銀帝国(Silver Empire)は、ツァーカムのような人物が生まれる幻想的世界で描かれる架空の国家である。
ガラスと銀の輝きに満ちた中央管区を中核とし、「美と欲望を秩序の源」とする独裁的な体制を敷く。
その歴史は、創成から繁栄、そして内なる崩壊の兆しまで、愛と破滅の対となって流れていく。

創成期:銀の覚醒(紀元前500年頃)

銀帝国の起源は、古代の「鏡の時代」と呼ばれる混沌期に遡る。
人類がガラスの平原で幻影に導かれ、銀の鉱脈を発見したのが始まりだった。
伝説の初代皇帝アルギロス=シルヴァー(Argilos Silver)は、絡み合う双蛇の啓示を受け、「醜は罪悪、美こそ秩序」と宣言。ガラスを砕き、銀の像を築いて美を神とした。

この時代、遊牧民連合から生まれた帝国は中央管区のガラス都市を首都と定め、「鏡の守護者」と呼ばれる法執行者を組織する。彼らは鞭と鎖を携え、異端を粛清。ここに快楽と支配の文化が芽吹き、帝国の紋章「双蛇(愛と破滅の循環)」が生まれた。
後世の史家はこの時代を「銀の覚醒」と呼び、欲望が秩序の形を取った最初の瞬間と評している。

拡大期:鏡の征服(紀元0年〜300年)

帝国暦の成立と同時に、銀帝国は勢力を急速に拡大した。
皇帝たちは美貌を神聖視し、魅了と快楽増幅の異能を操る貴族を重用。ツァーカム家の祖先もこの時代に台頭し、異端を鎖で縛る銀警官として名を馳せた。

帝国暦150年の「鏡の戦争」では、隣国・影の共和国を打倒。ガラスの盾と光の屈折を駆使して敵を幻惑し、共和国を征服した。戦後、民は銀のチョーカーを着けられ、奴隷階級へと転落。中央管区には壮麗なガラス宮殿が築かれ、ハイヒールと銀のリボンが貴族の象徴となった。
だが同時に、欲望の過剰が内乱と暗殺を生み出し、歪んだ美の秩序が影を落とし始める。

黄金期:欲望の鏡像(紀元300年〜800年)

帝国は栄華の頂点に立った。
ヴェネラ=ミラー皇帝(Venara Mirror)の治世下、銀とガラスの交易が盛んになり、快楽主義と残酷の混交する文化が花開く。
街路には背中開きの衣装を纏った貴族があふれ、魅了の視線は通貨より価値を持った。

この時代、「美の帝国」と呼ばれた銀帝国は、まさに鏡そのものだった。
皇帝は「この街は僕の舞台だ」と宣言し、鞭の音が法を告げる鐘の代わりとなる。
だが、抑圧された「抵抗の美」への渇望が地下で芽吹き、影の共和国の残党が「醜の反乱」を起こす。ガラス都市は血の色に染まり、双蛇の片方――破滅の輪が回り始めた。

衰退期:破滅の循環(紀元800年〜現在)

帝国は内側から揺らいでいる。
ツァーカムのような銀警官がなお秩序を保ってはいるが、過剰な演出と感覚の麻痺が理性を蝕む。
帝国暦950年の「鏡の気絶事件」では、現皇帝が自身の姿に魅了され統治不能となった。

いま、中央管区の街はまだ輝きを保ちながらも、双蛇の紋章が告げた「愛と破滅の循環」はすでに現実となりつつある。
ツァーカムは歩みながら呟く――
「美とは秩序そのもの。だが、秩序は破壊を孕む」

やがて再び戦火が訪れるのか、それとも彼の視線が新たな秩序を紡ぐのか。
答えは、今もガラスの街に映る影の中に潜んでいる。