「ほら、焼けたぞ」

 二匹目を先にクローレに渡す。

「わーい、いいの?」

「リーダー様だからな」

「それでは、いただきます」

 勢いよくかじりついたクローレは唇に魚の脂を光らせながら、「んー、おいしい!」と目を細めて幸せそうに微笑んだ。

 ミュリアはすでに骨になった魚をガフガフと砕いている。

 ――やっぱり、狼だな。

 キージェはようやく焼き上がった自分の分にかじりついた。

 じゅわりと脂がにじみ出て岩塩の風味とからみあい、あぶられたパリパリの皮の香ばしさが絶妙だ。

 ずしりと重たいのに、あっという間になくなってしまった。

 骨をミュリアにやると喜んでかじりついている。

 白身より、そっちの方が好きなのか。

 ――ごちそう。

 そいつは何よりだな。

 三匹分の骨まできれいになくなると、クローレは市場で買ってきた干しぶどうを手のひらにおいて、ミュリアに食べさせた。

「すっかり懐いてるな」

「賢くてかわいくて、いい相棒だよね」

 ――三百歳だと知ったら、驚くだろうな。

 キージェが一人で笑みを浮かべていると、クローレににらまれる。

「何ニヤけてんの」

「なんでもねえよ」

 さっきまでかろうじて残っていた夕日はすっかり沈み、空には星が散らばっていた。

 クローレは立ち上がると、軽やかにステップを踏みながら火のまわりで踊り出した。

 ミュリアも飛び跳ねながらそれについて回る。

 純白の毛並みが夕日に代わってたき火の炎に染まり、火の玉が舞っているかのようだ。

 二人の動きは息が合い、湖畔は小さな舞台に変わっていた。

 無垢な笑顔にえくぼを浮かべたクローレが後ろ向きに手拍子をすると、ミュリアもくるくる向きを変えながら跳躍し、二人の舞踏は盛り上がっていく。

 一周回って、座ったままのキージェの肩をたたいて通り過ぎたクローレが、「ほらほら」と、手招きする。

 はあ、俺も?

 勘弁してくれ。

 俺は歌とか踊りは全然ダメなんだよな。

 腰をくねらせ胸を揺らしながらクローレがキージェに迫ってくる。

「ほらほら、ヴォルフ・ガルムみたいに追いかけてきてよ」

 ミュリアの声が聞こえる。

 ――男、みな、狼。

 あほか。

 狼が言うな。

 キージェはやけくそで両手を爪に見立ててクローレを追いかけ回した。

「あはは、そうそう、ほら、こっち」

 後ろ向きに火のまわりを回るクローレのそばでミュリアが跳ね回り、キージェはやる気のない声で、「ガオー」と追い回す。

 なんだよ、これ。

 ただ火の回りを歩いてるだけじゃねえか。

「キージェ、狼っていうより幽霊だよ」

「ガオガオ」

「全然怖くなーい」

 ケラケラと笑いながらくるりと回転すると、髪を縛っていた紐が解けて銀髪が炎に煽られ、星空に舞う。