・東京 薫の自宅の前 夕方
薫(それからは無事に修学旅行を終えることができた。僕は少し友達が出来た)
奈良の大仏の前で、行動班のみんなと撮った記念写真を見る。
薫「ただいま~! 漬物買ってきたよ」
薫は元気よく自宅に帰る。
・薫の部屋 夜
椿からのメッセージ。
椿「おみやげで姉ちゃんに殺されずにすんだ」
薫「ははは」
薫(なんだかんだ楽しかったな修学旅行)
薫(それにしても……椿くんの好きな人って誰なんだろう。結局自由行動も僕と一緒だったし)
薫、ベッドの上にごろんところがり、ひざを抱える。
薫(告白しないのかな。椿くんが振られることなんてないよな……)
薫(そしたら……今みたいに遊べないのかな……僕が口出すことじゃ……)
椿から着信。
椿「おす」
薫「……おす」
椿「旅行楽しかったね。あのさ、冬休みに入ったら少し遠出しようよ」
薫「ご当地カレーを食べますが……?」
椿「いいね。候補地あげておいて。……あとさ」
椿が一瞬黙り込み、薫は耳を澄ます。
椿「ちゃんと謝って無くてごめん。怖い思いさせちゃって」
薫「そんなの! あのキショキショヤンキーがぜったい! 全面的に悪いんだから」
椿「ぷっ……言い過ぎ」
薫「気にしなくて良いよ……じゃ」
薫(好きな人のこと聞けなかった)
通話の切れた画面を見つめながら、薫はため息をつく。
・教室 朝
生徒達は互いにおはよと声を掛け合っている。
薫はいつものように黙って教室に入り、リュックをおろす。
男子生徒「おはよ!」
薫、ぎょっとする。よく見ると、ホテルで同室だった生徒。
薫「おはよ」
薫、照れながら返事を返す。
無事にコミュニケーションの取れた薫はほっと胸をなで下ろす。
椿「おはよー」
そこに椿が登校してくる。人気者らしく、沢山の生徒と挨拶しながら入ってくる。
薫(……よし)
薫はつかつかと椿に近づく。薫に気づいた椿、不思議そうな顔をする。
薫「つ、つばき……椿くんおはよう!」
薫は緊張のあまり震えている。教室中の視線が薫に向かう。
椿は薫が勇気を出してくれたのを感じて微笑む。
椿「おはよ。またあとでね」
薫「う、うん」
椿は自分の席に向かっていく。そして薫は小さくガッツポーズをする。
薫(あとでって昼休みかな)
薫、始まった授業をぼーっとしながら聞く。
薫(冬休み……どこ行こう。少し遠出……日帰り出来るところか……神奈川とか千葉の海とか……山でもいいな。栃木、群馬……)
旅行先を思い浮かべながら、薫はハッとする。
薫(バイト……しよう!)
薫(椿くんはモデルの仕事があるもんな。僕も……)
薫はわくわくする。
・裏庭 昼休み
薫はいつもの場所で弁当を食べている。
おかずを一つづつゆっくり食べているが、椿が現れる様子がない。
薫(どうしたんだろう)
しばらく待つが誰もこない。
薫(もう!)
薫は教室に戻り、椿の机に向かう。
その様子に一軍女子が気づいて声をかける。
女子生徒「あー陰キャくんじゃーん」
薫「あの……椿くんは?」
女子生徒「あーね、なんか帰っちゃった」
薫「帰った? ど、どうしたの?」
女子生徒「具合悪いとかって」
薫「ええ!?」
薫、とぼとぼと席に戻り、椿に「大丈夫?」とメッセージを送る。
薫(既読にならない……いつもならすぐなのに)
・放課後 椿の家の前
プリンの入ったコンビニの袋を手に提げて、薫は椿のマンションを見上げる。
薫(プリン食べられるかな)
インターホンを押す。姉の蓮が出てくる。
蓮「はいー! あれ、椿の友達じゃん」
薫「あの……椿くんどうしてます?」
蓮「はあ? 今いないけど? まあいいやあがって」
入り口のオートロックが開く。
・椿の家の玄関
蓮「椿ならまだ帰ってきてないけど?」
薫「えっ、早退したって聞いたんですけど」
蓮「なんだぁ、サボりぃ?」
薫「わかんないですけど……えっとこれ良かったら食べて下さい」
蓮「えーいいのお?」
連にプリンを押しつけ、薫はマンションを出る。
いまだ既読にならないメッセージを見て、薫は思いきって電話をかける。
呼び出し音が鳴るが、椿はでない。
・薫の自室 夜
薫(結局連絡取れないし……)
メッセージの通知音。薫は慌ててスマホを手に取る。
薫「椿くん……」
椿『悪い、ちょっとややこしいことになった』
薫はすぐに電話をかける
薫「もしもし、なにがあったの?」
椿「……今日事務所に呼ばれて。内容は言えないんだけど」
電話の向こうで椿が言葉を詰まらせる。
椿「しばらく学校も休むけど、大丈夫だから」
薫「えっ、ちょ……」
通話が切れる。薫はじっとスマホを見る。
・教室 朝
薫(本当に来てない……)
薫、教室に椿が登校していないことを確かめ、ため息をつく。
そこに一軍生徒たちがやってくる。
女子生徒「ちょっと……いい?」
薫は、裏庭に呼び出される。
薫「ど、どうして……」
薫は正直、一軍の生徒たちが怖くて声を震わせる。
だが、彼らはいつものようなへらへらした顔をしておらず、真剣な顔
女子生徒「これ、どういうことか分かる……?」
女子生徒が差し出したスマホの画面を薫が覗き込むとSNSの投稿が映されている。
それはみたこともない地下アイドル「月詠みら」の投稿で、すでに3万RTされている。
🌙ご報告🌙
いつも応援してくださっている皆さまへ。
私事で恐縮ですが、大切なご報告があります。
実は私は花岡椿さんと交際しておりました。
そして現在、妊娠しています。
しかし、彼から「産むな」「堕ろせ」と言われ、心身ともに限界になりました。
これ以上アイドル活動を続けることは出来ません。
夢を追いかけてくれた皆さん、本当にごめんなさい。
真実を知ってほしくて勇気を出して書きました。
信じるか信じないかは皆さんにお任せします。
これまで応援してくださったすべての方に感謝しています。
#花岡椿 #暴露 #セラフィムスターズ#セラスタ
薫「なにこれ……」
女子生徒「これ、夜の21時に投稿されて……今めちゃめちゃ炎上してんの」
女子生徒「知らなかったの?」
薫「ごめんチェックしてなくて」
男子生徒「道寺最近ずっと椿くんと絡んでるから……なんか知らないかって思ったんだけど」
薫「いや……ただ昨夜、面倒なことになったって言ってて……」
薫、通話を試みる。繋がらない。
薫「くそ……」
男子生徒「うちらも繋がんない……多分ブロックされてる」
薫「なんで!」
椿に否定されたような気持ちになり、薫がつい声を荒げてしまう。
そんな薫の肩を、女子生徒がポンと叩く。
女子生徒「落ち着きなって。事務所の指示かもでしょ」
薫「だとしても……」
女子生徒「とにかく、向こうから連絡くるの待つしかないね」
男子生徒「あーあ、本当についてないな」
薫「みんなはその……このアイドルの子が嘘ついてるって思ってるの」
一軍生徒たち「もちろん!!」
男子生徒「こんなの嘘に決まってるだろ」
女子生徒「売名おつって感じ」
男子生徒「それに椿くんはずっと好きな人がいて……」
女子生徒「誰だかしらないけど、こういう子じゃないと思う」
薫「ぼ、僕もそう思う」
女子生徒「だよね!」
状況は分からないものの、薫は一軍生徒たちと連絡先を交換する。
・教室 授業中 11時
薫、こっそりとスマホを見ている。
「月詠みら」の投稿にはリプライや引用が飛び交っている。
月詠みらを批判するものもあるが、椿を攻撃するものも多い。
「椿くんの笑顔もう信じられない」
「堕ろせとかやばくない?」
「花岡椿性格悪いってマジwwww」
「無名地下アイドルの承認欲求怖いっすね」
など……
薫が見ていると、メッセージが来る。
いつの間にかグループトークが作られている。
女子生徒「来たよ! 事務所の声明文」
リンクが張られる
開くと、椿の事務所の声明文が表示される。
【お知らせ】
平素より花岡椿を応援いただき、誠にありがとうございます。
SNS上において、花岡椿に関する事実無根の情報が拡散されました。内容は虚偽の交際・妊娠に関する主張であり極めて悪質なものです。
当社および本人の確認の結果、拡散された内容は全て事実無根であり、本人に関して一切そのような事実はございません。現在、法的措置を含め、名誉回復および再発防止の対応を進めております。
また、拡散の過程で本人への誹謗中傷などが確認されており、これらについても法的措置を検討しております。
ファンの皆さま、関係者の皆さまにおかれましては、引き続き変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
202X年X月X日
スターフィールド・マネジメント
メッセージが届く
女子生徒「公式見解出たね」
男子生徒「これで落ち着くかな」
女子生徒「まだ。あのクソ女の事務所の声明文が出てない」
薫「そっちも来たよ」
薫、リンクを貼る。
声明文が表示される。
【重要なお知らせ】
平素より「セラフィムスターズ」を応援いただき、誠にありがとうございます。
このたび、弊社所属「セラフィムスターズ」メンバー 月詠みら によるSNS上での一連の発言につきまして、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
当該発言の内容およびその後の本人対応は、当社が定める契約条項およびコンプライアンスに重大に抵触しており、アーティストとしての信頼を著しく損なうものであると判断いたしました。
このため、202X年X月X日をもちまして、月詠みらとの専属契約を即時解除し、「セラフィムスターズ」から除籍いたします。
また、SNS上における発言の一部には事実と異なる記載が含まれており、弊社としても極めて遺憾であると受け止めております。弊社および他所属アーティストへの名誉毀損・風評被害については、法的措置も含め厳正に対応してまいります。
ファンの皆さま、関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしましたことを重ねてお詫び申し上げるとともに、今後とも「セラフィムスターズ」への変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
202X年X月X日
株式会社ルナプロモーション
「セラフィムスターズ」運営事務局
薫「よっし!」
薫は思わず大声を出して立ち上がってしまう。
先生「どうした。そんなにやる気あるなら問い3、解いてみろ」
薫「……はい」
黒板の式を解く薫。とぼとぼと席に戻ると、一軍たちから「バカ」とメッセージが届いている。
薫「はあ……」
ため息がつくものの、一連の騒動が収束する気配を感じて、薫の表情は緩む。
・裏庭 昼休み
弁当を食べ終え、お茶を飲んでいる薫。
スマホを確認し、検索して見ると、炎上が鎮火しつつあるのが見える
「法的措置w 震えて眠れww」
「月詠みら切られました」
「虚言やばい」
などの言葉がならんでいる。
女子生徒「あー! こんなとこにいた」
突然飛び込んで来た一軍女子に、薫はお茶を吹き出しそうになる。
薫「ごめん」
女子生徒「大変なんだって」
ずい、とスマホを突き出してくる一軍女子。
女子生徒「月詠みらがまた投稿した!!!!」
薫「は?」
月詠みら「前回の投稿について「事実無根」との声明が出ていますが、妊娠は本当です。
これ以上嘘でごまかされるのは耐えられません。
私のスマホに残っているLINEのやりとりの一部を添付します。
全部は出せませんが、どうか信じてください。
#花岡椿 #真実を話します」
女子生徒「うあー! なんなんだよこの女! 椿くんは嘘だって言ってんのに」
薫「このスクショって本当なのかな」
女子生徒「そうだよね。椿くんにスマホ見せて貰えれば一発なのに」
薫「ブロックされてるからね……」
女子生徒「椿くんのこと助けたいのに」
薫「事務所がきっと対処してくれるよ」
薫(きっと大丈夫……だよね)
・薫の自宅 夜
薫(沈静化し始めていた椿くんの炎上は、月詠みらのスクショ晒しによって再び火がついた)
流れてく投稿の数々。
薫「みんな好き勝手言って……」
薫(何も出来ず悶々としているしかない僕は無力でしかない)
薫「椿くんどうしてるんだろ」
こんな心のない投稿を見て傷ついてはいないだろうか、と薫は心配になる。
見上げた窓の外は月、同じ月を椿も見ている。
・椿の部屋 夜
椿「……」
椿の表情には疲れが見える。
薫(それからは無事に修学旅行を終えることができた。僕は少し友達が出来た)
奈良の大仏の前で、行動班のみんなと撮った記念写真を見る。
薫「ただいま~! 漬物買ってきたよ」
薫は元気よく自宅に帰る。
・薫の部屋 夜
椿からのメッセージ。
椿「おみやげで姉ちゃんに殺されずにすんだ」
薫「ははは」
薫(なんだかんだ楽しかったな修学旅行)
薫(それにしても……椿くんの好きな人って誰なんだろう。結局自由行動も僕と一緒だったし)
薫、ベッドの上にごろんところがり、ひざを抱える。
薫(告白しないのかな。椿くんが振られることなんてないよな……)
薫(そしたら……今みたいに遊べないのかな……僕が口出すことじゃ……)
椿から着信。
椿「おす」
薫「……おす」
椿「旅行楽しかったね。あのさ、冬休みに入ったら少し遠出しようよ」
薫「ご当地カレーを食べますが……?」
椿「いいね。候補地あげておいて。……あとさ」
椿が一瞬黙り込み、薫は耳を澄ます。
椿「ちゃんと謝って無くてごめん。怖い思いさせちゃって」
薫「そんなの! あのキショキショヤンキーがぜったい! 全面的に悪いんだから」
椿「ぷっ……言い過ぎ」
薫「気にしなくて良いよ……じゃ」
薫(好きな人のこと聞けなかった)
通話の切れた画面を見つめながら、薫はため息をつく。
・教室 朝
生徒達は互いにおはよと声を掛け合っている。
薫はいつものように黙って教室に入り、リュックをおろす。
男子生徒「おはよ!」
薫、ぎょっとする。よく見ると、ホテルで同室だった生徒。
薫「おはよ」
薫、照れながら返事を返す。
無事にコミュニケーションの取れた薫はほっと胸をなで下ろす。
椿「おはよー」
そこに椿が登校してくる。人気者らしく、沢山の生徒と挨拶しながら入ってくる。
薫(……よし)
薫はつかつかと椿に近づく。薫に気づいた椿、不思議そうな顔をする。
薫「つ、つばき……椿くんおはよう!」
薫は緊張のあまり震えている。教室中の視線が薫に向かう。
椿は薫が勇気を出してくれたのを感じて微笑む。
椿「おはよ。またあとでね」
薫「う、うん」
椿は自分の席に向かっていく。そして薫は小さくガッツポーズをする。
薫(あとでって昼休みかな)
薫、始まった授業をぼーっとしながら聞く。
薫(冬休み……どこ行こう。少し遠出……日帰り出来るところか……神奈川とか千葉の海とか……山でもいいな。栃木、群馬……)
旅行先を思い浮かべながら、薫はハッとする。
薫(バイト……しよう!)
薫(椿くんはモデルの仕事があるもんな。僕も……)
薫はわくわくする。
・裏庭 昼休み
薫はいつもの場所で弁当を食べている。
おかずを一つづつゆっくり食べているが、椿が現れる様子がない。
薫(どうしたんだろう)
しばらく待つが誰もこない。
薫(もう!)
薫は教室に戻り、椿の机に向かう。
その様子に一軍女子が気づいて声をかける。
女子生徒「あー陰キャくんじゃーん」
薫「あの……椿くんは?」
女子生徒「あーね、なんか帰っちゃった」
薫「帰った? ど、どうしたの?」
女子生徒「具合悪いとかって」
薫「ええ!?」
薫、とぼとぼと席に戻り、椿に「大丈夫?」とメッセージを送る。
薫(既読にならない……いつもならすぐなのに)
・放課後 椿の家の前
プリンの入ったコンビニの袋を手に提げて、薫は椿のマンションを見上げる。
薫(プリン食べられるかな)
インターホンを押す。姉の蓮が出てくる。
蓮「はいー! あれ、椿の友達じゃん」
薫「あの……椿くんどうしてます?」
蓮「はあ? 今いないけど? まあいいやあがって」
入り口のオートロックが開く。
・椿の家の玄関
蓮「椿ならまだ帰ってきてないけど?」
薫「えっ、早退したって聞いたんですけど」
蓮「なんだぁ、サボりぃ?」
薫「わかんないですけど……えっとこれ良かったら食べて下さい」
蓮「えーいいのお?」
連にプリンを押しつけ、薫はマンションを出る。
いまだ既読にならないメッセージを見て、薫は思いきって電話をかける。
呼び出し音が鳴るが、椿はでない。
・薫の自室 夜
薫(結局連絡取れないし……)
メッセージの通知音。薫は慌ててスマホを手に取る。
薫「椿くん……」
椿『悪い、ちょっとややこしいことになった』
薫はすぐに電話をかける
薫「もしもし、なにがあったの?」
椿「……今日事務所に呼ばれて。内容は言えないんだけど」
電話の向こうで椿が言葉を詰まらせる。
椿「しばらく学校も休むけど、大丈夫だから」
薫「えっ、ちょ……」
通話が切れる。薫はじっとスマホを見る。
・教室 朝
薫(本当に来てない……)
薫、教室に椿が登校していないことを確かめ、ため息をつく。
そこに一軍生徒たちがやってくる。
女子生徒「ちょっと……いい?」
薫は、裏庭に呼び出される。
薫「ど、どうして……」
薫は正直、一軍の生徒たちが怖くて声を震わせる。
だが、彼らはいつものようなへらへらした顔をしておらず、真剣な顔
女子生徒「これ、どういうことか分かる……?」
女子生徒が差し出したスマホの画面を薫が覗き込むとSNSの投稿が映されている。
それはみたこともない地下アイドル「月詠みら」の投稿で、すでに3万RTされている。
🌙ご報告🌙
いつも応援してくださっている皆さまへ。
私事で恐縮ですが、大切なご報告があります。
実は私は花岡椿さんと交際しておりました。
そして現在、妊娠しています。
しかし、彼から「産むな」「堕ろせ」と言われ、心身ともに限界になりました。
これ以上アイドル活動を続けることは出来ません。
夢を追いかけてくれた皆さん、本当にごめんなさい。
真実を知ってほしくて勇気を出して書きました。
信じるか信じないかは皆さんにお任せします。
これまで応援してくださったすべての方に感謝しています。
#花岡椿 #暴露 #セラフィムスターズ#セラスタ
薫「なにこれ……」
女子生徒「これ、夜の21時に投稿されて……今めちゃめちゃ炎上してんの」
女子生徒「知らなかったの?」
薫「ごめんチェックしてなくて」
男子生徒「道寺最近ずっと椿くんと絡んでるから……なんか知らないかって思ったんだけど」
薫「いや……ただ昨夜、面倒なことになったって言ってて……」
薫、通話を試みる。繋がらない。
薫「くそ……」
男子生徒「うちらも繋がんない……多分ブロックされてる」
薫「なんで!」
椿に否定されたような気持ちになり、薫がつい声を荒げてしまう。
そんな薫の肩を、女子生徒がポンと叩く。
女子生徒「落ち着きなって。事務所の指示かもでしょ」
薫「だとしても……」
女子生徒「とにかく、向こうから連絡くるの待つしかないね」
男子生徒「あーあ、本当についてないな」
薫「みんなはその……このアイドルの子が嘘ついてるって思ってるの」
一軍生徒たち「もちろん!!」
男子生徒「こんなの嘘に決まってるだろ」
女子生徒「売名おつって感じ」
男子生徒「それに椿くんはずっと好きな人がいて……」
女子生徒「誰だかしらないけど、こういう子じゃないと思う」
薫「ぼ、僕もそう思う」
女子生徒「だよね!」
状況は分からないものの、薫は一軍生徒たちと連絡先を交換する。
・教室 授業中 11時
薫、こっそりとスマホを見ている。
「月詠みら」の投稿にはリプライや引用が飛び交っている。
月詠みらを批判するものもあるが、椿を攻撃するものも多い。
「椿くんの笑顔もう信じられない」
「堕ろせとかやばくない?」
「花岡椿性格悪いってマジwwww」
「無名地下アイドルの承認欲求怖いっすね」
など……
薫が見ていると、メッセージが来る。
いつの間にかグループトークが作られている。
女子生徒「来たよ! 事務所の声明文」
リンクが張られる
開くと、椿の事務所の声明文が表示される。
【お知らせ】
平素より花岡椿を応援いただき、誠にありがとうございます。
SNS上において、花岡椿に関する事実無根の情報が拡散されました。内容は虚偽の交際・妊娠に関する主張であり極めて悪質なものです。
当社および本人の確認の結果、拡散された内容は全て事実無根であり、本人に関して一切そのような事実はございません。現在、法的措置を含め、名誉回復および再発防止の対応を進めております。
また、拡散の過程で本人への誹謗中傷などが確認されており、これらについても法的措置を検討しております。
ファンの皆さま、関係者の皆さまにおかれましては、引き続き変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
202X年X月X日
スターフィールド・マネジメント
メッセージが届く
女子生徒「公式見解出たね」
男子生徒「これで落ち着くかな」
女子生徒「まだ。あのクソ女の事務所の声明文が出てない」
薫「そっちも来たよ」
薫、リンクを貼る。
声明文が表示される。
【重要なお知らせ】
平素より「セラフィムスターズ」を応援いただき、誠にありがとうございます。
このたび、弊社所属「セラフィムスターズ」メンバー 月詠みら によるSNS上での一連の発言につきまして、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
当該発言の内容およびその後の本人対応は、当社が定める契約条項およびコンプライアンスに重大に抵触しており、アーティストとしての信頼を著しく損なうものであると判断いたしました。
このため、202X年X月X日をもちまして、月詠みらとの専属契約を即時解除し、「セラフィムスターズ」から除籍いたします。
また、SNS上における発言の一部には事実と異なる記載が含まれており、弊社としても極めて遺憾であると受け止めております。弊社および他所属アーティストへの名誉毀損・風評被害については、法的措置も含め厳正に対応してまいります。
ファンの皆さま、関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしましたことを重ねてお詫び申し上げるとともに、今後とも「セラフィムスターズ」への変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
202X年X月X日
株式会社ルナプロモーション
「セラフィムスターズ」運営事務局
薫「よっし!」
薫は思わず大声を出して立ち上がってしまう。
先生「どうした。そんなにやる気あるなら問い3、解いてみろ」
薫「……はい」
黒板の式を解く薫。とぼとぼと席に戻ると、一軍たちから「バカ」とメッセージが届いている。
薫「はあ……」
ため息がつくものの、一連の騒動が収束する気配を感じて、薫の表情は緩む。
・裏庭 昼休み
弁当を食べ終え、お茶を飲んでいる薫。
スマホを確認し、検索して見ると、炎上が鎮火しつつあるのが見える
「法的措置w 震えて眠れww」
「月詠みら切られました」
「虚言やばい」
などの言葉がならんでいる。
女子生徒「あー! こんなとこにいた」
突然飛び込んで来た一軍女子に、薫はお茶を吹き出しそうになる。
薫「ごめん」
女子生徒「大変なんだって」
ずい、とスマホを突き出してくる一軍女子。
女子生徒「月詠みらがまた投稿した!!!!」
薫「は?」
月詠みら「前回の投稿について「事実無根」との声明が出ていますが、妊娠は本当です。
これ以上嘘でごまかされるのは耐えられません。
私のスマホに残っているLINEのやりとりの一部を添付します。
全部は出せませんが、どうか信じてください。
#花岡椿 #真実を話します」
女子生徒「うあー! なんなんだよこの女! 椿くんは嘘だって言ってんのに」
薫「このスクショって本当なのかな」
女子生徒「そうだよね。椿くんにスマホ見せて貰えれば一発なのに」
薫「ブロックされてるからね……」
女子生徒「椿くんのこと助けたいのに」
薫「事務所がきっと対処してくれるよ」
薫(きっと大丈夫……だよね)
・薫の自宅 夜
薫(沈静化し始めていた椿くんの炎上は、月詠みらのスクショ晒しによって再び火がついた)
流れてく投稿の数々。
薫「みんな好き勝手言って……」
薫(何も出来ず悶々としているしかない僕は無力でしかない)
薫「椿くんどうしてるんだろ」
こんな心のない投稿を見て傷ついてはいないだろうか、と薫は心配になる。
見上げた窓の外は月、同じ月を椿も見ている。
・椿の部屋 夜
椿「……」
椿の表情には疲れが見える。



