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翌朝、キージェは鳥のさえずりに目を覚ました。
朝霧が湖畔を漂い、清々しい空気が顔を撫でていく。
ん?
下半身が痛い。
四十五歳のおっさんは久しく忘れていた感覚を思い出し、苦笑していた。
なんだよ、こんなに反り返るほどの朝の反応はずいぶんご無沙汰なのにな。
黒衣騎兵の頃は朝目覚めるたびに、仲間から「おいおい、馬じゃねえんだからよ。おまえに背中を向けて寝たら知らねえうちに突っ込まれるじゃねえかよ。危ねえやつだな」と、からかわれてたものだがな。
あくびをかみつぶしながら起き上がろうとしたキージェは、しかし凍りついた。
目の前に十歳ほどの少女が眠っているのだ。
しかもなぜか頭と足が逆さまだ。
――だ、誰だよ、こいつ。
と、今度は背中に誰かが体を押しつけてきた。
「うふっ、うふふ」という寝言の笑い声とともに、甘い香りに包まれる。
ちょ、ま、おいっ!
背中にいるのはクローレらしい。
キージェの首に腕を回し、何と勘違いしているのか、しっかりと抱きついてくる。
「もう、やだぁ……うふっ、あん」
やなのはこっちだよ。
クローレの腕が首にはまってグイグイと締まっていく。
く、苦しい……。
寝ぼけた女に殺されるのか、俺?
首を絞めるのと同時に胸が押しつけられ、脚が絡みつき、耳には笑いとともに吐息が吹きかけられる。
何の拷問だよ。
「うふっ、もう、だめだったら、キージェってばぁ」
馬鹿野郎、だめなのはおまえだ。
俺は何もしてねえよ。
「ちょっと、だけだよ……あん、もう、だから、そこは……うふふ」
おい、こら、夢の中の俺、一体何やってんだよ。
そこってどこだ!
ちきしょう、生殺しじゃねえかよ。
俺をそっちの俺と交代させろ。
うらやましくねえ……うらやましいぜ、勝手に手を出しやがってこの野郎、俺じゃねえ俺。
と、今度は前にいる少女がキージェの下半身に頭を寄せてきた。
四十五歳のおっさんに似合わない下半身の障害物に少女の額がぶつかりそうになって、キージェは思わず腰を引こうとしたが、クローレの脚ががっちりはまり込んで下がれない。
た、助けて……くれ、いや、いっそのこと、このまま殺してくれてもいいっていうか、その方がいいんだが、でも、この状態で死んだら、最低下劣なおっさんと非難されるんだろうけど、死んじまったらどうでもいいから、このままが最高かもしれないとか言ってる場合じゃねえだろ。
「ぐおっ!」
いきなり寝ぼけた少女の蹴りがキージェの顔にめり込む。
鼻がツーンとし、生暖かい鉄の臭いが頭を駆け回る。
いや、ちょっと、待て。
この状態で鼻血まで出してたら、ただの変態だろ。
キージェは必死に鼻の付け根を抑えて出血を止めた。


