「おーい、義孝ーー、由愛ちゃんーーー、また義孝が俺達を巻き込んだか」と小林幹夫(ミキオ)

「ふぅ、やっと人に出会えたよ、君たちもこの白い部屋にいたのかい?」と(サトシ)

「おお、小林と聡君じゃないか! どうしてここに?」
「いやな、別の白い部屋に閉じ込められてて、どうしようもないんで真っ直ぐ進もうと聡と話してさ」

「小林君と随分と歩いてきたら、急に霧が晴れたかのようになって、君たちが見えたんだよ。あの、申し訳ないけど状況を僕達にも教えてくれないかな? ここも同じ白い部屋だよね」

「サトシ君お久しぶりね」
「うん、瑞葉ちゃん。こんなところで会うなんて奇遇だね。目が腫れてるよ。泣いたのかい?」

「気にしないで、いつものことだから」
「怖くなって泣くのは僕たちも一緒だよ」
「泣き虫だからな瑞葉は」
「ムッ……義孝君のセリフだけがつれない……」

「お久しぶりです、小林先輩」
「由愛ちゃん、目が腫れてるけどどうした?」
「お兄ちゃんに泣かされました」
「おい俺か」
「だって、だって……しくしく……」
「分かったから、ホラ、由愛おいで」

「君たち親睦を深める最中悪いけど、出口は分かるかい? 小林君と探しても全く所在不明でお手上げなんだよ」

「聡と探しまくっても天井は見えないし、壁もない、床すら何製なのか分からんからな。真っ直ぐに歩いていたつもりだったが本当に直進したかも分からん」

「ああ、一緒だよ。瑞葉も由愛も俺にも見当がつかない」

「どうしたものかしら。みんなはお腹空かない?」
「わたしアメちゃん持ってるよ。飴ちゃん舐めます?」

「あーあーありがとう」と言いながら全員が飴玉を舐め始めた。さすが妹、ポッケに何個入っているのか不思議だよ毎回な。しかし今までお腹が空いたという感覚は無かったな。寧ろ夢の中の方が空腹感、食欲とか味覚などの感覚があったと思う。

「!!!」

 立った俺たち五人は、妙な波動を感じ驚愕している顔を互いに見合わせながら様子を窺っていた。

「なんだコレ!」

「「「ごくり……」」」

 オジサン&娘
「「遅くなってスミマセン、お久しぶりです。みなさん。打ち合わせがスムーズに行かず申し訳ありません」」

 転移トラックの運転手たちだった。

「「ええーーーーっ」」

「!!!」

 会話の途中だったが、突如、凄まじい波動の圧力が迫ってきた。床が揺れる。

 ★

 なんだどうした、大地震? まさかこんな場所で何かが攻めてきてるのか?

「強大な何者かが、どんどん近づいて来るぞ! 揺れが酷い、互いにしがみつけ!」

「おい瑞葉、由愛、小林、聡、一か所に固まるぞ!」

「お兄ちゃん、歩けない、歩けないよーっ」

「床が揺れてるのか、揺れてる感じはしないのに、何だか波動みたいなものが手足を動かせなくしているのか。神すら凌駕するこの力、僕たち人間なんて消し飛びそうだ……」

「俺、なんだか昔にも同じような経験をした記憶が……あれは確か……!?」

「もしもだとしてもだ……」

「こ、こぇぇぇぇぇぇ!!!」

【全員集合】

 強大な何かの波動は途中で消え、すっかり周囲は元通りの静かな状態になった。何があったのか俺たちには分からず、ぽか~んとしている。誰も言葉を発しない。座ったまま、また膝立ちしてる、という感じだ。

 暫くすると一人の少女がタッタッタと早歩きでこちらに向かって来た。あれはハルちゃん? 遅刻をしちゃったテヘっ、みたいなハニカミと苦笑いが混ざった感じで俺たち五人に向かってきている。

「ヨシくんたち、良かった~、ちゃんと会えた~~嬉しい。瑞葉ちん、また一緒だよーー」

「ハルちゃん、貴女もなのね、こんなところまで来てしまうと感覚がおかしくなるよね」

「は、ハルちゃん! 君まで来たのか」

 ……と勢いよく聡が飛び出していく。あーそういえば聡君ってハルちゃんの事、大好きだったよな。片想いを長々と引きずっているらしい(情報By瑞葉)。聡は物凄くいい笑顔でハルちゃんに向かって駆け寄っているではないか。

 一方のハルちゃんは瑞葉を見ているな。俺の事も。先の瑞葉の夢では、彼女は未だ俺の事を想っているというセリフがあった。俺は思わずニヤけてしまう。このニヤケ顔が瑞葉と由愛に見つかるまでは大丈夫。

★★★★★

 オジサン
「さ、仕事しましょう」

 助手席娘
「はい」

「私は出来ればヨシくんとアバンチュールを楽しみた……」

「ハルちゃん」
「瑞葉ちん、ごめんして、怒らないで、許して……」
「貴女が私の大切な恋人と二股になってたことを思い出したわ」

「ちょ、ちょっとーっ」

(ハルちゃんはまだ西之原(ヨシタカ)君のことを想っているのか……僕も頑張るぞ)

「俺は恋人が出来るかもな。オレにも春来る?」

「小林はいつもそれだな」

「お兄ちゃんとわたし、お兄ちゃんと一緒に夜更かし、うふふ……」

 ハル
「どうせ皆すぐに色々と詳しく思い出すから先に言うけど、前回はヨシくんが一人寂しく寿命を終えたのね、他の四人はヨシくんを生かすために魔王戦で命を犠牲にしたの。私の蘇生魔法(リザレクション)もミスして間に合わなかったの。あんな悲しいことは二度とイヤ。私は泣きっぱなしだったわ。だから今度は全員で寿命を全うするわよ! それと、フフ、地球では大観覧車の頂点で思い出のハグとキスをヨシくんから頂いたわ。私は想像以上に満足、思い残すことはないわ!」

「ハルちゃん、高校の学食で会話してるのと変わらないよ……、一部の心の声が外に出てるし」


「運転手と助手席娘、転移トラックの準備を」と女神様(ハル)が指示を出す。

「「はい」」

 こうして六人は元の時間軸に戻っていった。……のだが。

★★★★★

↓ 女神ハル高校生バージョン


 異世界を行き来する中間地点の『白い部屋』から無事に脱出してきたメンバーたち。

 ……義孝が気絶から目を覚ますとモリ高の教室だった。全員そろっている。ハルちゃん(女神様)サトシ(勇者)ミキオ(騎士)ミズハ(聖女)ユアイ(魔法使い)、そして付与術師の(ヨシタカ)

 教室には俺たち以外は誰もいなかった。今は夕方のようだ。校庭にも部活をやっている人は誰もいない。休日かな。頭はまだボンヤリとしていた。白い部屋から飛ばされてきて、元の時間軸に沿って戻るとハルちゃんが言ってたから高校二年生の一学期かな。夏休みが近いと良いんだけど。

 全員の肩を叩いて起こす。

「おーい、家に帰るぞ」

「お前ら、メシだぞ~」

 全然、起きねぇ。呼吸してるかどうかを確かめるが全員大丈夫のようだった。単に気絶というか意識が無くなってるだけか。

 俺と幼馴染で恋人のミズハ、親友ミキオはクラスメイト。ハルちゃんとサトシは隣のクラス。妹のユアイは一学年下。うんうん、記憶はちゃんと残ってる。

 仕方がない、誰かの頭でも撫でて暇をつぶそう。

 誰が良いかな? ユアイとミズハはいつもしてるから、今回はハルちゃんの頭を撫でよう。

「なでこ、なでこ、ハルちゃん、いいこ、いいこ」

「う~ん……」

「おっと、ハルちゃん、起きたかい?」

「う~ん、もっと……」

「はいはい。なでこ、なでこ、いいこ、いいこ」

「ハイは一回」

「ハイ。なでこ、なでこ、いいこ、いいこ」

「う~ん、うふふ……」

「ハルちゃん、起きてるだろ」

「いいじゃない、いつもミズハちんとユアイちゃんに譲ってるんだから役得よ」

「いや、ハルちゃんならその辺の男子に声かければ99%の男子がやってくれるぞ。下手すればお金払って撫でさせてと客が来るかも」

「あのねー、そういうのは誰でも好い訳じゃないのよね。ヨシくんじゃないと」

「そういえばさ、ミズハの夢の中でハルちゃん出てきたよね? あの時ってちゃんと自由意思で発言とかしてるのかい?」

「ん? どういう意味かしら?」

「桜井(のり)っていう陰キャナンパ師の挨拶の時に、まだ俺のこと好きだ、とか何とか」

「あーーーあーーーー聞こえない、きーこーえーなーい」

「コホン、あのさ、ハルちゃん、あれ聞いた時、嬉しかったよ」

「えっ! ほんとっ」

「もちろん」

「うそっ、嬉しい」

「こんな可愛い、ゆるふわ娘に好きって言われたら嬉しいに決まってるよ」

「本当に? 私の事からかってるでしょ?」

「ほんとだよ」

「ヨシくん、本当だったら……さ、証明してくれる?」

「へ? 証明って」

「本当だって言った(あかし)が、本当という証明が欲しいもん」

「ん~~どうすれば証明できるんだろーな」

「ち、ちう……して」

「はい?」

「ハグ付きのちうがいいな」

「う~~~ん、ちうってキスのこと?」

「だ、ダメかな?」

「……大観覧車の頂点でキスした以来だね。懐かしいなぁ」

「う、うん……あの、私ね、あの時、幸せの絶頂だったんだよ。嘘告がキッカケだったけど、そんな機会でもないと貴方に近づけなくて……本命中の本命告白だったんだよ」

「ハルちゃん……おれ……」

「……」

「異世界に居る時も女神様(ハルちゃん)として一か月間は一緒にいたよね。嘘告の時も一か月間お付き合いして、なんだか偶然だよね」

「……ね、わたし、まだ想ってるよ……。だって前世からの大切な気持ちなんだもん」

 ハルは唇を真っ直ぐに結んで真剣な目でヨシタカを見る。

「心だけは縛ることが出来ないもんな」

 ハルは覚悟を決めた。しかし急激に朱に染まる頬、耳まで真っ赤に。下を(うつむ)き加減で見ながら小さい声でお願いをする。

「……ね、ちうして……」

「ちょ、ちょっとだけなら……」

「ほ、ほんと? セカンドちう、嬉しいわ。何回もしていいよ」

「じゃ、目を瞑ってね」

「うん」

 目をつむるハル。




 ぱぁぁーーーーーん!



「はーい、そこまでです、お二人ともストーップ」

「ミズハ……いきなり頭を叩くなよ~」

「み、ミズハちん……」

「お兄ちゃん! みんなが起きてる目の前で何てハレンチな事をしようとするのですか!」

「ゴメン……でも、なんだか最近も同じようにユアイに頭を叩かれたような記憶が……」

「本当、この私の彼氏(ヨシタカ)は、私の目の前で、ハルちゃんに何しでかそうと考えてるんでしょ! プンプン」

 小林ミキオ
「いや楽しそうだったなっと」

 サトシ
(ほっ、ハルちゃんの唇がまた奪われなくて良かったよ)

 ここで各自の頭に新たな記憶がインストールされた。

 この数年間の日本での生活が一気に脳内に流れ込む。瑞葉(みずは)由愛(ゆあい)(はる)(さとし)という優等生のグループと小林(みきお)義孝(よしたか)の混乱組の差は歴然だった。期末試験勉強以上に頭脳を使いまくってヘロヘロになった義孝が幹夫に向かって言う「これからも親友だな」、幹夫も笑顔で返す「ああ、俺達は離れては生きていけない」と。

 こうして久しぶりの現実世界に戻ってきた五人と女神(ハル)であったが、異世界や夢の世界と同様、現実世界にも厳しいNTRの危険が横たわっている。

 カラオケ、遊園地、公園、水族館、映画館……青春のイベントはそこら中に存在しているが、逆に言えば、それだけ目移りする材料や、新たに誰かと出会う機会が沢山あるという事。出会う中には危険な人物も含まれていることだろう。

 女の子たちの(みさお)を無事に守れることが出来るのか、今の時点では誰にも分からない。



『現実世界へ』につづく