「お通夜みたいな顔して唐揚げ食べんな」
おとんの声で、箸につまんでた唐揚げをぽとって落としてもた。
「……はい」
「な、なんや。『はい』って、不気味やな。小遣いならやれへんで」
そんな作戦、小学生ちゃうねんからもーせえへんわ。
まさやんと別れて部屋にこもっとたら、おかんの、「ご飯!」て怒鳴り声で渋々食卓に着いた。けど、箸がいっこも進めへん。
大好物の唐揚げをもってしても、俺の胃袋は冬眠したみたいに静かや。
茶碗、一杯分のご飯、無理やり詰め込んでまた自分の部屋に戻った。
雰囲気出したなって部屋の電気点けんと、真っ暗な中で膝を抱えてみた。
「これはあかん。ますます暗なるな」
パチッて電気、点けたら眩しすぎて目をぎゅって瞑って手でも顔を覆った。
ゆっくり手を外して目を開けたら、俺を責めるように、部屋の隅っこで転がってるショップバックが見えた。
紺色のラインが入った靴下が、袋の口からちらっと顔出してる。それ見てたら目の奥が熱くなってきた。
スポーツショップで結弦先輩と会ってから三日経っても、あのときの冷たい背中が頭から消えへん。
ハンガーの動く音も、まだ耳に残ってるみたいや。
関西弁からかわれたり、ゲイって言われたときより今のんが辛い。
やっと先輩を見つけて、同じ高校で一緒に過ごせるまでになったのに。
ちょっとずつ、笑顔も見れるようになったのに……
「この間のは、こたえたな」
靴下から逃げるようにベッドに飛び込んで、タオルケットを頭からかぶった。
誰かから拒絶されるんは辛い。けど、自分は悪ないって思ったことなんやったら、堂々と立ち向かえる。
関西弁もゲイバレも、俺は悪いって思ってない。
「そりゃ、ちょっと心、折れて手首にやらかしてもたけど」
そやけど、今回の結弦先輩のことは、俺が絶対に悪い。何でかわからへんけど、俺が悪いってことだけはわかる。
「謝りたいけど、原因を先に確かめな。ちゃんと先輩の顔見て……」
ミノムシみたいにタオルケットにくるまってたら、机の上でスマホが鳴った。
まさやんかな……
今朝、早うに出発するって言うてたから、家に着いたんかな。
ミイラ状態のまま机まで歩いてスマホを見た瞬間、心臓が一瞬で凍った気がした。
結弦先輩や……
何の用事? 俺、怒られるんかな?
「怒られるんはマシや。けど、縁切るって言われたら……」
怖い。スマホ、見るんが怖い。
「このまま、スルーしよか」
スマホを持ちかけた手を引っ込めた。
あかん。ビビリな俺が蘇ろうとしてる。
こっち来たばっかのとき、下向いてしか歩けへんかった俺が戻ってきよった。
「……ちゃんと向き合わな。こんなん、ほんまの俺ちゃう」
恐る恐るスマホに手を差し出したら、また、ピコーンってメッセージがきた。
「れ、連チャンで送ってきた。は、早よ見な」
し、深呼吸しよ。いや、先に風呂入るか……
タオルケットに隠れながら、スマホに目を落とした。
「ちゃんとせな、失礼やな。……ええい!」
スマホを握りしめて、片目づつそおっと開ける。さあ、次は読むで。
えいや! って、画面をタップした。
結弦: 足の具合、どうだ。もし、歩いて平気だったら映画でも行かないか。
笑顔のトイプードルのスタンプが、メッセージと一緒に届いていた。
タオルケットが、するするって背中を滑って床に落ちていく。
足が石膏で固められたみたいに動かへん。
頭の中で、スタンプのトイプが、嬉しそうに駆け回ってる。
ボーッとスマホを見たら、ロック状態になってもた。震える指で解除したら、笑顔のトイプが目に飛び込んきた。
うそ……これ、お誘い?
「え、ほんまに俺あて? キャプテン先輩とかと間違えとんちゃう?」
もう一回、ゆっくり読んだら。俺宛ってわかるワードを見つけた。
足の具合聞いてくれてる。歩いて平気やったらって……
間違いない。結弦先輩が俺を誘ってくれてる。
「そんなん、行くに決まってるやん! 関西弁の先生があかんって言うても行くって」
凪: いきまふ!
あ、焦って間違うてもた。
『すいません、間違え──』うわっ、もう既読ついてもた。ちょ、先輩、早いわ。
結弦: いきまふって、今、流行ってるのか。
凪: 流行ってへん。間違えただけやで。
結弦: そっか。倉持もそうやって書いてたからな。
キャプテン先輩、俺と同じ匂いがすんな。今度、冷やかしたろ。
あれ、俺。さっきは地球の裏側まで落ち込んどったのに、今は空に浮いてるみたいに浮かれてる。
「ふんふふ……あかん、あかん。鼻歌歌っとう場合ちゃう。返事せな」
凪: 今度、キャプテン先輩に確認してみる。椎名先輩、何の映画見るん?
結弦: ホラーだけど、凪、平気か?
ホラー! いっちゃん苦手や。けど、馬鹿正直にそんなことは言わへんで。
凪: 平気やで。どっちかっていうと、好きな方。
結弦: それならよかった。じゃ、明日は? バイトある?
よかったー。バイト、明後日からや。
凪: ない! 行く、這ってでも行くから!
速攻、返信したら、秒でゾンビのスタンプが返ってきた。しかも、めっちゃ笑顔の。
もしかして、映画ってゾンビ系? 一番、あかんやつや。
けど、これは、ヘマした俺に神様が同情してくれたんやと思う。
自分から誘われへん、ヘタレな俺にチャンスくれたんやな。
こんな最高のご褒美、逃すわけにはいかんへん。
「こーなったら、ゾンビでもバンビでも、ドンとこいや!」
おとんの声で、箸につまんでた唐揚げをぽとって落としてもた。
「……はい」
「な、なんや。『はい』って、不気味やな。小遣いならやれへんで」
そんな作戦、小学生ちゃうねんからもーせえへんわ。
まさやんと別れて部屋にこもっとたら、おかんの、「ご飯!」て怒鳴り声で渋々食卓に着いた。けど、箸がいっこも進めへん。
大好物の唐揚げをもってしても、俺の胃袋は冬眠したみたいに静かや。
茶碗、一杯分のご飯、無理やり詰め込んでまた自分の部屋に戻った。
雰囲気出したなって部屋の電気点けんと、真っ暗な中で膝を抱えてみた。
「これはあかん。ますます暗なるな」
パチッて電気、点けたら眩しすぎて目をぎゅって瞑って手でも顔を覆った。
ゆっくり手を外して目を開けたら、俺を責めるように、部屋の隅っこで転がってるショップバックが見えた。
紺色のラインが入った靴下が、袋の口からちらっと顔出してる。それ見てたら目の奥が熱くなってきた。
スポーツショップで結弦先輩と会ってから三日経っても、あのときの冷たい背中が頭から消えへん。
ハンガーの動く音も、まだ耳に残ってるみたいや。
関西弁からかわれたり、ゲイって言われたときより今のんが辛い。
やっと先輩を見つけて、同じ高校で一緒に過ごせるまでになったのに。
ちょっとずつ、笑顔も見れるようになったのに……
「この間のは、こたえたな」
靴下から逃げるようにベッドに飛び込んで、タオルケットを頭からかぶった。
誰かから拒絶されるんは辛い。けど、自分は悪ないって思ったことなんやったら、堂々と立ち向かえる。
関西弁もゲイバレも、俺は悪いって思ってない。
「そりゃ、ちょっと心、折れて手首にやらかしてもたけど」
そやけど、今回の結弦先輩のことは、俺が絶対に悪い。何でかわからへんけど、俺が悪いってことだけはわかる。
「謝りたいけど、原因を先に確かめな。ちゃんと先輩の顔見て……」
ミノムシみたいにタオルケットにくるまってたら、机の上でスマホが鳴った。
まさやんかな……
今朝、早うに出発するって言うてたから、家に着いたんかな。
ミイラ状態のまま机まで歩いてスマホを見た瞬間、心臓が一瞬で凍った気がした。
結弦先輩や……
何の用事? 俺、怒られるんかな?
「怒られるんはマシや。けど、縁切るって言われたら……」
怖い。スマホ、見るんが怖い。
「このまま、スルーしよか」
スマホを持ちかけた手を引っ込めた。
あかん。ビビリな俺が蘇ろうとしてる。
こっち来たばっかのとき、下向いてしか歩けへんかった俺が戻ってきよった。
「……ちゃんと向き合わな。こんなん、ほんまの俺ちゃう」
恐る恐るスマホに手を差し出したら、また、ピコーンってメッセージがきた。
「れ、連チャンで送ってきた。は、早よ見な」
し、深呼吸しよ。いや、先に風呂入るか……
タオルケットに隠れながら、スマホに目を落とした。
「ちゃんとせな、失礼やな。……ええい!」
スマホを握りしめて、片目づつそおっと開ける。さあ、次は読むで。
えいや! って、画面をタップした。
結弦: 足の具合、どうだ。もし、歩いて平気だったら映画でも行かないか。
笑顔のトイプードルのスタンプが、メッセージと一緒に届いていた。
タオルケットが、するするって背中を滑って床に落ちていく。
足が石膏で固められたみたいに動かへん。
頭の中で、スタンプのトイプが、嬉しそうに駆け回ってる。
ボーッとスマホを見たら、ロック状態になってもた。震える指で解除したら、笑顔のトイプが目に飛び込んきた。
うそ……これ、お誘い?
「え、ほんまに俺あて? キャプテン先輩とかと間違えとんちゃう?」
もう一回、ゆっくり読んだら。俺宛ってわかるワードを見つけた。
足の具合聞いてくれてる。歩いて平気やったらって……
間違いない。結弦先輩が俺を誘ってくれてる。
「そんなん、行くに決まってるやん! 関西弁の先生があかんって言うても行くって」
凪: いきまふ!
あ、焦って間違うてもた。
『すいません、間違え──』うわっ、もう既読ついてもた。ちょ、先輩、早いわ。
結弦: いきまふって、今、流行ってるのか。
凪: 流行ってへん。間違えただけやで。
結弦: そっか。倉持もそうやって書いてたからな。
キャプテン先輩、俺と同じ匂いがすんな。今度、冷やかしたろ。
あれ、俺。さっきは地球の裏側まで落ち込んどったのに、今は空に浮いてるみたいに浮かれてる。
「ふんふふ……あかん、あかん。鼻歌歌っとう場合ちゃう。返事せな」
凪: 今度、キャプテン先輩に確認してみる。椎名先輩、何の映画見るん?
結弦: ホラーだけど、凪、平気か?
ホラー! いっちゃん苦手や。けど、馬鹿正直にそんなことは言わへんで。
凪: 平気やで。どっちかっていうと、好きな方。
結弦: それならよかった。じゃ、明日は? バイトある?
よかったー。バイト、明後日からや。
凪: ない! 行く、這ってでも行くから!
速攻、返信したら、秒でゾンビのスタンプが返ってきた。しかも、めっちゃ笑顔の。
もしかして、映画ってゾンビ系? 一番、あかんやつや。
けど、これは、ヘマした俺に神様が同情してくれたんやと思う。
自分から誘われへん、ヘタレな俺にチャンスくれたんやな。
こんな最高のご褒美、逃すわけにはいかんへん。
「こーなったら、ゾンビでもバンビでも、ドンとこいや!」

