「親切にしてくれる大人についていって人買いに売られちゃった子とかの話も聞いてたから、大人が信用できなくてね」

「ああ、なるほどな」と、キージェは煮込みの汁にパンを浸してうなずいた。「昨日みたいに獲物を横取りされたこともあったわけか」

 ヴェルザードたちに与えられた屈辱を思い出させてしまったかと後悔したが、本人はそれほどでもないようだった。

「いるのよね、ああいうの。本当に多すぎてさ、いちいち気にしていられないくらいなのよ」

 今までよく頑張って生きてきたな。

 しかも、こんなに素直でまっすぐに。

 親でもないのに涙がにじみそうになってしまう。

 勝手にしんみりしてるキージェとは対照的に、クローレはあっけらかんと話を続けた。

「逆に、本当に親切にしてくれる人もいたんだけど、なんか、心の奥でざわつくっていうか、話してて落ち着かない感じがいやで逃げちゃったりとか」

「ああ、でも、そういう本能的っていうか、感覚的におかしいと思うときって、大体それが正しいものだよな。実際にいい人なのかもしれないけど、少なくとも自分には合わない相手なんだろうな。そういう直感って、自分にとっては正解なんだよ」

「やっぱり、そう思う?」

「まあ、俺なんかも、そうやって生きてきたからな」

「じゃあ、私とキージェは最高の組み合わせだよね」

 はあ?

「なんでそうなるんだよ」

「だって、そうじゃん」

 何がそうなんだよ。

「おいしかったね」と、食事を終えたクローレが立ち上がる。「じゃあ、出かけるとしますか」

「お、おい、待てよ」

 答えをはぐらかしやがって。

 こっちは話に聞き入ってて、まだ食い終わってねえっつうの。

「リーダーは私だからね。もたもたしてると置いてっちゃうよ。Fランクおじさん」

 ――ちっ。

 こんなんだったら、俺もランクを上げておけば良かったぜ。

 ま、上から目線でも悪い気はしないけどな。

 むしろ、そういう扱いされた方がなんだか居心地がいい。

 姫に仕える従者って柄でもないんだけどな。

 決して女王様に踏まれて喜んでいるわけではない。

 おっさんにラブコメはきつすぎるんだよ。

「ごちそうさん。お代はここに置くよ」

 キージェは煮込みをかき込むと、鼻歌交じりに先を歩くクローレを追いかけた。