも縁だと思うんだよね。僕たち性格の相性もよさそうだし、お互いの外見も気に入ってる同士じゃん? この後遊びに行って仲を深めてさ、大学での最初の友達になってよ」
「えっ、あ、い、いいの!?」
まさか遊びにまで誘ってもらえるとは考えてもいなかった。なんだそれ、嬉しすぎる。なので当然、即座に誠の提案に乗っかる。だって、だって俺も誠と仲良くなりたい一択だし!
笑顔を向けると、誠も嬉しそうな笑みを俺に向けてきた。
「やった! じゃあ行こ!」
「うん!」
こうして俺は誠に手を引っ張られたまま、町に繰り出すことになったのだった。



