「凪! いつまでダラダラ寝てるの。バイトもバスケも行かないなら宿題でもしなさい! 足痛くてもできるやろ!」
おかんの声や……うるさいな、今日、仕事休みやったっけ?
タオルケット、エアコン、無制限に寝れる時間。最高のアイテムを堂々と使える夏休みやのに、それを邪魔するとは、おかんでも許されへんで。
無視や。無視して寝たろ。
タオルケットを頭からかぶった瞬間、スマホが鳴った。
誰や……俺の至福の時間を邪魔する、新たな敵は。
半分閉じた目で画面を見た瞬間、ベッドから飛び起きた。
「ま、まさやん! え、もしかしてこっち来た!?」
まさやん: 凪、起きてるか? 昨日、こっちに来て、今、親戚の家や。法事終わったから会わへんか? 東京、案内して。
「するする。やった、まさやんに会える!」
さっきまでの眠気がいっぺんに覚めた。
凪: おはよーさん。起きてたで。会う会う、どこ行きたい? 待ち合わせ、どこやったらわかる?
まさやん: どこでもええで。指定してくれたら、従姉妹に教えてもらうし。
「従姉妹か。まさやんも従姉妹、おるんやな」
俺のおとんもおかんも一人っ子やから、俺には従姉妹、おれへんから羨ましいわ。
そういえば千加良君、捻挫マシになったかな。早よ治ったらええな。
怪我してから二週間。抜糸も済んだのに、おかんも結弦先輩も俺に外出禁止令出すし。
バスケの練習、見にきたらあかんとか、バイトも休めとか。
「タカシさんらにも長いこと、会うてへんな。みんな、夏バテしてへんかな」
俺、口ではみんなのこと言うてんのに、頭ん中で考えてるんは結弦先輩のことや。
「薄情ものやな。けど……」
先輩に会いたい……顔見られへん夏休みが嫌いになるわ。
ピコーン
あ、まさやんから返事きた。
まさやん: 凪、渋谷行きたい。サッカーのグッズ見たいから。
「でた。サッカーオタク。ほんまに、まさやんはサッカーが好きやな」
でもそうか。スポーツショップに行くんやったら、俺も下見しとこ。
「店はあそこや。ずっと前から決めてたし」
あそこやったらサッカーのフロアもあるから、ちょうどええわ。
顔洗って着替えてから、太もも見てみた。
抜糸したとき、先生は走ったりせーへんかったら出かけてええって言ってくれたもんな。
「普通にモモ上げて歩くんは、前から大丈夫やったし。バイトも来週からシフト戻したし。順調に回復しとるな」
太ももの外側、縦にスパッと入った傷口は、糸で縫うたから少し盛り上がってる。
ギリ、半パンで隠れるから助かったわ。
丸見えやったら、怪我した理由、聞かれて答えるとき面倒やもんな。
「よし、出かける準備、できた──と、思ったらまだやった」
大切なアレ、忘れたらあかんやん、俺。
結弦先輩からもらったワックス握りしめて、もう一回、洗面所に戻った。
「なくなったら、イヤやから、ちょこっとだけにしとかなな」
米粒三個くらい分、指先に取って毛先につけた。それだけで、先輩の匂いに包まれてる気がする。
「おかーん、まさやんと渋谷に行ってくる」
……あれ? 聞こえへんかったんかな?
もー、靴履いてもたのに、また脱ぐん、面倒やな。けど、声かけて行かな、もっと面倒なことになる。
靴脱ぎかけたら、バタバタとおかんが走って来た。
「ちょ、おかん。怖いってそれ」
顔にパックしたまま向かってくるから、ホラーみたいでビビるわ。
「ましゃやん、こっちひてるんや」
『まさやん、こっち来てるんや』って、言いたいらしいな。
顔、動かされへんのに無理して喋らんでええわ。今のセリフ、俺以外は解読不能やで。
「そうそう。せやから、ちょっと渋谷案内してくるわ」
「はんないっへ、へらそうひ」
あ……今のは、『案内って、偉そうに』やな。
「ええやん。俺のがちょこっと、東京に詳しいねんから。ほな、行ってくるわ」
「ひっへらっひゃーひ」
今のは『行ってらっしゃい』──って、もうええか。おかんネタは尽きひんな。
マンションのエントランスから外に出たら、ジリジリって太陽光線の攻撃が半端ない。
「あっつー。キャップかぶった方がええけど、ヘアスタイル崩れたら嫌やしな」
結弦先輩仕様の俺は、キャップ要らずや。
ふんふふーん、ふんふふーん──あ、また鼻歌、勝手に出てた。
周りちゃんと見とかな。また、キャプテン先輩みたいに、盗み聞きされたら困る。
俺の美声は、ただで聴かせたらもったいない。結弦先輩、以外はな。
駅までいつもはチャリで行くけど、傷口、開いたらあかんからそれは禁止。
けど、最近は歩く方が好きやな。
髪の毛、乱れへんし。ゆっくり歩いとったら、先輩がおんぶしてくれたん、思い出すから。
背中に俺を背負って、家まで送ってくれてたのに俺、寝てもてんな……。
結弦先輩の声が心地よくて、体もゆらゆら揺れてゆりかごみたいやった。いや、ゆりかごに乗った記憶なんてないけどな。
けど、あれこそ、極上のひと時って言うんやろな。
有名ブランドの高級ベッドでも、先輩の背中には勝たれへん。
俺、最近、妄想が激しいな。
ほんでも、楽しいからええねん。先輩に嫌われへんかったら、それ以上は望まへん。
望んだら、あかんねん……
俺は、俺の使命を全うするだけや。先輩の百点満点の笑顔を取り戻すって言う。
そやけど、夏休みみたいに会われへん日が続いたら、結弦先輩が足りひんからヤバい。
こうやって歩いとっても何しとっても、恋しさで思考が勝手にトリップしてまうねん。
おかんの声や……うるさいな、今日、仕事休みやったっけ?
タオルケット、エアコン、無制限に寝れる時間。最高のアイテムを堂々と使える夏休みやのに、それを邪魔するとは、おかんでも許されへんで。
無視や。無視して寝たろ。
タオルケットを頭からかぶった瞬間、スマホが鳴った。
誰や……俺の至福の時間を邪魔する、新たな敵は。
半分閉じた目で画面を見た瞬間、ベッドから飛び起きた。
「ま、まさやん! え、もしかしてこっち来た!?」
まさやん: 凪、起きてるか? 昨日、こっちに来て、今、親戚の家や。法事終わったから会わへんか? 東京、案内して。
「するする。やった、まさやんに会える!」
さっきまでの眠気がいっぺんに覚めた。
凪: おはよーさん。起きてたで。会う会う、どこ行きたい? 待ち合わせ、どこやったらわかる?
まさやん: どこでもええで。指定してくれたら、従姉妹に教えてもらうし。
「従姉妹か。まさやんも従姉妹、おるんやな」
俺のおとんもおかんも一人っ子やから、俺には従姉妹、おれへんから羨ましいわ。
そういえば千加良君、捻挫マシになったかな。早よ治ったらええな。
怪我してから二週間。抜糸も済んだのに、おかんも結弦先輩も俺に外出禁止令出すし。
バスケの練習、見にきたらあかんとか、バイトも休めとか。
「タカシさんらにも長いこと、会うてへんな。みんな、夏バテしてへんかな」
俺、口ではみんなのこと言うてんのに、頭ん中で考えてるんは結弦先輩のことや。
「薄情ものやな。けど……」
先輩に会いたい……顔見られへん夏休みが嫌いになるわ。
ピコーン
あ、まさやんから返事きた。
まさやん: 凪、渋谷行きたい。サッカーのグッズ見たいから。
「でた。サッカーオタク。ほんまに、まさやんはサッカーが好きやな」
でもそうか。スポーツショップに行くんやったら、俺も下見しとこ。
「店はあそこや。ずっと前から決めてたし」
あそこやったらサッカーのフロアもあるから、ちょうどええわ。
顔洗って着替えてから、太もも見てみた。
抜糸したとき、先生は走ったりせーへんかったら出かけてええって言ってくれたもんな。
「普通にモモ上げて歩くんは、前から大丈夫やったし。バイトも来週からシフト戻したし。順調に回復しとるな」
太ももの外側、縦にスパッと入った傷口は、糸で縫うたから少し盛り上がってる。
ギリ、半パンで隠れるから助かったわ。
丸見えやったら、怪我した理由、聞かれて答えるとき面倒やもんな。
「よし、出かける準備、できた──と、思ったらまだやった」
大切なアレ、忘れたらあかんやん、俺。
結弦先輩からもらったワックス握りしめて、もう一回、洗面所に戻った。
「なくなったら、イヤやから、ちょこっとだけにしとかなな」
米粒三個くらい分、指先に取って毛先につけた。それだけで、先輩の匂いに包まれてる気がする。
「おかーん、まさやんと渋谷に行ってくる」
……あれ? 聞こえへんかったんかな?
もー、靴履いてもたのに、また脱ぐん、面倒やな。けど、声かけて行かな、もっと面倒なことになる。
靴脱ぎかけたら、バタバタとおかんが走って来た。
「ちょ、おかん。怖いってそれ」
顔にパックしたまま向かってくるから、ホラーみたいでビビるわ。
「ましゃやん、こっちひてるんや」
『まさやん、こっち来てるんや』って、言いたいらしいな。
顔、動かされへんのに無理して喋らんでええわ。今のセリフ、俺以外は解読不能やで。
「そうそう。せやから、ちょっと渋谷案内してくるわ」
「はんないっへ、へらそうひ」
あ……今のは、『案内って、偉そうに』やな。
「ええやん。俺のがちょこっと、東京に詳しいねんから。ほな、行ってくるわ」
「ひっへらっひゃーひ」
今のは『行ってらっしゃい』──って、もうええか。おかんネタは尽きひんな。
マンションのエントランスから外に出たら、ジリジリって太陽光線の攻撃が半端ない。
「あっつー。キャップかぶった方がええけど、ヘアスタイル崩れたら嫌やしな」
結弦先輩仕様の俺は、キャップ要らずや。
ふんふふーん、ふんふふーん──あ、また鼻歌、勝手に出てた。
周りちゃんと見とかな。また、キャプテン先輩みたいに、盗み聞きされたら困る。
俺の美声は、ただで聴かせたらもったいない。結弦先輩、以外はな。
駅までいつもはチャリで行くけど、傷口、開いたらあかんからそれは禁止。
けど、最近は歩く方が好きやな。
髪の毛、乱れへんし。ゆっくり歩いとったら、先輩がおんぶしてくれたん、思い出すから。
背中に俺を背負って、家まで送ってくれてたのに俺、寝てもてんな……。
結弦先輩の声が心地よくて、体もゆらゆら揺れてゆりかごみたいやった。いや、ゆりかごに乗った記憶なんてないけどな。
けど、あれこそ、極上のひと時って言うんやろな。
有名ブランドの高級ベッドでも、先輩の背中には勝たれへん。
俺、最近、妄想が激しいな。
ほんでも、楽しいからええねん。先輩に嫌われへんかったら、それ以上は望まへん。
望んだら、あかんねん……
俺は、俺の使命を全うするだけや。先輩の百点満点の笑顔を取り戻すって言う。
そやけど、夏休みみたいに会われへん日が続いたら、結弦先輩が足りひんからヤバい。
こうやって歩いとっても何しとっても、恋しさで思考が勝手にトリップしてまうねん。

