部屋にかけてある二人分の浴衣を眺める。
「高校最後だし、今日くらい浮かれてもいいよな……」
 凛の部屋から賑わしい声が聞こえてくる。
 どうやら二人とも気付けが終わって、はしゃいでいるようだ。
 覗きに行くと、写真大会になっている。

「ねぇ、星凪見て。似合うでしょ?」
「本当だ。白の浴衣が似合うなんて、凛くらいじゃない?」
「でしょう! すごく気に入った。星凪たちも早く着替えて四人で写真撮ろう」
「うん、じゃあ櫂李、頼む」
「任せてください!!」
 俺の部屋に戻ってきた櫂李が手際よく準備を進める。

「じゃあ先輩、服脱いで……って!! ちょっと、仮にもオレがいるのにパンイチとか勘弁してくださいよ!!」
「は? 男同士なのに、何も問題ないだろ」
「問題あります!! 大アリです!! 星凪先輩を好きな奴がいるんですよ? もっと意識してくださいよ。ほら、タンクトップ着て。浴衣の下は裸じゃないんですからね」
「すげー怒るじゃん」
「他の人に素肌なんて見せたら、オレ怒りますからね!!」
「オカンか」
「嫉妬深い恋人です」

 本気で言ってるから笑える。
 言われた通りタンクトップを着て、浴衣に腕を通す。
 日本の夏って感じがする。
 濃紺の落ち着いた、地模様に派手すぎない縦縞の入った浴衣を選んだ櫂李は、俺よりも俺を理解してくれていると伝わってくる。
 この浴衣、好きだな。袖を眺めながら思った。
 
 襟を正す衣擦れの音、帯を結ぶ手捌き。
「プロみたいだな」
「でしょう? 昔から弟や妹に着せてたから板に着いちゃいました」
 あっという間に着付けが完了した。
 
「俺も着替えるんで待ってて下さいね」
「自分で自分の着付けも出来るもんなの?」
「慣れですね」
 喋りながら手早く整え腰紐を結ぶ。
 襟を正して帯を結び、ものの五分足らずで着付けが完成した。

 人は見た目に寄らないとはこのことか。
「ギャップに惚れました?」
「……その余計な一言がなかったら感心してた」
「えへへ」
「褒めてないだろ」
「視線が『すげー』ってなってたんで、充分です。じゃあ、オレたちも行きましょう。凛先輩たち、早く皆んなに自慢したいから先に行くって」
「待っててくれないのかよ」
「違いますよ。オレらが二人きりになれるように、気遣ってくれてるんです」
「……知らないふりしてるだけだから、改めて言わなくていい」

 凛と煌陽のしそうなことだ。だから先に着付けをして欲しいって頼んでたんだ。
 四人で回れるって思ってたのに……。
「写真だって撮ってない!!」
 文句だけを口に出すと、一年生の櫂李に宥められてしまった。