「俺の剣は刃で切るんじゃない。ストームブレイドの《嵐》には二つの意味がある。嵐のような剣捌きの素早さと、そしてもう一つは、剣の圧という意味の嵐だ」

 森の静寂に重く響くキージェの説明にクローレが首を傾げる。

「剣の圧?」

「触らずに、切る。圧をかけた段階で切っているんだ。だから錆びていても血で曇っていても関係がない。木刀……いや、ただの木の枝でも切れる」

「そんなこと、本当にできるの?」

 クローレの声には半信半疑の色が滲むが、目はキージェの剣から離れない。

「おまえ、特等席で見てたじゃねえかよ」

 キージェがニヤリと笑う。

 ヴェルザードたちを一瞬で圧倒した技が何よりの証拠だ。

「うん、まあ、そうだけど……」

 クローレは口ごもり、銀髪を指で弄びながら何か言いたげに目を泳がせる。

「なんだ、言えよ」

「だけどやっぱり、手入れぐらいした方がいいんじゃないの?」

「こうしておいた方がいいんだ」

「なんで?」

 キージェは一瞬目を細め、背を向けた。

「血を忘れないようにするためだ」

 ――そして、重ねた業の深さを……な。

 森の風が一瞬止まり、泉の水面が静かに揺れた。

「ねえ、師匠、マント脱いでいい?」

「んあっ!?」

 思いがけない質問に思わず変な声が出て、咳払いでごまかす。

「お、おう、いいぞ。身軽じゃねえと勝負にならねえからな」

 マントを脱ぎ丁寧に木の枝にかけると、クローレはフレイムクロウを握り直し、泉の畔に立ち、足を開いて構えた。

 キージェも剣を構えて向き合う。

 ――やっぱりマント着せときゃ良かったな。

 直視できねえよ。

「いいか、本気でかかって来いよ」という言葉とは裏腹に、おっさんの視線は宙をさまよっている。

「分かってますって」と、返事も軽い。

 キージェは頬を引き締め、あらためて注意した。

「あのな、本気の意味が分かってるか。相手を容赦なく仕留めるってことだぞ。俺を殺すつもりでかかってこいってことだ」

「まあそれくらいの気合いでって言うのは分かるけど、さっきからちょっと大げさなんじゃないの? べつに本気で殺し合うわけじゃないでしょ、練習なんだから」

「だから、それだとお互い怪我じゃすまなくなるんだって」

「わかりました」と、クローレが深く息を吸い込んだ。

「よし、来いっ!」

「行きます!」

 クローレは叫び、地面を蹴った。

 瞬間、フレイムクロウが赤い炎を纏い、灼熱の尾を引きながらキージェの耳元を切り裂き、熱風がかすめた。

 クローレの動きは流れるようで、直線的な打突から回転技への移行も滑らかだ。

 剣が弧を描き、炎の渦がキージェを飲み込もうとする。

 炎弧旋回《ジャイロブレイズ》からの火炎乱舞《フレイムスプラッシュ》。

 泉の水面が熱で揺らぎ、木々の葉がチリチリと焦げた。