僕は思う、異性との間に友情はあるのかと。この前フラれた子とはもうだいぶ吹っ切れたから、友達として関係を築きたいと思っている。

 なので、その子にLINEをしてみようと思う。<こんばんは、久しぶり。僕は(あい)ちゃんにフラれたけれど、気持ちの整理がついたから友達として交流をもちたいんだけどだめかな> そう打ちこんで送信した。

 彼女の名前は前田(まえだ)愛ちゃん、二十一歳。フラれた原因は、僕が友達とばかり遊んでいて、愛ちゃんのことを構わなかったから。

 そんな日が半年くらい続いてしまってこの結末。失敗したと思っている。でも、正直、愛ちゃんと二人きりで遊ぶよりもみんなで遊んでいるほうが楽しいと思う。

 愛ちゃんは何度も言っていた。
「ねえ、一郎(いちろう)、構ってよ。なんで会ってくれないの?」

 僕の氏名は石上(いしがみ)一郎という。二十二歳。

「会ってるじゃないか」
 僕がそういうと、
「みんなとじゃなく、二人きりで会いたいの」
「二人きりかぁ……。みんなで遊んでいるほうが楽しいだろ」

 ここで僕と愛ちゃんの価値観のズレが生じている。

 そんな日が続き、ある時、LINEでの一言、<別れて下さい>

 僕はこの一文でとても大切な人を失った。きっと、二人きりで会う時間がとても短く、みんなと会っている時間のほうが多いからだと思う。食い下がることもせず、ただ、
<わかった>
 とだけ送った。
「何で?」
 なんて訊く資格はないと思った。

 それと、愛ちゃん、というちゃん付けで呼ばずに呼び捨てにして欲しいと言われたが、僕は、
「ちゃん付けのほうが可愛いだろ」
 と言うと、
「あっそ!」
 怒ってしまったようだ。

 僕は愛ちゃんに突然フラれて、強いショックを受けた。こんな僕はいらない存在だと思い、自殺も考えた。でも、そんなことをしたら、今度は妹がショックを受けるだろう。それは避けたい、と思い自殺はやめた。

 妹の氏名は、石上紗枝(いしがみさえ)、十九歳。僕と紗枝には両親はいない。僕ら兄妹が幼少のころ、交通事故で亡くした。そのあと、僕と紗枝は親戚に引き取られた。今は僕と妹の二人暮らし。紗枝を独りぼっちにさせたくない。

 愛ちゃんと別れて三ヶ月が過ぎた。 僕は気持ちも落ち着いたのでもう一度、愛ちゃんにLINEを送った。
<こんばんは。今から会えないかな。話したいことがある>
 LINEはすぐにきた。きっと、スマホを弄っていたのだろう。
<わかった。三十分後に来て? 部屋の中片付けたい>
<わかった>

 それから三十分くらいしてから愛ちゃんの住むアパートに向かった。彼女は一人暮らし。妹には、
「出掛けてくる」
 とだけ伝えた。
「どこに行くの?」
 とも訊かれなかった。

 僕は前田愛ちゃんの住んでいるアパートに着いた。自転車で来たので車の駐車スペースの真ん中に停めた。

 自転車に鍵をかけ、彼女の部屋に移動した。二階の二〇五号室。ドアの前でチャイムを鳴らした。中から、
「はーい」
 と元気な声が聴こえた。僕は、
「一郎だけど」
 と言い、ドアを引いてみた。鍵がかけられている。
「今、開けるね」
 ガチャ、という音と共に鍵があいて、ドアが開いた。僕は、
「こんにちは」
 笑みを浮かべながら挨拶をした。愛ちゃんは、
「どうしたの?」
「ちょっと、話したいことがあって」
「うん、ここでも良いの?」
 何やら彼女は警戒しているように感じる。

「出来れば部屋の中で話したいな」
 愛ちゃんは俯きながら考えている様子。そして、
「うん、良いよ。入って」
 許可が下りた、良かった。

 僕は部屋の中に入り、付き合っていた時と同じ場所にあぐらをかいた。そして、話し始めた。
「僕のLINE見たかな。返事がないからここまで来たんだけど、愛ちゃんにフラれて僕の気持ちも一時は落ち込んだけど、今はもう大丈夫だからもし、良ければこれからは友達の関係になれないかな?」
「うーん……そうねえ。少し考えさせて?」
「うん、前向きに考えて欲しい。話はそれだけなんだ。帰るね」
「あ、コーヒーくらい飲んで行けば?」
「いいの?」
「うん、いいよ。わざわざ来てくれたから」

 そうして愛ちゃんは立ち上がり、キッチンに向かった。やかんに水を入れ、ガス台に載せ火をつけた。

 その間にカップを二つ茶箪笥から取り出し、インスタントコーヒーをスプーンで一杯ずつ入れた。僕と付き合っていた時、僕が甘いコーヒーが好きだということを覚えているようで、何も訊かずにコーヒーと、砂糖と、クリープを入れた。

 お湯が沸くまでこちらに来て座った。なんだか懐かしい気分。お互い何も喋らない。でも、こういう空間は僕は嫌いじゃない。愛ちゃんも嫌いじゃないはず。

「天気いいね」
 僕は何でもいいからと思い話しかけた。
「そうね」
「僕も一人暮らししたいなぁ。妹がいると友達呼べない。女友達ね」
 愛ちゃんは質問してきた。
「女友達いるの?」
「いや、いないよ。愛ちゃんのことを言ったの」
「そう」
 僕も質問した。
「すぐに返事をくれないのは何か引っかかることがあるの?」

「まだ、私達、別れたばかりじゃない。だから、心の整理が出来ていなくて……。友達になるのが嫌ってわけじゃないよ」

「そうかぁ、じゃあ、僕が気持ちの整理ついて大丈夫な状態になるのは早いのかな」

「そうね、私の予想ではもっと気持ちが戻るまで時間がかかるだろうな、と思っていたからね」

「なるほど」

 天気はいいけれど、外は雪景色。キラキラと雪が光って見える。綺麗。まるで、愛ちゃんのようだ。それを言うと、
「何言ってるの!」
 と照れ笑いしている。ツッコミも早い。

「だって、そう思うんだもん」
 あえて可愛く言ってみたが、
「可愛く言っても駄目だよ!」
 と言われ、僕は苦笑いを浮かべた。

 今は12月の中旬。もう少しでクリスマスだ。愛ちゃんは誰と過ごすんだろう。僕は友達5人と過ごす予定。

 クリスマスプレゼントを買って、それを交換するゲームをする。楽しみ。そのプレゼントを買わないとな。僕は思い付いた。

「愛ちゃん、クリスマスプレゼントを買ってそれを交換するゲームをするんだけど、一緒に選んでくれない?」

「う、うん。いいけど何買うの?」

「それが決まらなくて悩んでる」

「何人でゲームするの?」 愛ちゃんがそう訊くと、僕は、
「僕を入れて6人」
「そう。うーん、何がいいかなぁ」

「悩むよね」
「うん、というか思いつかない。今は」
 愛ちゃんはそう言った。
「確かに」

「人気のゲームソフトは?」
 僕がそう言うと愛ちゃんは、
「いいとは思うけど、高くない? 1万円近くするんじゃないの?」
「まあ、うん。そうだねえ」
「金欠にならないの?」
 愛ちゃんは心配したような顔で僕を見ている。
「うん、なるかもしれない。やめよう」
 あっさり諦めると彼女は吹き出した。

「そんなに笑うことないだろ」
 僕が言うと、
「だって、簡単に諦めちゃうから」
「そりゃそうだよ。実際、あんまりお金ないし」
「なら、安い物がいいね」
 愛ちゃんはそう言った。

「本にしようかな、小説ね。文庫本ならそんなにしないと思うから」
 僕は得意気に言うと愛ちゃんは、
「それなら、直木賞とか芥川賞をとった作家の作品がいいんじゃないの?」
「おお! それは名案! ネットで検索して賞を取った作家を調べてみるよ」
 なんだか楽しくなってきた。僕はスマホで、直木賞、と入力して検索してみた。たくさん出てきた。去年の受賞者にしよう。1冊でいいかな。

「よし、愛ちゃん。本屋に行こう」
「うん、わかった」

 僕はスマホと財布をジーンズのポケットに入れ、部屋と車の鍵は手に持った。愛ちゃんは黒いバッグを持ち立ち上がった。それから愛ちゃんを先に部屋から出てもらい、僕も部屋から出て鍵をかけた。そして、車の鍵を開けて僕と愛ちゃんは車に乗った。空を見ると雲行きが怪しい。雨か雪でも降ってきそう。そう思いながら車を発車させた。バックで駐車スペースから出て、発進した。

 10分くらい車を走らせ本屋に着いた。もちろん、プレゼントするんだから新品を買う。値段は中古より新品のほうが高いけどそれは仕方ない。数百円の差だから良しとしよう。

 僕はとりあえず車の中で直木賞作家を検索してみた。すると、たくさん出てきた。そのなかで知っている小説家の本にすることにした。本も検索して探した。

 書店のなかを探しまわると、見つけた。この本を手に取りあらすじを読んでみた。面白そう! でも、これはプレゼント用だから自分のものにはならない。贈呈するものだから自分でも面白いと思える作品が良いだろう。その本をレジに持っていき、ラッピングしてもらった。

 どんなラッピングかというと、夜空に正座が点々としていて、麻紐で十字に縛ってある。オシャレだ。僕はそれを愛ちゃんに見せた。
「いいじゃない!」
「だろ」
 彼女はまじまじと見ている。
「あたしにプレゼントして欲しいくらいだわ」
 僕たちは歩きながら話している。とりあえず本屋をでた。愛ちゃんにそう言われて僕は笑ってしまった。

 僕は今、愛ちゃんと2人でならんで歩いている。まわりから見たらどう見えるだろう。彼女? それとも夫婦? 友達? もしかして兄妹? そう考えていくと楽しくなってきた。思ったことを愛ちゃんにも言ってみた。すると、ゲラゲラ笑いだした。そこまで面白いだろうか。ちょっと失礼にも感じられて不服だ。でも、僕のほうから言い出したことだから怒り出すわけにはいかない。ましてやお気に入りの愛ちゃんに向けてなど。でも、一応言っておいた。
「そんなに笑うなよ」

 愛ちゃんは、
「あ、ごめんね。つい面白くて笑っちゃった」
 面白い……。そうなのか、僕は愛ちゃんから見てそういう関係なのか。ちょっとショック。

 愛ちゃんは僕と友人という関係になりたくないのかな。そうじゃない、と言っていたけれど。あんまりしつこく訊いてもだめだ。うざったいと思われたらマズい。

 クリスマスは明後日。友達とは13時にカラオケボックスで待ち合わせている。久しぶりに顔を合わすやつら。会うのが楽しみ。前もって職場の休み希望にクリスマスに休むことを伝えてある。因みにみんな高校のころの同級生。男子が3人に女子が2人。どんな仕事をしているのだろう。僕は、高校を卒業して、ペットショップでのバイトを続けている。店長の計らいでアルバイトからパートになった。なので厚生年金になった。
 いずれは、一人暮らしをしたいと思っている。この職場で正社員になれたらいいなぁ、生き物が好きだし、働きやすい。人間関係はまずまずだし。

 忘年会が今夜ある。このペットショップには、店長、僕、バイトが2名いる。19時に現地集合となっている。バイトといっても2人も成人を越えているからお酒はOK。場所は居酒屋で店長のご指名で幹事は僕。なので、予約の電話は僕がした。

 僕の職場のペットショップは、普段は20時まで営業しているが、今日は18時で営業終了になっている。僕の勤務は、開店から閉店まで働いている。だから給料も悪くない。休みは週に2回ある。店長に正社員の話しをした。すると、こう言った。
「来年からな」
 と一言。来年からと言っても何月からなのか。忙しそうにしているから、あまり何度も訊きにくい。来年になってから訊いても遅くはない。なのでこの話はとりえあず保留にした。

 僕は閉店の18時に仕事を終え、帰宅した。まず、寒いけどシャワーを浴びた。本当は湯舟にお湯を入れて温まりたかったけれど時間がない。夕飯は居酒屋で食べるから良いとして、財布に会費の三千円と、代行タクシーの代金を入れた。普段は、昼飯代しか持ち歩いていない。

 それと、今度ノートパソコンを買おうと思っている。小説を書いて、サイトに投稿しようと考えている。出版社にも応募して、賞をとって本を出版したい。まずは今度、順序良く、小説の書き方入門、みたいな本を買ってそれから書こう。それを買うのはクリスマスが過ぎてから。年末だけに忙しいから。

 そのようなことを考えながらシャワーを浴びていた。寒い。ストーブをたいて部屋のなかが暖まるのは、アパートを出る時間になると思ったからたかなかった。洗濯物が溜まっている。寒いから臭いはしないのが幸い。あとで洗濯しよう。服装は紫のセーターを着て、ジーパンを履いた。 時刻は18時40分くらい。そろそろ行かないと。路面が凍結しているから、余裕をもってゆっくり行かないと。事故ったら最悪だから。忘年会どころの騒ぎでなくなる。

 忘年会で全員集まったのは19時を少し過ぎたところ。石上、という名で予約してある。

みんなはその名で店員に言って席まで案内してもらって欲しいと言ってあった。みんなその通りしてくれたみたいで、スムーズに集まれた。僕が一番最初に来れるように早めに来た。会費は三千円。店長やバイト2人の分を集めて最後に僕の会費も封筒に入れた。2時間飲み放題にしてある。

 僕の服装はいまは冬なので紺色のセーターにベージュのチノパンに黒いダウンジャケットを羽織っている。店長は黒いロングコートを着ている。ジーパンが下の方から少し見えている。残りのバイトは一人は茶髪で赤いジャンパーを羽織って、下は茶色いコーデュロイパンツを履いている。男性で僕より年上かもしれない。もう一人は金髪のお兄さんでシルバーの指輪を薬指と小指を両手にはめている。青いジャケットを羽織っていて、中も青いシャツを着ているのが見える。下はダメージジーンズを履いていて、なかなか派手な格好をしている。多分、僕よりも若いだろう。

 店長が一番奥に座り、その隣に僕が座って。向かいの奥に茶髪の男性が座り、僕の前に派手な金髪のお兄さんが座った。

 店員がやって来て、
「ご注文はお決まりですか?」
 と言った。
 店長は、
「まず、ビールで乾杯でいいだろ」
 そう言うので僕は店員に、
「とりあえずビール4つ」
 と頼んだ。
「おかずはいいですか?」
 と僕は訊くと、店長は、
「ビール来てからでもいい。俺は早く呑みたいんだ」
 僕は、
「とりあえずビール4つだけでいいよ」
 と店員に伝えた。
「かしこまりました」
 そう言い、その場を去った。

 店長が喋り出した。
「みんな、今年もご苦労さん。おかげで黒字で年を超えることが出来そうだよ。ありがとな!」
 僕も喋った。
「そういえば、そうですね」
「みんなの頑張りのおかげだよ」
 僕は、
「ありがとうございます」
 と言ったが、バイトの2人は黙ったままだ。2人は仲がよく、休憩時間には話している。その時、店員がやって来て、
「お待たせしました」
 と言いビールをひとつずつテーブルの上に置いていった。みんなの前にビールが置かれて店長は言った。
「よし、みんな。今年も一年お疲れさん! かんぱーい!」
 僕らも、
「かんぱーい!」
 と言ってジョッキをカチンと軽くぶつけ合った。
 みんなの顔を見ると、笑顔だった。嬉しそうにしてくれてよかった。
 金髪のお兄さんは一気に飲み干した。それを見ていた店長は、
「おおー! 凄いじゃないか」
「いやあ、いつものことですよ」
「ほお、そうなのか。それはそれで凄いな」

 こうして忘年会は始まった。店長は僕とバイト2人に、
「彼女はいないのか?」
 と訊くと僕らは口を揃えたように、
「いません」
 そう言うと、情けないやつらだなぁ、と息巻いていた。店長はバツイチ。なので僕は言った。
「店長こそ新しいお嫁さん候補はいないんですか?」
 訊くと、
「うっ、そ、それは、俺のことはいいんだ。俺は子どももいるし、一度結婚しているからもういいんだ」
 などと言い訳していた。 僕はとても面白かったから、来て良かったと思った。

 そして、翌日になり正社員の話しを店長からしてきた。
「石上くん、君、俺に正社員の話しをしていただろ。あれな、来年の一月からにするわ」
「あ。そうですか。わかりました。ありがとうございます」
 いいことがまず一個目。

 僕は仕事を終え、帰宅して僕のアパートに入ろうとしたとき、スマホが鳴った。見てみると相手は前田愛ちゃんからだ。LINEを開いてみると、
<これからは友人として交流しましょう。よろしくね>
 と書いてあった。お! これは嬉しいLINE。僕も返信した。そして、いいことが二個目。
<友人として認めてくれたんだね。ありがとう! こちらこそよろしくね>

 こうして僕らは友人としての関係を築けた。嬉しい! 末永く友人という関係でいたいな。

                                                        了