石畳に叩きつけられたオスハルトは、汗と血にまみれた顔を苦痛に歪め、かすれた呻き声を漏らしていた。

 かつての盟友の姿は、魔王の呪いに侵されながらも、どこか昔の面影を残していた。

 キージェはその傍らに膝をつき、まるで墓前に花を供えるように、剣をオスハルトの顔に突きつけた。

「俺がとどめを刺してやる」

 キージェの喉は渇き、声は震えていた。

「おまえはもう不死身の魔物じゃねえ。死んでいった仲間たちのところへ帰れるんだ。感謝しろよ」

「クアジャ……俺は……」

 オスハルトの声はかすれていたが、その瞳には一瞬、かつての誇り高き黒衣騎兵の光が宿ったように見えた。

「今さら命乞いなんかするんじゃねえよ」

 己の心を奮い立たせるようにキージェはつぶやいた。

 虫の息のオスハルトの顔に苦痛にゆがんだ笑みが浮かぶ。

「おまえの手で……俺の心臓をえぐり出してくれ。二度と復活できないようにな。今さら都合のいい頼みかもしれないが……冥界で、静かに眠らせてくれ」

「わかったよ」と、喉を詰まらせ短く答えた声は、感情を押しつぶす石のように硬かった。

 戦場で共に剣を振るい、命を預け合ったあの時間は、もう取り戻しようがないのだ。

「魔王を倒せ、クアジャ。呪いを解け。そして……惚れた女を苦しめるなよ」

 ――それがおまえの遺言かよ。

 キージェの目から、熱い雫がこぼれ落ち、死を受け入れた男の頬を濡らした。

「雨……か」と、盟友(とも)が目を閉じ、かすかに笑う。「あたたかい雨だな」

「うおおおおぉっ!」

 キージェは剣を振り下ろした。

 刃はオスハルトの胸を貫き、かつての盟友の心臓を突き刺した。

 それは二人の過去を葬る墓標のように血がにじんで錆びついていた。

 戦場で大いびきをかいて眠っていたオスハルトの豪胆さ、女たちの視線をさらった甘い笑顔、仲間を守るために命を賭けた勇気――そのすべてが、キージェの胸に去来し、静かに消えていった。

 突き刺した剣を杖に立ち上がると、乾いた風が無精ひげを撫で、むなしさが頭をふらつかせた。

「俺はこんなことのために生きてきたのか」

 キージェの呟きは、誰にも届かない独白だった。

 共に戦った記憶が粉雪のように散り、頭の中は真っ白に閉ざされた。

 だが、二度目の死を迎えた盟友に安らぎを与えてやれたことに後悔はなかった。

 血だまりの中に佇むキージェを、クローレが見上げている。

「キージェ……終わったんだよね?」

 女の瞳は涙で潤み、声は震えている。

「ああ」

 キージェは短く答えた。

「勝ったんだよね?」

 クローレの声には、確かめずにはいられない不安がにじんでいた。

「ああ」と、キージェはうなずき、女の瞳をまっすぐに見つめた。「おまえさんの復讐は終わったんだよ」

 クローレの表情が崩れた。

「よかった……キージェが死ななくて、本当によかった!」