――11月19日、夕方。
 私は枯葉が舞う音に耳を澄ませ、空が広く見える墓苑に向かった。
 桐谷家のお墓に花を添えて、両手を合わせる。
 私と彼の気持ちをつなぎ合わせるかのように、追い風が吹いた。

「准平。お待たせ。今日ね、ひどいことがあったんだよ。……内容は、ちょっと言えないけどね」

 もう、二度と会えない――彼はこのお墓に眠っている。

 いまから2年前の12月20日。テーマパークのフラワーランド行きのバスが、大雪によって、五人の死者を出す転倒事故が起きた。
 そこに、私の幼なじみであり好きな人でもあった、桐谷准平(きりやじゅんぺい)が乗っていた。
 「大事な話があるから、会って伝えたい」と彼に言われ、現地で約束していた。
 とても楽しみにしていた。

 ……でも、准平は帰らぬ人に。

 冷たい風が頬をなでた。
 水色のマフラーを口元まで引き寄せ、白い息をこぼす。

 彼が亡くなった直後、病室の外で、彼の父親から紙袋を受け取った。
 中に入っていたのは、水色のマフラーと、一枚の小さなメッセージカード。
 父親は、私へ渡すはずのものだったのだろう、と。
 手書きのメッセージを見て、私たちの気持ちは繋がっていたと確信した瞬間、泣き崩れた。

 だから、敦生先輩の偽彼女なんて、絶対無理。
 これからも准平だけを見ていかなきゃいけないから。 
 まずは、バイトを探して、弁償のことも考えなきゃ。

 墓苑を撫でるように吹き抜ける風が、私の身を包みこんだ。
 『僕はここにいる』――まるで彼がそう言ってくれているかのように。