櫂李は当たり前にその日も俺のベッドに潜り込んできた。週末恒例となったとはいえ、俺は未だにドキドキして寝付けないでいる。

「んもぉー!! 今日こそ先輩の寝顔が見たいです!! 初めて泊まった日以来、先に寝てくれないじゃないですか。オレは、先輩の寝顔を眺めながら『幸せだなぁ』って浸りたいんです」

「じゃあ、櫂李が後から寝ればいいじゃん。布団に入って秒で寝落ちって。子供かよ」

「だって先輩の隣、心地いいんですもん。先輩が悪い」

 そんな事まで責任は取れない。
 心地良さで言えば櫂李の方が格段に上だ。
 俺より大きな身体で体温も高め。
 頼んでもいないのに、自然に腕枕をされている。
 絡んだ足は骨太で男らしい。
 こんな癒し効果抜群の環境を差し出されて、後輩相手に緊張して眠れないなんて情けない。

 今日も秒で寝た櫂李の寝顔を眺めて過ごす。
「楽しかったな、今日」
 囁くように話しかけても返事はない。静かな寝息と、無防備に開いた口。
「間抜け面」
 笑いそうになって口を押さえた。

 いい奴……だよな。
 押しが強くて、パーソナルスペース狭い癖にしっかり気配りできて……。
 俺、一筋にストレートに愛情をぶつけてくる。

 一緒にいて嫌じゃない。
 五月蝿いのに、静かだと気になって探してしまう。
 俺の作ったご飯を『おいしい』と言って食べてくれる。
 優柔不断で素直にYESと言えない俺を、強引に導いてくれる。

「満点かよ」
 悔しいけど、櫂李は所謂『優良物件』だ。
 俺には勿体ないと思ってしまう。
 でも遠慮し過ぎて終わった過去の恋。二度と同じ道を歩みたくない。

 何かキッカケがあれば良いのに……。
 俺が櫂李に素直に甘えられるキッカケが……。

 帰りの電車で眠ってしまった俺は、夜明け間際まで、櫂李の寝顔を見て過ごす羽目になってしまった。