「次は何を買うの?」

「携帯食料だな。干し肉とか乾燥果物とか」

 と、急にクローレがあたりを見回す。

「ねえ、なんかいい匂いしない?」

 くんくんと鼻を鳴らしながら匂いをたどっていくと、食堂に行き当たった。

 煮込み料理の店らしい。

「せっかくだから食べていくか」

「わーい、いいの?」

「ちょうど腹も減ってきたしな」

 ――こいつの中では、色気よりも食い気なんだな。

 ま、色気の方はあふれすぎてて困るから、食欲くらいは満たしてやるとしよう。

 隅にあるテーブルについて煮込みを二つ頼むと、すぐにスパイスが効いた肉の煮込み料理とパンが運ばれてくる。

「いっただっきまーす」

 さっそく口に運んだクローレの頬がとろける。

「おいしいね」

「早くて安くてうまい。大当たりだな」

 一つの料理だけで勝負してるからか、回転が良く、冒険者から親子連れまで客が次々と来ても満席にならない。

 とろとろに煮込まれた肉を頬張りながらクローレがたずねた。

「なんで師匠はあんなにすごい剣の使い手なのに、冒険者としてはFランクなの?」

「目立ちたくないんだよ。逃亡生活なんだからよ」

「じゃあ、なんで、昨日は私を助けてくれたの?」

「まあ、ほら、卑怯な連中にあれだけ痛めつけられてたら、見ちゃいられねえだろ」

「それで、私のために飛び込んでくれたんだ。ありがと」

 おもちゃでも買ってもらった子供みたいにご機嫌だ。

「私もさ、パーティー組んでる冒険者に憧れてたんだよね」

「なんで今まで一人だったんだ」と、キージェも素朴な疑問をたずねた。「おまえさんくらいの実力だったら、いくらでも勧誘されただろ」

 ――美人なんだし。

「うーん、それはそうなんだけどね」と、クローレの表情が曇る。「なんか、声をかけてくる男連中がさ、あんまり信用できないっていうか、たいした技術もないのに上から目線っていうか、なんか俺の言うとおりにしたらうまくいくぜみたいなことばかり言うからさ」

「教えたがりのおっさんって多いもんな」

 自分のことのようで背中がむずむずする。

「師匠みたいに本当に強い人ならありがたいのにね」

 褒められるとますます体中がかゆくなってくる。

「それにさ」と、クローレがパンをちぎる。「ついこの間まで、まだ子どもだったでしょ」

 そういえば、まだ十八だもんな。

 体だけ見てると、つい忘れてしまう。

 ――いや、そんなに見てねえからな。

 ただ勝手に目に入っちまうだけだ。