紙の匂いは、湿度の音に似ている。
 耳で聞こえないけれど、私にはわかる。ページのふちが微かにそり返る手触り、指先に残る粉の量、書庫の奥で眠る古紙が吸って吐く水分の呼吸——それらが日付の代わりに時間を教えてくれる。

 私は市立アーカイヴの保存担当だ。正式な肩書は「資料保存技師」。温湿度の管理、脱酸性処理、虫害対策、光量の調整、閲覧室の空気の巡り——図書館が見せる“静けさ”を、目盛りと数字で裏から支える仕事である。
 今夜も、閉館後の巡回を終えて端末に「当直」の印を押そうとしたとき、書庫管理システムの端に赤い点が灯った。

20:41 特別収蔵庫 相対湿度:67%(急上昇)

 いつもは45%前後を保つ。あの部屋は貴重書を守るため、外気と切り離された小さな箱だ。湿度がこんなふうに跳ねるのは、扉の開閉か、誰かが水分を持ち込んだときだけ。
 私は端末にリモートの換気コマンドを入れ、そのまま上着も着ずに特別収蔵庫へ向かった。

 重い扉の前で、指先がわずかに躊躇う。カードキーをかざすと、緑のランプが点いた。中はいつもより冷たい。
 空調のファンは正常に回っている。床に水滴はない。けれど、紙の匂いが深くなっていた。湿気が束になって、背表紙の谷間に沈んでいる。
 金曜の夜。今夜は展示替えの準備で、古地図のケースが一つ開いているはず——私はケースに近づき、腰をかがめた。
 紙魚(しみ)よけのトラップに、何もかかっていないことを確かめたとき、背中で微かに空気が揺れた。
 ——扉が一度、開いた?

 振り返る。何もいない。ただ、扉の縁のシリコンが、私の記憶よりわずかにつややかだった。誰かが最近、強く押した跡。
 それでも、湿度は端末の画面でゆっくりと下がり始めている。私は巡回の記録に「点検済」の一行を加え、扉を閉めた。

 それが“はじまり”だった。

 21時を少し回ったころ、アーカイヴの内線が鳴った。
 夜間に残っているのは私と警備員だけのはずだ。受話器を取ると、息を切らせた若い声が飛び込んでくる。
 「すみません、閲覧室に……人が倒れてます!」

 私は走った。閲覧室の真ん中に敷かれた長机の影で、背広姿の男がうつ伏せになっている。肩に触れると冷たく、硬い。脈は取れない。
 警備員が救急に電話し、私は男の顔を確認した。
 浅野轍(あさの・てつ)。今度寄贈予定の古書コレクションの持ち主であり、地元では顔の利く骨董商の息子だ。閉館前に職員と話しているのを見かけた。
 口元に、紙片が一枚張り付いている。栞の切れ端のようだ。私は思わず指で払おうとして、その紙に薄く青い汚れがついていることに気づいた。銅板画の裏面でよく見る、古い紙の背を補修したときに使うカッパーテープの青。

 救急と警察が到着するまでの数分間に、私は自身の呼吸が浅くなるのを無理やり押さえ込み、室内を見回した。
 閲覧机には、古地図の図録と、鉛筆の削りかすが小さく散っている。
 窓の外は雨になるかならないかの境。
 そして壁の時計は——21:18を指したまま、秒針が止まっていた。

 警察が来て、規制線が張られる。
 いつもの眠たげな声が、背後からした。
 「おまえ、こういう夜ばっかりだな」
 御子柴。中学の同級生で、今は所轄の刑事だ。
 「今日は、私の番じゃないはずだった」
 「特別収蔵庫の湿度、跳ねたって?」
 「もう入ってるの?」
 「警備のログをさっき見せてもらった。おまえの名前がそこにある。——で、死因は窒息だろう、というのが救急の見立て。口の中から紙片が少し。薬の反応は今のところなし。自然死ではなさそうだ」

 私は閲覧室の時計を指さした。
 「21時18分。止まってる。停電は?」
 「ない。ほかの時計は動いてる。これだけだ」
 「じゃあ、誰かが止めた」
 御子柴は肩をすくめる。
 「容疑者は三人。浅野と寄贈の手続きを進めていた当館の学芸員・白洲、浅野の弟の孝太、そして古書取引のフリーライター・沖。三人とも、二十一時前後にアーカイヴにいた。三人とも、“その時間は別の場所にいた”と主張」
 「アリバイ?」
 「白洲は階下の展示室で準備をしていた。監視カメラに映像。孝太はロビーで携帯ショップに電話、通話記録あり。沖は自宅から“ライブ配信でブックトーク”。コメントと録画が残ってる」

 私は、閲覧室の空気を吸い込んだ。
 古紙の匂いのはずなのに、鼻の奥でわずかに違和感がひっかかる。
 ——紙が“冷えている”。
 暖房は切っていない。閲覧室の温度は二十二度のまま。けれど本の束に触れたときの、あの内部の温度が薄い。
 誰かが、短時間に“冷たい空気”を入れた?

 御子柴が小声で言った。
 「特別収蔵庫の湿度が上がったのは二十時四十一分。閲覧室で浅野が倒れているのが見つかったのは二十一時十七分。時間のつながりはあるか?」
「わからない。けれど、収蔵庫の扉の縁に、新しい艶があった。強く押し込んだ跡。誰かが外気を持ち込んで中を冷やし、湿度が跳ねた可能性はある」
 「動機は山ほど。寄贈に絡む利権、古書の真贋、兄弟の相続……ただし、三人とも当夜の“映像”や“通話”がある。おまえの湿度の鼻だけが、頼りだ」

 私は保存室の端末に戻り、環境ログを時系列で開いた。
 特別収蔵庫は二十時四十一分に湿度が跳ね、その後五分ほどでゆっくり戻っている。温度は二十度から十八度へと一度だけストンと落ち、すぐに戻った。
 ——冷たい空気を短時間入れた。
 収蔵庫の空調にある「酸素濃度抑制」システムは、火災時に酸素濃度をわずかに下げる仕組みだ。非常時以外は動かない。ログにも作動はない。
 でも、収蔵庫の天井にはもう一つ、小さな機械が取り付けられている。
 ——オゾン殺菌機。
 紙魚対策で、閉館後にごく短時間、低濃度のオゾンを流す。
 今夜のタイマーは二十四時のはず。ログを見る。
 20:43 〈手動試験〉——1分
 誰かが押した、という意味だ。
 私は爪の先で机を叩いた。
 低濃度とはいえ、オゾンは紙の表面に“青”を残すことがある。銅を少しだけ変色させる。浅野の口の紙片にあった青は、銅の補修テープだけでは説明がつかない強さだった。
 閲覧室にオゾンが漂っていたとしたら? いや、そこにオゾンは流れない。配管は独立している。
 ただ、収蔵庫の空気を、短時間、閲覧室に引けば——。
 閲覧室の換気扇のログを見た。
 21:16——〈逆転〉
 逆転?
 本来、閲覧室の換気は外へ出す。逆転は、外から中へ引く設定。滅多に使わない。
 誰かが、ここでも「手動試験」をかけた。

 私は閲覧室に戻り、スポットの根元に手を伸ばした。照明の台座には、蛍光ペンで薄く書かれた矢印がある。「←逆」。
 白洲が書いたのか? 展示準備で時々、空気の流れを変えることはある。でも、今夜、その操作をする理由はない。
 御子柴が言った。
 「白洲は、二十時半から二十一時まで展示室で作業。映像がある。ただ、死体発見の直前五分は映っていない。カメラの前を台車が横切って隠れた」
 「孝太は?」
 「二十一時ちょうどから二十分、ロビーで携帯会社に電話。通話は長い。だが、ロビー椅子の監視カメラの死角に座ってる。口元は見えない。——誰かにスピーカーで話させることだってできる」
 「沖の配信は」
 「二十時半開始、二十分で終了。『腰が痛いからまた』で切った。二十一時台は沈黙」
 私は三人の顔を思い出し、指先に残る紙の粉の粒を舌で数えた。
 誰が、紙の“呼吸”を動かす?

 浅野の弟、孝太は、兄ほど古書に興味がないように見えた。
 「兄が勝手に寄贈を決めて、こっちは何も聞いてない。父が集めた本だ。全部差し出す必要はないだろう」
 彼はそう言い、手を膝の上で握りこんだ。
 「電話は本当に自分で?」と御子柴が聞くと、「ええ」と頷き、通話履歴のスクリーンショットを見せた。
 私はその端末の画面の隅を見た。保護フィルムの端が、わずかに浮いている。濡れた手で触った痕が乾いて波打っていた。
 「二十一時台に、どこかで手を洗いました?」
 「トイレに行ったが」
 「石鹸の匂いではない。紙を濡らした後の匂いだ」
 孝太は眉を潜めた。
 「は?」
 私はそれ以上は言わなかった。嗅覚だけでは証拠にならない。

 白洲は、いつもの穏やかな声で、「展示室でパネルの裏打ちを」と言った。
「閲覧室の換気を逆転にした人は?」
「知りません」
「台座に矢印が書いてある」
「あれは、去年の企画展で私が書いたものです。でも今夜は触っていません」
 白洲の指の腹は、湿っていない。糊も粉も匂わない。
 けれど、彼の上着のポケットに、意外なものがあった。わずかに黒光りする、薄い金属片。
 「これは」
 「展示ケースの鍵に付けるマグネットです。鍵の頭を引き出すときに使う。——いつも持ち歩いていて」
 私は頷いた。
 ネオジム磁石。強い。扉の縁のセンサーに近づければ、閉の信号を錯覚させることがある。
 白洲は私の目をまっすぐ見返した。
 「あなたは私を疑うでしょう。でも、私は寄贈を心から望んでいます。浅野さんの父上のコレクションを、この市で守りたい」
 「だからこそ、真贋で揉めている本を“なかったこと”にしたいのでは」
 白洲の瞳が初めて揺れた。
 「……真贋は、私の手から離れています」

 沖は、薄い笑みを絶やさなかった。
 「僕は書く人間です。現場に行っても手は汚さない。配信は観ました? 腹筋が悲鳴を上げてね、腰が……」
 「配信の画面の後ろ、本棚の列に一本だけ“逆さ”がありました」
 「……観察がいい」
 「逆さに挿す癖がある人は、図書の向きを入れ替えるときにも、その癖が出る。閲覧室の短架の三段目、今夜は中段だけ、背の向きが揃いすぎている。——誰かがそこを、目隠しに使った」
 沖は小さく肩を竦めた。
 「推理ごっこは好きですが、僕は紙では殺しませんよ」
 「紙では、ね」

 私は保存室に戻り、工具箱から単純なものを取り出した。温湿度計の校正用に使う小さな「飽和食塩水袋」。チャック付きのパウチ。袋の中に温湿度計を入れて放っておくと、一定の湿度(75%)に落ち着く。
 その袋は、二十時半に棚から一つ消えていた。
 調達表を調べる。最後に触ったのは私だ。午前中、別の部屋の校正で使った。
 戻した覚えはある。しかし、数えると一袋足りない。
 ——誰かが持ち出した。
 「それ、何に使う?」御子柴が覗く。
「小さな箱の中の湿度を一気に上げる。たとえば、紙片を柔らかくするのに」
「柔らかくして、何をする」
「吸わせる。匂いを。たとえば、収蔵庫で“青”が出る空気の」
 私は自分の言葉にぞっとした。
 やり方の詳細を口にすべきではない。
 けれど、浅野の口元の紙片は、オゾンの青を吸っていた。
 閲覧室の中で、それを吸わせるには“そばに”オゾンを持ち込む必要がある。
 そんなことができるのは、収蔵庫と閲覧室の“空気の橋”を知っている人間だけ。

 ——換気の逆転。
 閲覧室の換気扇は二十一時十六分に逆転した。
 その直前、収蔵庫でオゾン試験が手動で一分回った。
 つまり、収蔵庫の空気が、閲覧室に吸われた。
 そのとき、閲覧室にいた誰かが、湿らせた紙片を口元に当てれば、青はそこに残る。
 そして、浅野は呼吸を乱し、机に倒れ込む——。

 私は背中に冷たいものを感じ、椅子の背もたれを握りしめた。
 そんな“連結”を思いつき、なおかつ操作できる人間。
 白洲しかいない。
 けれど、白洲の指は糊を踏んでいない。彼は誰かに“やらせた”。
 孝太か、沖か。
 孝太の手の保護フィルムの波打ちは、濡れた紙を持った痕に見える。
 沖は、配信を早めに切って空白を作った。
 どちらも、閲覧室に来られる隙間はある。

 私はもう一度、閲覧室の机に戻った。
 鉛筆の削りかすが、不自然に“丸い”。普通、削りかすは薄い木の帯として散る。ここにあるのは小さな粒。
 ——パキン。
 鉛筆の芯だけを、折って散らした粒だ。
 誰かが“何かの音”をごまかすために、粒をつまみ、机に落としたのかもしれない。
 たとえば、紙を口に押し当てるときの、浅い吸気音。
 ごまかしとしては拙い。けれど咄嗟なら、そうする。
 鉛筆は誰のもの? 机の端に黒い短い鉛筆。白洲がよく使う濃いBの短い鉛筆だ。
 ——白洲が現場にいた。

 御子柴は、白洲を事情聴取室に呼んだ。
 私は彼の前に、オゾン試験のログと換気逆転のログ、特別収蔵庫の湿度グラフを並べた。
 「二十時四十三分。収蔵庫で一分だけオゾンを流したのは、あなたです」
 白洲は一拍おいて、うなずいた。
 「テストです。本番は夜中に回りますが、フィルタを交換したので」
 「二十一時十六分、閲覧室の換気を逆転にしたのも、あなたですね」
 「していません」
 「台座に矢印を書いたのはあなた。操作は簡単だ。スイッチを二秒押し続けるだけ」
 白洲は唇を結んだ。
 私は、最後の一枚を机に置いた。
 閲覧室の時計の写真。止まったままの21:18。
 「この時計、止まった理由は簡単です。背面の電池ボックスの蓋がずれ、ボタン電池が落ちかけていた。——マグネットに反応するタイプです。ネオジム磁石を近づけると、一瞬、接点が浮く。秒針は止まる」
 白洲の目が細くなった。
「マグネットは、展示ケースの鍵に付けるものです。仕事で使います。——だから?」
 「だから、あなたは“時刻を止めること”にためらいがない。閲覧室の“空気の流れ”と“時間”を、自分の手の内で合わせられる人だ」
 白洲は目を伏せ、そしてゆっくりと上げた。
 「浅野さんは、寄贈の一部を撤回すると言いました。真贋の疑いがあるものについて“調査が済むまで外す”。それは、しかたがないことです。——でも、私のなかの“しかたがない”と、彼の“しかたがない”は違っていました」
 御子柴が低く問う。
 「やったのは、おまえか」
 「違います」
 白洲は、はっきりと否定した。
 「換気の逆転も、閲覧室の操作も、私はしていません。——お願いしたのです。『この時間、スイッチを押してほしい』と」
 「誰に」
 「孝太さんに」

 全てが、一本の糸で結ばれた。
 孝太は兄に反発していた。白洲は寄贈を守りたい。
 「ちょっとした悪戯」を装って、兄を驚かせようと誘えば、孝太は乗る。
 閲覧室の換気スイッチを二秒押すだけ、収蔵庫のオゾン試験のボタンを一分押すだけ。
 浅野が閲覧室で白洲と話す時間を見計らい、孝太はスイッチを押した。
 収蔵庫の“青い空気”が、湿らせた紙片に吸われ、浅野の口元に。呼吸が乱れる。
 そこに、最後の角度をつけたのは——沖だ、と私は思った。
 彼は二十時半の配信を早めに切り、アーカイヴに来た。
 閲覧室で本の背を整えるふりをして、浅野の足元に、机の脚の位置をわずかにずらす。
 この閲覧室の机は、キャスターが自由に動くタイプだ。
 浅野が倒れる方向に“受け”を作れば、机の角が胸を圧迫する。
 ——誰も、押していない。
 でも、誰かが“押す前の道筋”を作った。

 証拠は薄い。けれど、薄いものしか残らないのが、紙の世界だ。
 御子柴は、慎重に三人の背を追い、通話記録と移動の軌跡と接触の角度を集めた。
 ロビーの通話はスピーカーからの音。孝太はときどき口を閉じ、誰かの指示を聞いている。
 沖の靴裏には、閲覧室のワックスにだけ含まれる微量の樹脂の粉が付着。
 白洲のマグネットには、閲覧室の時計の背面にだけある微かな黒錆の粉。

 三人は、最終的にそれぞれ違う言葉を選んだ。
 孝太は「兄を驚かせたかっただけだ」と泣き、沖は「僕は面白い話が欲しかった」と笑って黙り、白洲は「守るための方便だった」と低く言った。
 方便の先に、人が倒れることを、彼らはそれぞれの頭の中で“しかたがない”の枠に入れていた。

 事件が片づいたあと、私は特別収蔵庫の扉の縁にもう一度そっと触れた。
 艶は落ち、シリコンは元の沈黙を取り戻している。
 湿度は45%に落ち着き、温度は二十度に戻った。
 紙魚よけのトラップを新しいものに替え、オゾンのタイマーを深夜の一度に固定した。手動試験のボタンには、薄い蓋をつける。
 閲覧室の換気スイッチは覆いを設け、館内時計は電池式から有線の時刻同期に改めた。
 紙の呼吸は、外の人間の都合で速くなったり遅くなったりしてはいけない。
 それは誰の“しかたがない”からも独立している。

 御子柴からメッセージが来た。

「おまえの“湿度の耳”に助けられた」

 私は返した。

「湿度は嘘をつかない。人がつけ足すだけ」

 送信して、私は収蔵庫の奥に置いた古い地図の箱を、ひとつひとつ撫でるように見た。
 地図の端の破れは、昔の誰かの手の熱で柔らかくなったところから始まり、別の誰かの涙で硬くなり、また別の誰かの息で少しだけ戻る。
 紙は、人の“時間”を吸って生きている。
 だからこそ、私たちは、その時間に触れる道具を慎重に扱わなければならない。

 夜、外に出ると、春の冷気が胸の奥にすとんと落ちた。
 空は薄く雲に覆われ、街灯の光が滲んでいる。
 私は深く息を吸い、吐いた。
 紙は今夜も呼吸している。
 湿度の音は静かで、確かだ。
 誰かが勝手に早めたり、遅らせたりしようとしても、紙はすぐには従わない。
 そこに私の仕事がある。
 紙の呼吸の側にいて、外の“しかたがない”から、ほんの少しだけ遠ざけてやる。

 救急車の赤い反射だけが、通りの窓に細く揺れた。
 私はそれを背に、アーカイヴの鍵をもう一度確かめた。
 扉は閉まり、湿度は落ち着き、紙魚の夜は静かに続いていく。
 紙の呼吸は、小さく、正しく、そして、人より長い。
 その長さを、いつも忘れないようにしようと思った。