遠くの方に見える山々が紅葉で色鮮やかになる頃、愛野(あや)にはとある悩みがあった。
 それは自分の進路について。
 今まで未来のことを考えたりせずに過ごしていたせいか、自分がこれからどうしていきたいのか分からない。いや、正確に言えば見て見ぬふりをして考えないようにしていたと言った方が正しい気がする。
 高校卒業後は大学へ進学をするのか、それとも社会人として就職をするのかはっきりと決めることができずにいた。
 高校二年生の後半と言えば、そろそろ本気で将来について考えないと来年の自分が大変な思いをしてしまうかもしれない。
 逃げてばっかりではいられないのは分かっている。でも、どうしたらいいのだろうか。
「未来のことなんて考えたくない。呑気でいたいよ」
 なにかをしようという気には慣れずに、ベットに寝転がりながら本音をこぼす。
 学校はどちらかと言うと嫌いな方だけど、今をなんとなく過ごしていれば勝手に進級していった小中学生に戻りたい。
 クラスの周りの人たちはすごいな。友達の佳凪も将来どうしていくのか大体決めることができているみたいだし。
――それなのに、私は......
「にゃー」
 私の近くで唯一の癒やしと言えるほどの天使の声が聞こえてきた。
「あっ、ルナどうしたの?」
 私から少し距離が離れた場所に、前足を胸の下に畳み込み、くつろぐようにしてじっとこちらを見つめてくる。
 黒と白がまだらに溶け合うような毛並み。鋭く澄んだ黄色と黄緑が少し混じったようなの瞳で美しい。
 私の猫様こと、ルナちゃんだ。
「ルナ、こっちへおいで」
 名前をもう一度呼ぶと、私の方へためらいもなく真っ直ぐ向かい始める。
 最近、名前を呼ぶと来てくれるようになって、その姿を見る都度に嬉しくなっていた。
 あっという間に床からベットへの段差など軽々とジャンプして私の元へと吸い寄せられるようにたどり着く。
 お顔を撫でてあげると気持ちよさそうにしながらゴロゴロ鳴き、次第にゴロンと寝転がった。
「にゃーん」と高めの声で鳴く。
 この姿が愛らしく、撫でてあげると嬉しそうだった。
 ルナは去年の夏に飼うことにしたときは子猫だったけれど、ここ一年で結構大きくなってその成長を見るのも楽しみのひとつだった。
「にゃー」
 私の方へ擦り寄ってくる。
 ルナなりに私を元気づけようとしてくれているのだろうか。
「いつもありがとね、ルナ」
 私の言う言葉を理解しているのか分からないけれど、感謝の言葉を伝えたかった。
 今まで猫派か犬派か問われると、どちらかと言うと猫の方が好きだったけれど、ルナを飼うようになってからは断然猫派になってしまった。それくらいにルナの虜になっている。
 ルナのおかげで癒しになったし少し元気になれた気がした。今日はもう、自分の未来について考えるのはやめて、そろそろ寝ようと思う。明日また考えればいい。
 スマホで明日のアラームをセットしてから電気を消して布団に入る。
 すると、すぐにルナが布団の中へ入ってきてくれて気持ちよくて温かい。
 眠気に促されるまま二人で静かに眠りについた。