「――はあっ。はあっ!」
少し走っただけなのに息切れする千紗に、澪はやれやれとあきれ気味。
「ちゃんと走んないと、すぐ追い越されちゃうよ。もうすぐある運動会、大丈夫?」
「う…うん…っ。はあ…っ」
すごい勢いで息を吸う千紗に、思わずぷっと笑みを漏らしてしまう澪。
その様子を見て、千紗もにっこりと笑みを浮かべた。
「ほら、いこっ」
千紗に手を引かれ、エレベーターに乗り込んだ二人は、最上階のボタンを押した。
「ここまで来るなら、もちぃもつれてこればよかったね」
「確かに!もちさんがここ、一回くらい入ってみたいって言ってたもんね」
ドアがウィーン、と奇妙な音を出しながら閉まる直前、シャランと鈴の音が鳴った。
「あ、猫」
あと数センチというドアの隙間から、白猫が乗り込んだ。
「えっ、可愛すぎっ」
千紗がわっとしゃがみこんで、座った白猫を撫でる。
驚いたことに猫は噛みつきも抵抗もせず、ただされるがままでじっと床に座り込んでいた。
澪は大の動物嫌いで、触ろうとはしなかったが、喜ぶ千紗を見て、これはこれでいいかと笑みを漏らした。
「キミの名前は?」
それこそ猫なで声でしゃべりかけた千紗に、猫は「にゃあ」と鳴き声を漏らす。
「んー…名前がないみたいだね」
「えっ、そんなの分かるの?」
妙にうんうんと納得してる千紗に、澪はすかさず突っ込みを入れる。
「ねえ、私達で決めちゃおうよ」
「いいけど…。名前なんて付けたことないから、わかんないよ」
「じゃあ……”ルーチェ”とかどう?」
「なにそれ、どういう意味?」
「知らなーい」
「適当じゃん!」
最上階につく数十秒の間、猫と戯れる二人。
――チーン、と音が鳴り、ドアがゆっくりと開いた。
そこは最上階だった。
「じゃあ――ステラとかどう?」
「ステラ?」