お祭り当日、櫂李は朝から張り切っていた。
「早く先輩の浴衣姿が見たいです」
「気が早いしハードル上げんな。お祭りは夕方なんだから。新しい生徒会メンバーも決まったし、A棟に入るか、B棟に入るか、会議だぞ」
「B棟にしてください。ほら、あっちは大夢が独りぼっちで寂しいじゃないですか」
「カップルの話してんじゃないからな」
「とにかく、A棟はダメです」
「会議で言えよ」
「了解です。まだ時間があるので浴衣の準備しておきますね」

 ……これはお祭りしか頭にないやつだ。
 凛と煌陽と顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
「あれだけ押しが強ければ、B棟に決まりそうだな」
「僕もそう思う。実際、こっちの空き部屋、物置きにしちゃってるし。片付けるの大変だからB棟なら助かるかも」
 凛がらしくないことを言ってる。
 二人はすっかり櫂李に絆されてて擁護ばかりだ。

 まぁ、俺も内心今のメンバーでバランスいいし。
 紫暮たちさえ良ければB棟でいいんじゃないかと思ってはいる。
「俺も賛成って顔してるね、星凪」
 凛に図星を当てられ全力で否定した。

 その後の会議では呆気なくB棟に決まり、考えすぎていた時間が無駄になった。
 理由は大夢が希望したから。
 櫂李が言う通り、気兼ねなく話せる相手が欲しいらしい。(あと、家事ができるメンバーを求めていたとも言っていた)

 当然の如く櫂李は大喜びでシェアハウスへと帰ってきた。
「良かったですね。これでオレと星凪先輩の世界は守られました」
「新しい生徒会メンバーを邪魔者扱いするな」
「嫌いにならずに済んでホッとしてます。じゃあ、オレ、先に凛先輩と煌陽さんの浴衣着付けて来ますね」
 慌ただしく俺の部屋から飛び出して行った。
 本当に元気な盛りの犬みたいだ。

「って、あいつ最近、俺の部屋に帰ってくるのが当たり前になってないか……」
 そしてそれを許してしまう自分がいる。
 ……俺も、絆されてるのか。
 嬉しいような……悔しいような……。いや、少しでも嬉しいと認めているくらいには櫂李を受け入れてるんだ。

「お祭りで告白されたらどうしよう」
 また素っ気ない態度で躱す自信がある。
 次に櫂李の好意を断れば……先輩みたいに去っていくのかな……。
 かといって、急に俺が櫂李を認めれば逆に不自然にならないだろうか。
 不審がられず素直になる方法が分からなくて悶々としてしまう。
 これも全て考えすぎなんだろうな。