シュガースポットまで待って

 千加良君やタカシさんたちと別れて、体育館外のベンチにおったら、ジャージ姿の倉持先輩がこっちにやって来た。
「よお、凪君。応援ありがとう」
「キャプテン先輩、お疲れさまです」
 倉持先輩が座れるスペース開けながら、俺の目は結弦先輩を探してた。

「結弦ならどっかの大学の監督に捕まってるぞ」
 大学の監督? それって、もしかして推薦とか? その疑問をキャプテン先輩に聞こうと思ったけど、やめた。
 結弦先輩が話してくれるまで待っとこ。
「そうですか。ほんなら、俺、ここで待ってます」
 トートバッグを抱えたまま試合の余韻に浸ってたら、倉持先輩にほっぺたを突かれた。

「凪君、ありがとうな。結弦をコートに戻してくれて」
 倉持先輩が真顔で俺を見てる。
「椎名先輩も言うてたけど、俺は何もしてません。先輩が頑張ったからです」
 ほんまにそう思ってるのに、倉持先輩は、「わかってないな」って笑った。

「試合は負けたけど、なんか気分はいいな」
 両腕を頭の後ろで組んで空を見上げるから、俺もつられて空を見た。
 冬の青は夏と違って、太陽の光が邪魔せえへんから空が透明感あるな。
「キャプテン先輩、空、きれいですね」
 見上げながら言ったら、せやな、って、またぎこちない関西弁で返してくれた。
 そのまま倉持先輩と色んな話をした。
 関西弁や、ゲイで冷やかされたこと。手首を切ってしまったことも。
 電車で結弦先輩を見て、その笑顔に救われて学校に行けたこと。先輩の怪我のこと知ったとき、俺が決意したことなんかも。

 結弦先輩の笑顔は、俺の宝物やねん──その言葉を口にした辺りで、俺はまた、睡魔に襲われてもた。
 うとうとしてても、結弦先輩の話しするのが嬉しくて、たどたどしく話してた。
「あれ? 凪君……もしかして寝てる?」
 ……寝てませんよ。ちょっと、目、(つむ)ってるだけ……で。 
 結弦先輩、早よ、こーへんかな。早く、お疲れさまって……言いたい。

「おい。倉持、それ、どういうことだ」
 ……あ、結弦先輩の声や。けど、何で怒ってるん?
「よお、遅かったな。凪君、寝てしまったみたいだ」
「寝てしまったって、どうしてお前の肩で凪が寝てるんだ」
「どうしてって言われても、応援で疲れたのかも。いやー、寝顔が可愛いな」
 ……可愛いって。照れるやん、キャプテン……先輩。
「お前が凪を愛でることは許さない。そこ、変われ!」 
「はいはい。凪君が起きたら可哀想だ、そっと動かせよ」
「ったく、油断も隙もないな。前にも言ったけど、凪に手は出すなよ」
「わかってるって。今日の凪君の顔見たら、俺が何を言っても無駄ってわかる。バスケして、凪君を笑顔にするってお前の宣言通りになったしな」
 ……結弦先輩、そんな宣言してたんや。俺は先輩のそばで笑顔を見れたら、ずっとニコニコやで。
「ほら、結弦。凪君、動かすなよ」
 ……なんや、ゴソゴソしとうな。あ、結弦先輩の匂いや。肩もちょうどええ高さやな。
「倉持、俺のジャンパー、凪にかけてくれ」
 ……あ、ぬくい。そうか、これ、布団の中で夢みてるんや……俺、もう寝てもたんやな。

「試合、終わってしまったな」
「ああ、そうだな」
「進路も決まってあとは、卒業式だけか」
「だな」
 ……卒業──
 そうや、結弦先輩、もうすぐ卒業してまうんや……いややな、寂しい。

「先輩、卒業せんといて……」

 ……言うてもた。でも、これは夢やから許してもらお。我儘は夢でしか言わへんから。
「卒業せんといてやって。この子、マジで可愛いな。なあ、結弦。ちょっと触ってもいいだろ?」
「あかん!」
 ……ふふふ、結弦先輩の関西弁、可愛いなぁ。
「おー、こわ。冗談も通じないくらいベタ惚れか……仕方ない、お邪魔虫は退散するか。じゃあな、お二人さん」
 ……足音、遠なってる。キャプテン先輩、どっか行った? 夢やのにリアルやな。

「ったく。あいつ、どこまで本気なんだ。凪を渡すわけないだろ。ずっと、俺のもんだ」
 ……うわ。ええ夢や。先輩がそんなん、言うてくれるなんて。

「結弦先輩、好きや……」

 ……夢やから言いたい放題や。体も、もっとひっついたろ。
 先輩の肩に、おでこ、ぐりぐりってしたった。
「凪、それ、起きてるときに言ってくれよ。うわ言じゃなくてさ。それで、こうやって、くっついてて」
 体が結弦先輩の方にぎゅって引き寄せられてる。めっちゃ、あったか──
 ……あれ。唇に柔らかいの、なんか当たってる。甘い息もそばにあって……これって、キス? 俺、夢で初キスしてるやん。
 鼓動が耳の奥でトクトク言ってる。夢やのに、苦しいくらいドキドキしてる。

「……あかんよ、先輩。まだ、高校生やで。早い……って」

「まだ早いって。じゃ、いつならいいんだ? ったく、むにゅむにゅ言って。凪、可愛いな。早く、俺と同じ気持ちまで熟してくれよ」
 ……熟すってなに? あ、バナナかな。あれ、すぐエネルギーになるもんな。

「……今度、バナナ、持っていくな、先輩」

 肩越しに先輩が笑ろてるのが伝わる。
 めっちゃ幸せな夢や……