文化祭当日、色とりどりの横断幕が風にはためく中、俺と湊は——最後の秘密を、声で守ることに決めた。

 1 開幕

 校庭は人で埋まり、笑い声と呼び込みの声が重なる。
 そのざわめきの中で、俺のポケットのスマホが震える。
 《匿名: 正午、公開》

 湊が隣で囁く。
 「大丈夫。俺たちが先に“表”を作る」

 ——表。
 人目のある場所、態度で勝てる場所。

 2 “無音の二分”の逆転

 正午。
 影が「公開」ボタンを押した瞬間に流れたのは——
 俺たちが仕込んだ「無音の二分」だった。

 すー……はー……
 肩の力を、半分こ
 無事は、ここに置いていける

 SNSはざわめいた。
 「音がないのに落ち着く」「文章だけで泣いた」
 「#半分こ」「#無事」がトレンドに乗る。

 晒しは晒しにならず、拡散は守りに変わった。

 3 影の終幕

 迅の報告。
 「投稿元、特定完了。校外の匿名アカ。動機は“羨望と怒り”。法的処理は進める」

 直接対決ではなく、正規の手順で。
 俺と湊はただ頷く。

 湊が、手のひらをこちらに向ける。
 「無事」
 俺は、指で机を二度叩く。
 コツ、コツ。
 「半分こ」

 合図は、最後まで俺たちのものだった。

 4 ラスト配信

 文化祭の夜、空は澄んでいた。
 教室の片隅で、マイクを前に座る。
 配信タイトル——《【ささやき】あなたと君へ》。

 「こんばんは。ユナです。
 今日は……“秘密”を持って生き延びるのは、もうやめます。
 俺は、あなたの隣にいる“君”を、守りたい」

 コメントが一斉に流れる。
 「泣いた」「尊い」「推しててよかった」

 “minato_”が一言。
 《ユナ、ありがとう。半分こ》

 俺は笑って囁く。
 「うん。無事」

 5 エピローグ

 文化祭のステージ。
 横断幕が風にはためく。
 その前で、俺と湊はほんの少し肩を寄せる。
 観客は気づかない。
 でも俺たちには、はっきり伝わっていた。

 ——寄りかかっていい席は、もう埋まっている。



 仮面をつけた声と、素顔の言葉。
 その両方を半分こして、俺たちは——“無事”に恋を選んだ。

 ・・・

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