ツァーカムがガラスでできた街を歩く姿は、まるで一枚の絵画のようだった。
くるぶし丈の背中の開いたワンピースが、彫刻のように整った身体を際立たせ、銀のイバラのチョーカーが淡く青白い肌に金属の輝きを添える。
腰まで届くカチューシャには銀のリボンが結ばれ、それが街の透明な光と共鳴する。ガラスの舗道を叩くハイヒールの音が、静寂を細やかに震わせた。

鞭と鎖を携えたその姿は、優雅さと危うさを同時に纏っていた。
街は息を潜め、ガラスのビル群が光を屈折させて、ツァーカムの白銀の瞳に無数の色彩を映し出す。
彼は独り言のように呟く。
「美とは秩序そのもの。だが、秩序は破壊を孕む。ガラスは脆く、ゆえに美しい……」
低く滑らかな声は、まるで詩のように夜へ溶けていく。
背に刻まれた双蛇の紋章のように、彼の言葉には愛と破滅が絡み合っていた。

通りすがりのガラスに彼の視線が映った瞬間、息が止まるほどの衝撃が走る。
鏡に映る自分自身ですら酔いしれ、気絶しそうなほどに彼は己の美に溺れていた。
それでも歩みを止めず、鞭を軽く振ると、空気が裂けるような鋭い音が響く。
「抵抗する美……それこそが至高」
ツァーカムは微笑む。

快楽主義者である彼にとって、この街は欲望を映す巨大な鏡だ。
彼の放つ力が空気を震わせ、視線ひとつで人を魅了し、わずかな仕草で快感を誘う。
ガラスの壁を指先でなぞると、光が脈打つように揺らめいた。
だが、その美への執着こそが彼の脆さでもある。過剰な演出が理性を侵し、心を愛と破滅の狭間へと追いやるのだ。
もし誰かがこの「美の暴政」に抗うなら、その瞬間、ツァーカムの心は崩れ落ちるだろう。

「この街は、僕の舞台だ」
彼の声が静寂に溶け、ガラスの街は白銀の警官の欲望と孤独を映し返した。