女剣士(ヒロイン)拾っただけなのに ~なんで俺がラブコメの主人公にならなきゃならねえんだよ~

「俺の部屋は隣か?」

 キージェが動揺を隠しながら無精ひげを撫でると、クレアは口に手を当てくすりと笑った。

「あら、ご夫婦なんでしょ?」

 本当にそう思っているのか、からかっているのか、赤くなるキージェの腕をクレアが軽く揺する。

「こんな可愛い奥さんと一緒ですもの、遠慮しなくていいのよ」

「やだぁ、そう見えます?」

 目をキラキラさせたクローレがまとめた銀髪のピンを外してベッドから立ち上がる。

「え、ご夫婦だったんですか!?」と、後ろからついてきていたミーナまでもが本気にしてしまう。「全然そんな風に思わなかった」

 ――いや、あんたが正常だから。

 クローレは頬を赤らめ、身をよじりながらキージェの胸をつつく。

「ねえ、キージェ、夫婦だってよ!」

「冗談に決まってんだろ。真に受けんな」

「なによ、照れちゃって」と、唇をとがらせつつ、指ツンツンが止まらない。

「いくつになってもかわいい殿方ね」

 相変わらずクレアは本気なのか冗談なのか区別がつかない。

 ――ふーふ、うふふ。

 ミュリアの心の笑いまでがキージェを動揺させる。

 クローレが腰に手を当て胸を張った。

「でもさ、リーダーの私が一緒の部屋でもいいって言ってるんだから、いいよね?」

「おまえ……あ、ええと、リーダーはミュリアと一緒に寝ればいいだろ。俺は隣にいくぞ」

 言葉づかいを気にする余裕もなく、もはや従者という設定など吹っ飛んでいた。

「つまんないの」と、クローレは頬を膨らませつつ、ミュリアを呼び寄せ、もう一度ベッドにドスンと腰掛ける。「ま、いっか。野営とは大違いだね、ミュリア」

 雪狼は、犬のふりをして尻尾をしきりに振り、ご機嫌な姿をクレアに印象づけている。

「じゃあ、ご夫婦、二部屋ってことでいいのね」

「あ、そうしてくれ」と、キージェは自分から隣の部屋をのぞきに行った。「夫婦じゃねえけどな」

 部屋の入り口に並んだ瞬間、クレアが耳打ちした。

「あなた、兵士だったでしょ」

 キージェの心臓が跳ねた。

「しかも、腕はかなりのようね」

 クレアの目は、柔和な笑顔とは裏腹に、鋭く刺さってくる。

 キージェは腹を据えた。

「あんたもただの宿屋のかみさんじゃないな。あの弓は今でも手入れされている」

「さすが、よく見てること」

「しかも、あの矢についてるのは対人殺傷用の(やじり)だ。冒険者にしては、ずいぶんと物騒じゃないか」

「防犯用……と言っても、納得しないでしょうね」

 うふふと、余裕の笑みをこぼす仮面の下には、何を隠しているのか読めない。

 こちらの手の内をすべてさらしたところで出方を探ろうとしたが、それ以上追求する気はないらしい。