「―――おい、聞いてんのか、橘」
バシッといきなり頭をたたかれ、思わず「ハイッ」と気合入った声をあげて立ち上がった澪。
その瞬間、クラス中でドッと笑いが起こった。
「いい返事だ!ちゃんと授業は聞けよ」
数学教師の田村先生の熱血入った声で、澪の視界は一気に現実へと引き戻される。
みーん、みーん、とセミの声が聞こえる教室。
がやがやとして落ち着きのない生徒たち。
「もー澪ちゃんってば、また授業の話聞いてないんだから」
休み時間、田村先生が去って行ったあと、ポンッと澪の肩を叩いたのは、小学校から仲良しの、”ちーちゃん”。
「だいじょーぶだもん。ちーちゃんがいるし」
ねっ!!と満面の笑みで親指を立てた澪に、「別にいいけどねー」とニッと笑う千紗。
ボブっぽい髪にやわらかい目をした彼女は、誰がどう見てもかわいらしい容姿をしていた。
「ねー…ちーちゃん…。次の授業サボっちゃおうよー」
「えー?私まで怒られちゃうじゃん、やめなよぉ」
あははと笑みを浮かべた千紗は、「ほら、明日テストだよ」と回答用紙で澪の頭を軽くたたき、隣の席に座った。
「澪に比べて、流石竹中って感じだよなあ」
「はー?なにそれ。私がなんだって?」
「ひえぇっ。すいませんでしたーっ」
おびえたフリしながら私の頭をポンと叩くのは、クラスでも明るい人気者の、餅田佐久。
「もちぃってホンッと、人の気も知らないで―って感じだよね。ねえ?ちーちゃん」
「あはは…まあでも根はいい人じゃん?優しいし」
「んー、そうかな」
考え込む澪に千紗は少し顔を赤くして、「ほら、勉強しよっ」とバシッと澪の背中をたたいた。
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「ちーちゃんちーちゃん、帰りクレープ食べて帰ろうよ」
「ん、いいね。誰か誘う?」
「んーもちぃとでもいいけど、あいつ、今日バスケじゃない?」
放課後、いつものように二人で肩を並べて下駄箱へ向かう。
「あっそれもそっかあ」
千紗はえへ、と小さく笑ったあと、「じゃあ二人でいこーう」と上靴と靴を履き替えた。



