ツァーカムとガラスの街他

灰が絶えず降っていた。
空は色を失い、鉄骨の森が沈黙の中で呼吸していた。
崩れかけた街の上を、二つの光が歩いていた。白と銀――どちらも冷たく、しかし温かな気配を宿して。

シェリダーが足を止める。
「静かだな」
その声は雪のように落ち、瓦礫の間に消えた。

ツァーカムは小さく微笑む。
「静かにしか、生き残れないのだろう」
風が銀の鎖を揺らし、小さな鈴の音が響く。灰の舞う音と混ざり合い、妙に優しい。

街は死んでいるようで、まだ微かに息をしていた。
ツァーカムは崩れた柱に触れ、指に残った感触を見つめる。
「痛みは、まだこの街にある」
囁くように言うと、シェリダーは淡く目を閉じた。
「痛みを消すことは、癒しではない」
その言葉にツァーカムの瞳が柔らかく揺れた。

再び沈黙。
白の剣が胸元で光を反射し、銀の衣が風に靡く。微かな金属の響きだけが、時間を刻んでいる。

ツァーカムが視線を落とす。
「君は赦しを信じている」
「赦しは忘却とは違う。赦す者も染まる。血の跡を見て、美を信じるようなものだ」
シェリダーの声は澄んでいたが、そこに人間的な温度があった。

風が通り抜け、灰が舞う。
ツァーカムの唇が静かに動く。
「美は誰かのためにあるものだと、ようやく分かった」
「じゃあ、その美を歩こう」
シェリダーの答えは短く、鋭くも穏やかだった。
「終わりの街に、始まりの足音を残すために」

灰が再び舞い上がる。鈴が鳴り、響きが二人の歩調に寄り添う。
鉄骨の街がわずかに息をするかのように、微光が広がった。

彼らは並び、言葉を超えて歩き続ける。
白は赦しを運び、銀は共感を照らす。
そしてその背後に――、ただ静かな祈りの余韻だけが漂った。