「一つ、情報があります」と、ライラが声を落として真顔になる。

「なんだよ」と、三人は顔を寄せ合った。

「ヴェルザードたちですが、となりのキュレル村のギルドで獲物を換金したそうですよ。ギルドの回覧書が今朝届きました」

「うわ、せこい」と、クローレが頬を膨らませる。「私から横取りしたから、ここだとバレると思ったんだね」

「訴えますか?」と、ライラは事務的にたずねる。「いちおうここのギルドでも審判は受け付けてますよ」

 クローレは肩をすくめながらあっさり首を振った。

「いいよ、面倒なんでしょ」

「ええ、双方が出頭しなければなりませんし、その間、やはりどちら側もクエストを受けられなくなります」

「なんでクローレも制限されるんだよ」と、キージェは疑問を口にした。

「審判結果が出るまでは、双方を疑うしかありませんからね。相手を貶めるために嘘の提訴をする卑怯者もいるでしょうから」

「そんなんじゃあ、誰も訴えないだろ」

「ええ、実際、私も審判の申請書を受け付けたことがありません」

「実力が物を言う世界だからな。自分で解決しろってことか」

 キージェは手を打ち合わせて話を終わらせた。

「行くぞ、クローレ。さっさとこのクエストを片付けて、次の町へ行く」

「はい、師匠となら、どこへでも行きます!」

 クローレがキージェの腕にからみつく。

「おい、離れろって! 少しは人目を気にしろよ!」

 キージェの声がギルドのホールに響き、冒険者たちからさらなる笑い声と野次が飛び交う。

「見せつけてんな、おっさん!」

「Fランクで、剣聖様だとよ」

「夜だけSランクかよ」

 ホールに爆笑がこだまする。

「Sランクの弟子に負けんなよ」

「うるせえよ、ったく」

 キージェはゆであがった顔を振りながら、からみつくクローレを引っ張ってギルドの出口に向かった。

「師匠、今回は私がリーダーだからね」

「へいへい、よろしくお願いしますよ、クローレ様」

 ――まったく、とんだ災難だぜ。

 外へ出てようやく野郎どもの臭いから解放される。

 肩を落としてため息をつくと、キージェは広場の隣にある市場へ向かった。