荷物を背負った一行は暗くなる前にリプリー村に到着することができた。

 丘陵の向こうに夕日が沈み、裾野のゆるやかな斜面に点在する石灰岩の家々には蝋燭やランプの明かりが灯り、煙突から炊事の細い煙が上がっている。

 教会の尖塔から響く鐘の音は染み入るように村全体に広がり、巣に帰る鳥が甲高い鳴き声を上げながら森の上を飛んでいく。

 牧草地にいた羊や牛はみな家畜小屋へもどって、空には一番星が瞬き始めていた。

「ふわぁ、やっと着いたね。お腹減っちゃったなぁ」

 マントに包んだ戦利品を背負ったクローレが、あくびをしながら軽やかな足取りで村の入り口に続く石畳を進んでいく。

 隣を歩くミュリアは、背中にくくりつけた麻袋を揺らし、時折鼻をひくつかせて周囲の匂いを確かめている。

 純白の毛並みは薄闇の中でも淡く輝き、まるで地上に降りた天の川のようだ。

「ミュリアと一緒だと暗い道も安心だね」

「とは言っても、早いところ宿を取らないとな」

 キージェは肩に担いだ麻袋の重さに顔をしかめながら、無精ひげを撫でた。

 鉤爪熊の爪と毛皮、ヴォルフ・ガルムの牙が詰まった荷物は、四十五歳のおっさんの腰にずっしりと響いて、もう限界だった。

 村の入り口に、丸太を割って作られた村の名前を示す看板と、教会や市場への方向を示した道しるべが立っている。

 ただ、そんなものを見なくても、小さな村だから道に迷う心配はなかった。

 しかし、通り過ぎようとした一行は、看板の横に貼られた手配書を見て思わず足を止めた。

「ちょっと、これ、キージェじゃないの?」

《クアジャ。四十五歳、男性、黒マント、無精ひげ、剣の達人。金貨千枚。生死問わず》

 王国の名で掲示されたお尋ね者の張り紙に描かれた人物の特徴は、間違いなくキージェそのものだった。

 しかも、村人が一生暮らせるくらいのかなり高額な賞金までかけられている。

 ただ、そこに書かれた罪状がどうにも納得がいかないものだった。

《婦女暴行犯》となっているのだ。

「なんで俺が?」

「心当たりあるの?」

「ねーよ。あるわけねえだろ。女に縁のない人生だったんだからよ」

「だからじゃないの」と、クローレが腕で胸を隠しながらじりじりと後ずさる。

 ちょ、おまえ、やめろよ、そういう顔すんの。

 ちげえって。

 誓って俺はやってないって。

「昨日ベルガメントを出たときには、こんな手配書なかったよな」

 紙には汚れや破れはなく、掲示されたばかりのようだ。

「キージェを襲ってきた連中が帰らなかったから、わざわざ手配書を出したのかな?」

「だろうな」

 それにしても妙だ。

 十五年もの間隠れて生きてきたのだ。

 その間、こんな手配書を出されたことはなかったし、見つかって返り討ちにしたとはいえ、すぐにこんな手段をとる意味があるのだろうか。

 しかも、脱走兵と書かず、婦女暴行犯などと卑劣な印象を与えようとする目的も気になる。