「でも、雪狼って狩猟禁止だよね。こんな罠にかけるなんて、ひどいことするよね」

 クローレの声に怒りがにじむ。

 雪狼は王国全土で捕獲が禁じられた神聖な存在であり、その毛皮や牙を狙う密猟者は法で厳しく罰せられる。

 だが逆に、だからこそ、裏では高値で取引されることから、冒険者の間では手を出す不届き者が後を絶たない。

 王都の貴族にでも売れれば十年は遊んで暮らせる。

 買った貴族どもは、禁猟前の時代から受け継いだものだと言えば追及されることはないというわけだ。

「ねえ、罠を外してあげようよ」

「待て、油断するな。俺たちが仕掛けたと思われたら、噛みつかれるぞ」

「じゃあ、どうするのよ」

 雪狼を怒らせないように罠を外す方法を考えていたときだった。

 二人は不快な笑い声に囲まれた。

「おいおい、俺たちの獲物を横取りする気か」

 森の中から現れたのは、ヴェルザード、リリス、ガルドの三人組だった。

「あっ、あんたたち!」と、クローレが指をさす。「横取りしたのはそっちじゃないのよ。こんなひどいことするなんて許せない」

「おまえらか」と、キージェも腰を上げて剣に手をかけた。「まったく、どうしようもないやつらだな」

 ヴェルザードが罠の鎖を持ち上げ、これ見よがしに揺らして音を鳴らす。

「ふん、昨日は引退したおっさんだと思って油断してたからな。借りは返すぜ」

 ヴェルザードがリリスとガルドに鋭い視線を送る。

「おっさんは俺が片付ける。おまえらは女をやれ」

 ガルドが戦斧を握り直し、ニヤリと笑う。

「おう、任せとけ。ついでに、かわいがってやってもいいよな」

 リリスが細い木の幹のようにまっすぐな自分の体を腕で隠しながら吐き捨てる。

「この女、気に入らないのよね。見てるだけでイライラする」

「師匠、あたしのことは心配しないで」

 クローレがフレイムクロウを抜き、炎をまとわせる。

「まったく、懲りねえやつらだな」

 渋い表情でキージェが錆びた剣を抜く。

 地面に横たわる雪狼が低く唸り、金色の瞳でヴェルザードたちを睨みつけていた。

「しっかりね」と、クローレが柔和な表情を向ける。「仇は取ってあげるから」

 リリスが舌を出し、短剣をなめながらせせら笑う。

「その罠には毒が塗ってあるのよ。そいつ、もうすぐ死ぬわ」

「ひどい!」

「てめえの心配しろや」

 ガルドが戦斧を振り上げる。

 すかさずクローレはしゃがんで脚に突っ込んだ。

「馬鹿め」

 戦斧の柄を地面にたたきつけて突進を防ぐと、クローレの脚を蹴り飛ばす。

 吹き飛んだ体が岩にたたきつけられ、顔をゆがめながらうめき、フレイムクロウの炎はあっさり消えた。

「ほらよ、こいつ、攻撃が単調すぎてあくびが出るぜ」

 ――不本意だが、俺も同感だ。

 ダンジョンの戦い方は、対人格闘戦では通用しない。

 しかも、筋力の差がありすぎる相手に正面攻撃は最悪手だ。

 ――まっすぐすぎるんだよな、性格がよ。