フレイムクロウを突き出し構えたクローレに対し、キージェは壁伝いに走り、真横からの攻撃を狙った。

 先頭の騎兵が振り下ろす長剣に、クローレはフレイムクロウを立てて合わせた。

 互いの刃が交錯した瞬間、炎が強く燃え上がり、拡散した熱波が旋風を巻き起こした。

 炎気(フレイムハート)障壁(イージス)にたじろぐ部下の陰からオスハルトが剣を突き出す。

 クローレは怯まず正面から受けると、体をひねって剣を背中に回して敵の勢いをそぐ。

「生意気な!」

 オスハルトは自らの足のごとく馬の向きを変え、再び剣を振るう。

 切っ先がクローレの前髪を跳ね上げ、銀の毛が朝焼けに輝き、宙を舞う。

 背中を反らし、かろうじて直撃を避けたクローレは後方跳びで間合いを取り、両脚を広げて石畳に踏みとどまった。

 ――ほう。

 たいしたもんだ。

 さすが、冒険者としてSランクってだけのことはある。

 あれだけの身のこなし、しかも、胸におもりをつけてるようなものなのにな。

 それにくらべて俺は……。

 息は上がって心臓は破裂しそうで脚はもつれる。

 昔は、あんなふうに身軽だったんだけどな。

 と、その瞬間、キージェはクローレと対峙するオスハルトの姿に釘付けになった。

 ――おまえ。

 死んだはずの盟友との再会が衝撃的すぎて気づかなかったのだが、盟友はかつての姿をそのままにとどめていた。

 しみ一つないつやのいい肌、隆々とした筋肉、濃くて太い毛髪。

 あまりにも十五年前の記憶、当時の姿そのまますぎて、まるで違和感がなかったのだ。

 俺は白髪交じりのおっさんなのに、おまえは本当に不死身になったのか。

 魔物……なのか。

「何をぼんやりしている! かかってこい!」

 ――いかん。

 戦いのさなかに物思いにふけりすぎた。

 気づけば目の前にオスハルトがいた。

「キージェ、今行くから!」

 クローレは三騎に阻まれ動けずにいる。

 脚をもつれさせながら後退したキージェは、転がっていた布袋につまずいて尻餅をつき、無様に股を開いて後転した。

 みっともない姿をさらしたが、おかげでオスハルトの突進を回避できた。

 ――しっかし、なんだよ、危ねえな。

 広場の隅に投げようとつかむと、それはただの布袋ではなく、黒衣騎兵に引きずって連行されたヴェルザードたち三人だった。

 擦りむけた肌は赤黒くただれ、ぴくりとも動かないが、まだ息はあるらしい。

 ヒュイッと、口笛で雪狼を呼び寄せると、血まみれの口を突き出しながら広場をまっすぐ駆け抜けてきた。

 ――なんだ、おまえさん、ずいぶん暴れたんだな。

 ミュリアは長い舌で、ペロリと血を拭う。

 キージェは心の中で語りかけた。

 ――おまえさんのヒーリング能力で、こいつらを治してやってくれ。

 頼んでから、三人がミュリアを罠にかけたことを思い出した。

 だが、ミュリアの返事は寛大だった。

 ――大丈夫。

 いいのか?

 ――まかせて。

「よし、頼んだぞ」

 キージェはミュリアの背中に手をかけながら立ち上がると、クローレの援護に駆けつけた。