ミーナに支えられながらセルジオもやってきた。

「ほれ、皆の者、火をつけるのじゃ!」

 村人が松明で藁に火をつけると、黒い煙を上げながら天高く炎が上がる。

 黒衣騎兵の馬は狭い路地で身動きが取れず、足踏みをするばかりだ。

 そこへ、背後から燃える藁を満載した荷車が押し込まれた。

「しまった! 挟まれた!」

 それは敵を包囲する罠だったのだ。

 連戦連勝の黒衣騎兵も黒煙に巻かれ、苦痛に顔をゆがめて次々と落馬していく。

「五年前の襲撃以来、我々も学んだのだよ。弱いだけではなすがままにやられるばかりじゃ」

 セルジオの声は老いた体とは裏腹に力強かった。

「この日に備えて、村を要塞化しておったんじゃ」

 木造だった家を石造りに変え、路地全体をパン焼き釜の罠に仕立て上げてあったのだ。

 夫や妻に親や子、恋人や仲間、愛する者を殺された人々の恨みや憎しみが爆発した。

「燃やせ! 今度は俺たちが燃やすんだ!」

 両側の建物の窓からも藁束が投げ込まれ、燃え移った炎が火の雨となって兵士たちに降りかかる。

 泡を吹いた馬が兵士を踏みつけ逃げ惑う。

 そこへ、建物の扉が開かれ、住人が中に引き入れ、裏口に誘導して救い出す。

「精悍な馬は惜しい。俺たちがもらうぞ」

 やられるだけの屈辱から立ち上がった村人たちはたくましい。

 火傷を負った兵士たちはしばらくはのたうちまわっていたが、そのうち黒い炭となって動かなくなった。

「キージェ、こっち」

 クローレが路地の角から現れ、フレイムクロウを振り上げる。

 汗に濡れた銀髪が炎に輝き、その瞳にも闘志が宿っていた。

 ストームブレイドを握ってクローレと共に広場に向かうと、教会の前ではミュリアが駆け回り、牧畜犬のごとく広場から出さぬように馬を制御していた。

 二階の窓から矢を射るクレアも、路地に隠れようとする黒衣騎兵を威嚇し、広場にあぶり出している。

 右肘を射貫かれた兵士が落馬する。

 他の兵は仲間を気にすることなく馬蹄の下敷きにしてしまう。

 物陰から様子を探っていたキージェは窓辺で次の矢をつがえるクレアを見上げた。

 ――あれは……まさか。

 狙っているのか。

 腕や脚を狙って落馬させ、苦痛を与え、死の恐怖を味わわせる。

 そのためにわざと急所を外して撃っているのだ。

 しかも、馬に当たらないように、兵士が手綱を握った瞬間を狙っている。

 とんでもない使い手だ。

 敵じゃなくて良かったぜ。

「よし、行くぞ」

 キージェとクローレは剣を構えて同時に広場に躍り出た。

「いたぞ!」

 オスハルトがクレアの放つ矢をなぎ払い、三騎を引き連れ突進してくる。