「――こちらを。」
ステラは、小さな鞄から便箋を取り出し、澪に渡した。
「…え…」
澪はあわてた様子でそれを受け取り、まじまじと紙を見つめる。
「その宛先を千紗さんに設定すれば、貴方は千紗さんに手紙を送ることが可能になります。無論、私を通してですが。ですが……注意事項が一つ」
「注意事項…?」
「一通他界者に手紙を送ると五年――。二通手紙を送れば十年、貴方の”寿命”は縮んでいくのです」
「寿命が…っ?」
澪は驚きのあまり硬直した。
たった一度、手紙を送るだけで授業が縮んでいく等、ありえないことだったからだ。
「……」
「判断されるのは澪さんですよ。これを使いたければ使う、使わないのなら使わない――」
ニコリと微笑んだステラに、澪は一度考える。
そして、ふぅと息をついて、”これを使えば、どうなるのだろう”と考え始めた。
もし自分の寿命が九十年だとして、一通手紙を送れば八十五年――二通送れば八十年。



「……ステラ」
「はい」
「私…一通だけ、送ってみようかな…」
澪がそう口にしたとき、ステラは満面の笑みで「はい」と頷いて見せた。
「書き終わったら零時から午前三時の間にこちらに来て、私に渡してください。必ず宛先と自分の名前は書くこと。そして便箋に入れ、しっかりと留めること」
「……」
「わかりましたね?」
「……うん」
澪の瞳は、ゆっくりとステラに向けられ、そして穏やかに笑いかけた。
「……ちーちゃん」
その瞳は、まるで千紗を見ているようであった。