関西も東京の生徒も、夏休みはテンション上がんねんな。
終業式終わった途端、みんな雄叫び上げてたもんな。
なんか親近感、湧くな。
かばんにプリント入れながら、窓の向こう側の廊下を眺めてたら、ふと思った。
三年生の教室見上げる癖も、新学期までお預けやな。
つい、廊下を歩く人影を見てまう。友だち同士と肩組みながら帰る人もおれば、急いどんのか、全速力で走って帰る人もおる。
その中に、先輩がおらへんかを探してまう。
先輩、もう教室出たかな。
結弦先輩が何組なんか、当然知ってる。けど、一回も教室まで会いに行ったことはない。
三年生の教室まで行くなんてできへん。
行ったら、先輩に迷惑かかるかもしれへんから。
会いたいけど……昼休みと放課後だけにしとかなな。
「しつこい男は嫌われるし」
それに今年の夏は特別やもん。俺の中で歴代、一位の夏になる予感がするわ。
ちょっとくらい先輩に会えんでも、我慢できる。
クラスメイトに手を振って教室を出た。
三年生とは校舎が違うから、階段ですれ違うこともない。
ささやかな寂しさにも慣れたけど、つい、姿を探してまう。
廊下を歩いてへんかなとか。こっちの校舎の特別室、使わへんのかな、とか。
もしかして俺に会いに──
「なーんてな。そんなんあり得へんわ」
靴を履き替えながら、一人でボケツッコミしてたら、誰かがこっちを見てる気がした。
顔を上げたら──
「し、椎名先輩っ」
「よお、やっと出てきたな。けど、『あり得へんわ』って、誰に言ってたんだ?」
俺の周りに誰かおらへんか、探すみたいにキョロキョロしてる。
「だ、誰もおらへん。先輩こそ、ここで何してるん?」
「俺は、凪を待ってた」
──凪を待ってた……?
今、先輩は、凪って言った? 待ってたって?
『凪を待ってた』って……ほんまに?
ヤマビコみたいに、その言葉だけが頭の中で何回も響いてる。
「二年は終わるの遅いな。俺の担任なんて、顔出したあと『解散』ってそれだけだった」
かばんの紐、肩にかけたまま、壁にもたれて俺に向かって話してる。
ちょっと待って。
やっと、脳が追いついた!
「せ、先輩! もしかして、俺を待っててくれたん?」
靴をつっかけたまま慌てて近づこうとしてたら──
「うわっ!」
かかとがひっかかって、前のめりに倒れかけた。
地面に激突……を覚悟して目ぇ瞑ったのに、痛ない。
恐る恐る目を開けたら、結弦先輩がしっかり受け止めてくれてた。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて飛び退いたら、今度は自分の靴のかかとを踏んで後ろにぐらつく。
「危ない!」
先輩が叫んだ瞬間、俺の手首を掴んで、先輩が引き寄せてくれた。
胸にぶつかる寸前で止められた瞬間、心臓が喉までせり上がりそうになる。
「うわっ、ごめん!」
勢いのまま、結弦先輩に倒れ込んでたもた。
先輩に触れへんようにしたのに、もう、俺の体はすっぽりと先輩の腕の中にあった。
「おっと、大丈夫か? お前、今日はいつも以上に落ち着きないな」
「ご、ごめんなさい……」
落ち着きもなくなるって。だって、俺を待ってたって言うんやもん。動揺せえへん方がおかしいって。
「さっきから敬語だしな」
し、しまった。俺、敬語で謝ってたわ。
「そ、それは、ほら。俺っておぼっちゃまやから、敬語が身に付いてるねん」
つま先を地面に打ちつけて、靴を履きながら言い訳した。
「そ、それより先輩、俺を待っててくれたのなんで? 用事?」
普通の質問したつもりやのに、結弦先輩の眉が片方だけクイッて上がった。『何を言ってるんだ?』って、言ってるみたいに。
「凪が送ってくれた『行きたいとこリスト』。あれ、見てたから。マックでも行って、相談しようと思っただけ」
クルッと背中を向けて、言われた言葉に耳を疑った。
今、俺、お誘い受けた? 結弦先輩が、俺に「マック行こって」言った?
「行くのか、行かないのか、どっちだ?」
肩越しに振り返ったその顔、反則や。ちょっと唇、尖らせて俺の返事待ってるの、ずるい。
「い、行く! 待って。先輩っ」
叫びながら背中を追いかけたら、門のとこで先輩の足が止まった。俺の足も慌ててブレーキをかける。
「どないしたん? 急に止まって──」
「千加良《ちから》……何でこんなところにいるんだ」
「やっと出てきた。結弦ちゃん、遅いー」
……誰、この子。
先輩のこと、『ちゃん』付けして呼ぶなんて。しかも、めっちゃ美少年やん。
「聞いたことに答えろ。お前、学校は? 終業式って今日じゃないのか」
結弦先輩が腕組みして見下ろしてる。けど、見つめてる目は、めっちゃ優しい。
「俺の中学は昨日で終わり。だから私服着てるだろ? 今日からお盆まで、結弦ちゃんちで泊まるから」
な、なんやて? 結弦先輩の家に泊まる!? 聞きづてならへん言葉やん。
「はあ? そんな話し聞いてないぞ」
「えー。だって俺の母さんがおばさんに話してるからって。俺の荷物、結弦ちゃんの部屋にもう置かせてもらったから」
この、有無も言わせへん勢いのある話し方。中学生みたいやけど、侮れんわ。
「ったく。お前は何でいつもいきなりなんだ。俺、一応受験生だぞ」
先輩、今、さらっと受験生って言った。
俺には、はっきり言わへんかったのに……この『チカラ』って子には言えるんや。
何やろ。ぽかぽか陽気やのに、急に寒なってきた。
心臓に穴が空いたみたいに息苦しなって、鼓動が息切れしてる。
無意識にため息を吐いた瞬間、美少年と目が合った。
「……結弦ちゃん、この人、友だち?」
指差して言われた。少年、人を指さしたらあかんって、教わらへんかったか?
ムッとした気持ちを顔に出さへんよう、俺はひきつり笑いを返した。
「ああ、凪は俺の後輩。凪、こいつは小瀬千加良。俺の従兄弟」
なんや、従兄弟か……
そういや前に先輩、中学生の従兄弟がおるって言ってた──あ、もしかして、バスケしてるんこの子?
「……何、あんた。人のことジロジロ見てきて。っていうか、高校生にもなって自己紹介もできないんですか」
えらい口の利き方やな。それに、先輩が紹介しただけで、そっちも自己紹介してへんやん。お互い様やろ──って思ったけど、俺は大人やからそんなことで怒らへん。
「あ、ごめんな。君があんまりきれいな男の子やから、つい見惚れてもたんや。俺は、浦島凪っていうねん。高二な」
「関西人か。どうりで口調が軽いわけだ」
口調が軽い? 俺のどこが──って、今さらか。
こんなこと、前にも言われてる。けど、久々やから凹むな。
「千加良! お前、何だ、その口の利き方は。……ごめんな、凪。こいつ、生意気で」
先輩がめっちゃ焦ってる。いつも落ち着いてるから、この顔はレアやな。
「ええねん、気にしてへんから。えっと、千加良君? ごめんな、俺、この話し方しかできひんねん。ほんま、ごめんやで」
そうや、関西弁は俺の誇りや。そう思わせてくれたんは、結弦先輩の笑顔やねんから。
椎名結弦っていう光を浴びた瞬間、俺は強なったんや。
「生意気なのはこの人だろ。結弦ちゃんに敬語、使ってないし」
あいたた……確かに。そこ、突かれたらなんも言われへん。
「ほんまやな。けど、これは癖っていうか、訳があって──」
「もういいです。あなたの話は興味ないから。俺は結弦ちゃんに会いに来たので。なあ、結弦ちゃん。今からじいちゃんの練習見に行くんだろ。俺も、今日は部活ないから一緒に行く」
あー、……東京に来たばかりのこと、思い出してまうな。
中三のとき、俺の毎日はこんな言葉ばっかりやった。
そういえば、この子も中学生か……そういうお年頃なんかな。
あ、あかん。根暗なこと考えてもた。体に力も入ってるし、手のひらもいつの間にか、グーになってたわ。
どないしたんやろ。俺、思った以上に、打たれ弱わい?
従兄弟君が先輩の腕持って、甘えるみたいに揺さぶってる。
可愛いけど、なんか、胸がモヤモヤする。これも、落ち込んでる原因かもしれへんな。
せっかく今から、結弦先輩と一緒にマクド行って、ボンバーのみんなに初めましての挨拶して──夢見たいな夏休みの始まりやったのに。
「夏休みなのに部活がないって、昔とは全然違うな。俺が中学のときなんて、夏休みも昼メシ持参で一日中あったけど」
「そんなことしたら、親がクレーム言う時代だよ。スパルタはもう古いの」
「わかった、わかった。けど、俺らこれからマック行くんだ。そのあとにボンバーと合流」
「あ、俺もマック行く! 新発売のバーガー食べたかったし」
いいでしょって、また結弦先輩の腕、ぎゅって掴んでる。
……俺、帰った方がええな。久しぶりに会ったみたいやし。それに、先輩、楽しそうな顔してる。
「椎名先輩、ほんなら俺、帰るわ」
「え、何で帰るんだ? 凪もマック行くだろ」
凪も……か。その『も』は、従兄弟君も一緒に行くん、確定なんや。
「……でも、俺は──」
明らかに従兄弟君から牽制されてるのに、行かん方がええんちゃうん?
ほら、今も結弦先輩の腕の陰から、俺のことじっと見てるやん。
従兄弟君の目から発射された『じっとりビーム』が、俺の眉間をロックオンしてる。
「凪を連れて行くってみんなに話してるんだ。それとも、用事でも思い出したか?」
「ないっ。用事なんか一個もないで。うん、行く……」
何で来るんって、従兄弟君の空気がヒリついてる。
この子、結弦先輩のこと大好きやねんな。せやから俺は邪魔なんや。
けど、俺も先輩と一緒におりたいねん。
今日から夏休みで、俺は今までみたいに学校で結弦先輩と会われへん。
従兄弟君は、夏休みのほとんど、先輩の家でお泊まりなんやろ? 朝、昼、夜って一日中、先輩とおれるんやろ?
ほんなら、ちょっとだけ俺にも、楽しみわけてな。
約束したん、こっちが先やったってことで今日は勘弁して。
心の中でよーさん、謝っとこ。ほんで、俺も従兄弟君と仲良くなれるように祈っとこ。
終業式終わった途端、みんな雄叫び上げてたもんな。
なんか親近感、湧くな。
かばんにプリント入れながら、窓の向こう側の廊下を眺めてたら、ふと思った。
三年生の教室見上げる癖も、新学期までお預けやな。
つい、廊下を歩く人影を見てまう。友だち同士と肩組みながら帰る人もおれば、急いどんのか、全速力で走って帰る人もおる。
その中に、先輩がおらへんかを探してまう。
先輩、もう教室出たかな。
結弦先輩が何組なんか、当然知ってる。けど、一回も教室まで会いに行ったことはない。
三年生の教室まで行くなんてできへん。
行ったら、先輩に迷惑かかるかもしれへんから。
会いたいけど……昼休みと放課後だけにしとかなな。
「しつこい男は嫌われるし」
それに今年の夏は特別やもん。俺の中で歴代、一位の夏になる予感がするわ。
ちょっとくらい先輩に会えんでも、我慢できる。
クラスメイトに手を振って教室を出た。
三年生とは校舎が違うから、階段ですれ違うこともない。
ささやかな寂しさにも慣れたけど、つい、姿を探してまう。
廊下を歩いてへんかなとか。こっちの校舎の特別室、使わへんのかな、とか。
もしかして俺に会いに──
「なーんてな。そんなんあり得へんわ」
靴を履き替えながら、一人でボケツッコミしてたら、誰かがこっちを見てる気がした。
顔を上げたら──
「し、椎名先輩っ」
「よお、やっと出てきたな。けど、『あり得へんわ』って、誰に言ってたんだ?」
俺の周りに誰かおらへんか、探すみたいにキョロキョロしてる。
「だ、誰もおらへん。先輩こそ、ここで何してるん?」
「俺は、凪を待ってた」
──凪を待ってた……?
今、先輩は、凪って言った? 待ってたって?
『凪を待ってた』って……ほんまに?
ヤマビコみたいに、その言葉だけが頭の中で何回も響いてる。
「二年は終わるの遅いな。俺の担任なんて、顔出したあと『解散』ってそれだけだった」
かばんの紐、肩にかけたまま、壁にもたれて俺に向かって話してる。
ちょっと待って。
やっと、脳が追いついた!
「せ、先輩! もしかして、俺を待っててくれたん?」
靴をつっかけたまま慌てて近づこうとしてたら──
「うわっ!」
かかとがひっかかって、前のめりに倒れかけた。
地面に激突……を覚悟して目ぇ瞑ったのに、痛ない。
恐る恐る目を開けたら、結弦先輩がしっかり受け止めてくれてた。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて飛び退いたら、今度は自分の靴のかかとを踏んで後ろにぐらつく。
「危ない!」
先輩が叫んだ瞬間、俺の手首を掴んで、先輩が引き寄せてくれた。
胸にぶつかる寸前で止められた瞬間、心臓が喉までせり上がりそうになる。
「うわっ、ごめん!」
勢いのまま、結弦先輩に倒れ込んでたもた。
先輩に触れへんようにしたのに、もう、俺の体はすっぽりと先輩の腕の中にあった。
「おっと、大丈夫か? お前、今日はいつも以上に落ち着きないな」
「ご、ごめんなさい……」
落ち着きもなくなるって。だって、俺を待ってたって言うんやもん。動揺せえへん方がおかしいって。
「さっきから敬語だしな」
し、しまった。俺、敬語で謝ってたわ。
「そ、それは、ほら。俺っておぼっちゃまやから、敬語が身に付いてるねん」
つま先を地面に打ちつけて、靴を履きながら言い訳した。
「そ、それより先輩、俺を待っててくれたのなんで? 用事?」
普通の質問したつもりやのに、結弦先輩の眉が片方だけクイッて上がった。『何を言ってるんだ?』って、言ってるみたいに。
「凪が送ってくれた『行きたいとこリスト』。あれ、見てたから。マックでも行って、相談しようと思っただけ」
クルッと背中を向けて、言われた言葉に耳を疑った。
今、俺、お誘い受けた? 結弦先輩が、俺に「マック行こって」言った?
「行くのか、行かないのか、どっちだ?」
肩越しに振り返ったその顔、反則や。ちょっと唇、尖らせて俺の返事待ってるの、ずるい。
「い、行く! 待って。先輩っ」
叫びながら背中を追いかけたら、門のとこで先輩の足が止まった。俺の足も慌ててブレーキをかける。
「どないしたん? 急に止まって──」
「千加良《ちから》……何でこんなところにいるんだ」
「やっと出てきた。結弦ちゃん、遅いー」
……誰、この子。
先輩のこと、『ちゃん』付けして呼ぶなんて。しかも、めっちゃ美少年やん。
「聞いたことに答えろ。お前、学校は? 終業式って今日じゃないのか」
結弦先輩が腕組みして見下ろしてる。けど、見つめてる目は、めっちゃ優しい。
「俺の中学は昨日で終わり。だから私服着てるだろ? 今日からお盆まで、結弦ちゃんちで泊まるから」
な、なんやて? 結弦先輩の家に泊まる!? 聞きづてならへん言葉やん。
「はあ? そんな話し聞いてないぞ」
「えー。だって俺の母さんがおばさんに話してるからって。俺の荷物、結弦ちゃんの部屋にもう置かせてもらったから」
この、有無も言わせへん勢いのある話し方。中学生みたいやけど、侮れんわ。
「ったく。お前は何でいつもいきなりなんだ。俺、一応受験生だぞ」
先輩、今、さらっと受験生って言った。
俺には、はっきり言わへんかったのに……この『チカラ』って子には言えるんや。
何やろ。ぽかぽか陽気やのに、急に寒なってきた。
心臓に穴が空いたみたいに息苦しなって、鼓動が息切れしてる。
無意識にため息を吐いた瞬間、美少年と目が合った。
「……結弦ちゃん、この人、友だち?」
指差して言われた。少年、人を指さしたらあかんって、教わらへんかったか?
ムッとした気持ちを顔に出さへんよう、俺はひきつり笑いを返した。
「ああ、凪は俺の後輩。凪、こいつは小瀬千加良。俺の従兄弟」
なんや、従兄弟か……
そういや前に先輩、中学生の従兄弟がおるって言ってた──あ、もしかして、バスケしてるんこの子?
「……何、あんた。人のことジロジロ見てきて。っていうか、高校生にもなって自己紹介もできないんですか」
えらい口の利き方やな。それに、先輩が紹介しただけで、そっちも自己紹介してへんやん。お互い様やろ──って思ったけど、俺は大人やからそんなことで怒らへん。
「あ、ごめんな。君があんまりきれいな男の子やから、つい見惚れてもたんや。俺は、浦島凪っていうねん。高二な」
「関西人か。どうりで口調が軽いわけだ」
口調が軽い? 俺のどこが──って、今さらか。
こんなこと、前にも言われてる。けど、久々やから凹むな。
「千加良! お前、何だ、その口の利き方は。……ごめんな、凪。こいつ、生意気で」
先輩がめっちゃ焦ってる。いつも落ち着いてるから、この顔はレアやな。
「ええねん、気にしてへんから。えっと、千加良君? ごめんな、俺、この話し方しかできひんねん。ほんま、ごめんやで」
そうや、関西弁は俺の誇りや。そう思わせてくれたんは、結弦先輩の笑顔やねんから。
椎名結弦っていう光を浴びた瞬間、俺は強なったんや。
「生意気なのはこの人だろ。結弦ちゃんに敬語、使ってないし」
あいたた……確かに。そこ、突かれたらなんも言われへん。
「ほんまやな。けど、これは癖っていうか、訳があって──」
「もういいです。あなたの話は興味ないから。俺は結弦ちゃんに会いに来たので。なあ、結弦ちゃん。今からじいちゃんの練習見に行くんだろ。俺も、今日は部活ないから一緒に行く」
あー、……東京に来たばかりのこと、思い出してまうな。
中三のとき、俺の毎日はこんな言葉ばっかりやった。
そういえば、この子も中学生か……そういうお年頃なんかな。
あ、あかん。根暗なこと考えてもた。体に力も入ってるし、手のひらもいつの間にか、グーになってたわ。
どないしたんやろ。俺、思った以上に、打たれ弱わい?
従兄弟君が先輩の腕持って、甘えるみたいに揺さぶってる。
可愛いけど、なんか、胸がモヤモヤする。これも、落ち込んでる原因かもしれへんな。
せっかく今から、結弦先輩と一緒にマクド行って、ボンバーのみんなに初めましての挨拶して──夢見たいな夏休みの始まりやったのに。
「夏休みなのに部活がないって、昔とは全然違うな。俺が中学のときなんて、夏休みも昼メシ持参で一日中あったけど」
「そんなことしたら、親がクレーム言う時代だよ。スパルタはもう古いの」
「わかった、わかった。けど、俺らこれからマック行くんだ。そのあとにボンバーと合流」
「あ、俺もマック行く! 新発売のバーガー食べたかったし」
いいでしょって、また結弦先輩の腕、ぎゅって掴んでる。
……俺、帰った方がええな。久しぶりに会ったみたいやし。それに、先輩、楽しそうな顔してる。
「椎名先輩、ほんなら俺、帰るわ」
「え、何で帰るんだ? 凪もマック行くだろ」
凪も……か。その『も』は、従兄弟君も一緒に行くん、確定なんや。
「……でも、俺は──」
明らかに従兄弟君から牽制されてるのに、行かん方がええんちゃうん?
ほら、今も結弦先輩の腕の陰から、俺のことじっと見てるやん。
従兄弟君の目から発射された『じっとりビーム』が、俺の眉間をロックオンしてる。
「凪を連れて行くってみんなに話してるんだ。それとも、用事でも思い出したか?」
「ないっ。用事なんか一個もないで。うん、行く……」
何で来るんって、従兄弟君の空気がヒリついてる。
この子、結弦先輩のこと大好きやねんな。せやから俺は邪魔なんや。
けど、俺も先輩と一緒におりたいねん。
今日から夏休みで、俺は今までみたいに学校で結弦先輩と会われへん。
従兄弟君は、夏休みのほとんど、先輩の家でお泊まりなんやろ? 朝、昼、夜って一日中、先輩とおれるんやろ?
ほんなら、ちょっとだけ俺にも、楽しみわけてな。
約束したん、こっちが先やったってことで今日は勘弁して。
心の中でよーさん、謝っとこ。ほんで、俺も従兄弟君と仲良くなれるように祈っとこ。

