「―――もし過去に戻れるなら、貴方はなにをしたいですか?」
「え…?」
酷く落ち着いた様子で、ステラは言った。
澪の脳内は、あらゆる考えが張り巡らされる。
…《過去になんて、行けるの?
…《そんなの、おとぎ話の話なんじゃないの?
…《でも、もし……もし過去に、戻れるなら―――。
「………”ごめんね”を、ちゃんと言いたい」
ステラは優しく微笑み、「そうですか」とうなずいた。
えっ、と澪は拍子抜けする。
ただ聞いただけなの。それとも、何か意味があるの。
「いえ、ただ聞いただけですよ、澪さん」
「…は…」
澪の目はこれでもかというほど見開いた。
心まで読まれているとは、想像もつかなかったのだろう。
「―――私は猫。ただし、”星影”です」
「……星影…?」
猫がカッと指を鳴らしたその瞬間、ステラの白い体は、青色の衣服に包まれ、頭には小さな帽子がのっかった。
腰周辺には可愛らしい小さなバッグを付けていて、中から何かの紙が飛び出ているのが見えた。
「この街の”星影”の本当の意味をご存じで?」
澪はゆっくりと頷く。と同時に、「猫」と小さくつぶやいた。
「そうなんです。星影とは”星の光”を表すことと同時に、”星の下で歩く猫”を意味することもあるんですね。…星影郵便とはその名の通り、猫の郵便局のこと。我々は人間とは違い、世界に数カ所ある”黄泉の国の入り口”に入ることが可能なんです」
「…黄泉の国…?入口…?」
「えぇ。黄泉の国とは、死後の魂が行く場所のこと。その黄泉の国の入り口は、なんと”星影海”が見えるこの展望台の最上階なんですよ」
「それなら…私も行けるの?」
淡い期待を胸に抱いた澪は、ステラが首を振ったのを見て、すぐその期待を打ち消した。
「いいえ。生きた人間が入口に入っても、どうにもなりません。これは、私達”星影”だけの特権なのです。――澪さん」



