今日僕は下校してから自宅の自室で号泣した。なぜかと言うと大好きな彼女にフラれたから。交際して半年くらい経過してからの話し。僕は何でフラれたんだろう。心当たりがない。もしかして、僕以外にも好きな男ができたのかな。原因は怖くて訊けない。もし、僕の予想が当たっていたらいったい誰だろう。校内の男子だろうか。気になる。まあ、予想があっていたらのはなしだけれど。

 僕は高校三年生。一応、進学を希望している。氏名は
道上修三(みちかみしゅうぞう)という。十八歳。今回フラれたことで人間不信になりそう。僕のことを大好き、と言っていてくれてたのに。僕が元カノのことを信じすぎていたのかな。相思相愛だったはず。それは違ったのか。わからない。なにもかもがわからない。だれを信じて、だれを疑えばいいのか。僕をこういう思考にしたのは元カノのせいだ。

 時間が経つにつれ、元カノへの愛情はうすらいできた。その代わり憎しみが湧いてきた。なんでフッたんだ、こんなに誠実でまじめな僕を。アイツを殴りたい。ボコボコに。
 よし、やってやる。僕はアイツにLINEを送った。
<用事があるから会えないか?>
 しばらくしてからアイツからLINEがきた。
<用事ってなに?>
 アイツはフッた僕のLINEを消していなかったのには驚いた。返信はないかもしれないと思っていたから。
<会ってから話す>
<わかった。どんな話か気になるから会ってあげる。本当は会う気はないんだけど>
<いまからな、会うのは。会う場所は僕らが頻繁に行っていた海だからな> 元カノは、
<ずいぶんと威張るのね。なんからしくない>
 と送ってきた。僕は、
<別に>
 と一言だけ送った。そして、
<海には来いよ。もし、来なかったら家に行くからな>
 アイツはそれ以上LINEを返してこなかった。既読もついていないし。LINE見ろやなっと思った。

 僕は海に行くまえに思ったことがある。アイツをボコボコにしたら僕はどうなる。警察沙汰になるかもしれない。それに、アイツの両親も黙っていないだろう。そう考えると暴力を振るうのはやめにしたほうがよさそうだ。そんなことをしたら、立場が不利になるのは僕のほうだ。やめだ、やめ!

 一応、元カノには、
<やっぱり会うのはやめよう>
 とLINEを送った。すると、すぐに元カノからLINEがきた。
<なんなのよ、会おうって言ってみたり会うのをやめようと言ってみたり。振り回さないでよね!>
 僕はそれ以上、LINEを送らなかった。

 なんだか、我に帰った気分。僕は元カノに対して憎しみを抱いていたから、そのせいかもしれない。

 いまは、恋愛よりも大学受験が優先だろう。そのためにがんばって勉強しなければ。あんな女、もうどうでもいい。と思うが、やはりまだ未練はある。この思いを断ち切って、勉学に励まなければ。元カノと大学受験は別々に考えないといけないだろう。アイツの存在が邪魔をして受験が失敗するなんてまっぴらごめんだ。とんでもない話し。

 下校後、僕は自分の部屋で勉強をしていると部屋をコンコンっとノックする音が聴こえた。
「はい」
 と返事をすると、ドアが開いた。後ろを振り返ってみるとそこにいたのは母だった。
「修三、勉強中? 頭の回転をよくするのに甘いものがいいとネットに書いてあったからオレンジジュースとカステラもってきたよ」
 僕は、
「お! マジで? ありがとう。ちょうど何か甘いもの食べたいなぁって思ってたんだ。ちょうどいい!」
 と言った。母は、
「それならよかった。もってきて正解だね」
 相変わらず母は気が利くし、やさしい。
「いったん休憩したらは? つかれるよ」
「うん、そうする」
 母は、トレーに載せたオレンジジュースとカステラが載せられた皿を僕の机の上に載せてくれた。
「どう? 受験勉強の方は」
「まあまあ進んでる」
「そう、がんばってね!」
「うん」
 そう言って母は部屋から出ていった。ほんとはもっと喋りたいんだろうけれど、前に母に言ったことがある。
「あんまり長居はしないでくれ。気が散る」と。
 それ以来、来ても一言二言話したら出ていくようになった。可哀想だったかな、と当時は思ったけれど、事実そうだから仕方がない。
 僕はジュースを飲んで、カステラを食べた。おいしい。ありがたく全部いただいた。ふと、元カノのことを思い出した。いまごろ何をしているのだろう。そう思うと気分が沈んできた。いかん、いかん! アイツのことは忘れるんだ! と自分に言い聞かせた。そして、再び勉強を始めた。

 元カノのことが頭からなかなか離れない。どうしよう。うーん、集中しないと、勉強に!

 だが、集中できない。アイツが頭のなかにいるから。友人に相談してみようかな。誰がいいだろう。就職組のやつがいいかな。
前園(まえぞの)ゆりにしよう。早速LINEを送った。
<こんにちは。いま、通話できるか?>
 ただいまの時刻は午後五時過ぎ。
 三十分くらい経過してからゆりからLINEがきた。
<うん、いいよ>
 僕はゆりに電話をかけるとすぐに出た。
『こんにちは、修三。どうしたの?』
「実はさ、僕彼女にフラれたんだわ」
『え! そうなの!? 付き合ってたのって確かあいちゃんだよね?』
「ああ、そうだ」
『どうしてフラれたの?』
「それがわからないのさ。未練はたらたらだし、大学の受験勉強はしないといけないのに集中できなくて困ってるんだ。どうしたら、あいのことが忘れられるかな」
『うーん、それは難しいね。まだ、好きなんでしょ?』
「ぶっちゃけそうなんだわ」
 ゆりは黙った。何やら困ったような沈黙だ。確かにそんなことを言われても困るかもしれない。
『うーん、時間が解決してくれると思うけれど、時間が余っているわけじゃないということかな?』
「そうなのさ、受験勉強しなくちゃいけなくて。でも、まだアイツに気持ちがあるから集中できなくて。いくら集中集中と自分に言いきかせてもできない。だから、困ってるから相談しようと思ってゆりにLINEしたのさ」
『そう。頼ってくれるのは嬉しいけれど、こればかりは修三の気持ち次第だから、こうした方がいいというアドバイスを言うのはちょっと難しいなぁ』
 僕は深い溜息をついた。続けて彼女は話した。
『まあ、よく聞くのは新しい恋をして心の傷を癒せ、というのはどう?』
「そんなに簡単に好きな女子を見つけられないよ」
『そうよねえ……』
「困ったなぁ……」
『どうしてあげることもできないなぁ、こういうとき、自分の無力感を感じるよ』
「いやいや、そんなことはないよ。ゆりにこういう相談を持ち掛けた僕のせいさ」
 また、彼女は黙ってしまった。そして僕は、
「ごめんな、無茶な相談して」
『いやあ、それはいいんだけどね。なにか良い方法が見つかったら教えるよ。あんまり期待できないけれど』
「わかった、ありがとな」
『うん、いいのよ』
 これで電話を切った。

 なんか、ゆりに悪いことをしたな。自分で解決すべきことだから言わなければ良かった。失敗。言ってしまったから戻すことはできないけれど。僕は受験勉強を再開してみた。打ち明けたおかげで若干気分が晴れた。なので一時間くらいは集中できた。また、煮詰まったらゆりに話しを聞いてもらおう。このことを一応、言っておくためLINEを送った。
<さっきはありがとう。話しを聞いてくれたおかげで少しだけ気分が晴れて一時間くらい受験勉強に集中できたよ。だからまた気持ちが煮詰まったら話しを聞いてくれないか?>
 LINEはすぐにきた。
<マジで? それはよかったね! もちろん話しは聞くよ>
<サンキュ。その時はよろしくね!>
<わかった>
 さっきの相談もしなくてはよかったわけではないようだ。

 それにしても何であいは僕のことをふったのだろう。仮に他に好きな人ができたとしたらそれは校内の男子だろうか。先輩か、後輩か、同級生か。気になりだしたら止まらないのが僕の悪い癖。でも、気になるのは普通じゃないだろうか。あいは、バスケ部に所属しているが、もう少しで部活も終わる。就職組の彼女はどこの会社に勤めるのだろう。いまになってそんなこと訊けない。まだ、彼女のLINEは消していないけれど。未練たらたらだ。そう考えていくと、あいへの気持ちはまだ付き合ったときのままだ。一方的にフラれた感じ。だから、なおさら気持ちの整理ができないのだろう。まるで、やまない雨のようだ。

 誰かに調べてもらおうかな。あいが僕をふった理由を。でも、そんなこと頼める友人は僕にはいない。普通に遊んだりする友人はいるけれど。女子の友人のなかでも、ゆりが一番仲がいい。ある程度、信用もできるし。さすがのゆりにでもそんなことを頼んだら、嫌な気分になると思う。まるで、探偵にでも頼むかのようだ。まあ、そういう人に頼んだらお金がかかる。でも、そこまでして調べてほしいくらいだ。無理だけれど。

 新しい恋か、ゆりに紹介してもらおうかな。大学受験まであと約一年。果たして間に合うだろうか。新しい恋と大学受験。前者は未練を断ち切るためのもの。後者は少しでもいい会社に就職するための活動。両方ともうまくいくだろうか。それは、やってみないとわからない。まるで賭け事のようだ。

 学校の授業を終えて、掃除をし下校した。そして早速ゆりにLINEを送った。本文は、
<相談した内容のことだけどさ、新しい恋で未練を断ち切ろうと思って。だから、誰か紹介してくれない?>
 というもの。
 でも、ゆりからのLINEはすぐにはこなかった。忙しいのかな。でも、就職組だからそんなに忙しくないと思うけどなぁ、もしかしたら家のことをしているのかもしれないし。それなら合点がいく。

 そして、午後十時ころゆりからLINEがきた。内容は、
<返事遅くなってごめん。新しい恋か、それもアリだけれど卒業するとき、また別れるつもり?>
 僕はすぐにLINEを確認した。そして、送り返した。
<そういうつもりで交際するつもりではないけれど、相手の気持ちもあるから一概にはいえないよ。ただ、一般的に別々の大学に進学したり、就職する場所が離れているとなかなか会えないから別れるのかなぁと思ったのさ>
 今日は金曜日。明日は休みだから友人とでも会っているのかな。それ以降のLINEがこない。

 それから午後十一時頃。ゆりからLINEがきた。本文は、
<友達と話してたよ。紹介できそうだわ>
<マジで? ありがとう! その子はいくつ?>
<高二だよ、十七歳>
 僕は同級生かと思っていたので、それにも驚いた。
<そうなんだ! 年下と交流がいままでなかったから、新鮮だ>
<でしょ。会うの日曜日にしない? 私も一緒だけど>
<うん、初めて会うのにいきなり二人っきりはさすがにきついからその方がいいよ>
<じゃあ、今週の日曜日はどう?>
<それでもいいよ>
<わかった、伝えておくね。それと、名前教えておく?>
<うん、それも頼もうかな。その子の名前も知りたいんだけど教えてくれるの?>
<それは、私の判断ではないから訊いてみるね>
<わかった。また、LINEくれ>
<了解だよ~>
 これで一旦LINEのやりとりは終えた。

 どんな子なんだろう。たのしみ。
 それからしばらくしてゆりからLINEがきた。内容は、
<名前、教えてもいいって。白鳥梓(しらとりあずさ)っていうの。忘れないでね。それと、会う時間が午後一時半がいいみたい。待ち合わせの場所は川沿いのコンビニでもいい?>
<うん、いいよ、わかった。会うのを楽しみにしてるわ>
<うん、それを糧に受験勉強がんばってね!>
<ありがとう>
 母やゆりに励まされて受験勉強をがんばろうという気持ちになった。いつまでこの気持ちが続くかわからないが。できるところまでがんばろう! よし、そうする。受験勉強は難しい。まるで、やる気がないように感じる。自分のことだからよくわかる。

 学校で元カノのあいとすれ違うだけでも気まずい。知らないふりをしているけれど。それとともに、堪えてはいるが悲しい気持ちが沸々と沸き上がってくる。正直、辛い。あいはどう思っているのだろう。友達と楽しそうに話をしているが。その姿を見るとまったく気にしていないように見える。まるで、僕ばかりが辛い思いをしているようだ。あいを少しの間見ていると男子と親し気に話し始めた。こいつが新しい彼氏なのか? 畜生。あいもあいで、尻の軽い女子だとは思わなかった。僕は、元カノのことをあまり知らなかったようだ。悔しい思いもそれと同時に込み上げてきた。その男子のルックスは僕よりいいかもしれない。そこにあいは惹かれたのか? まったく、見た目だけで判断して僕を捨てるなんて、とんでもない女子だ。いまに見てろ、僕のほうがよかった、別れるんじゃなかったと思わせてやる。

 今日は土曜日。明日はいよいよゆりが紹介してくれる白鳥梓ちゃんと三人で会う予定。楽しみだ。

 僕は今日、予備校に行く日。大学受験のためにがんばらないと。まるで、フラれたことなど忘れているかのようだ。でも、そんなことはない。そんな簡単に忘れられたら女の子など紹介してもらわないはずだ。

 十時に授業開始なので、九時半には家を出る予定。今はその支度をしている。予備校で勉強する科目は、国語、英語、数学。

 予備校に行くのは、土曜日と授業を受けていない時間帯にしている。だから、結構忙しい。実家から通っているのでバイトはしていない。する時間もないし。小遣いは親から必要な時もらっている。

父親の仕事は道路工事をしている。母親はコンビニでパートをしている。それから妹もいて、僕と同じ高校で一年生。妹のことは大好き。妹も大学進学を目指しているらしい。

僕の家は決して裕福とは言えないから、だから、もしかしたら奨学金を借りるかもしれない。ただ、最近の大学生は借りた奨学金を返せなく、自己破産している人もいるらしい。そうはなりたくないから、もし、経済的な面で無理がある場合は進学を諦めて就職するかもしれない。残念だが。

 この話しは両親と相談して決める事にする。

 夜になり、父も母も居間にいるのでさっきの話しをした。すると父は、
「大学の授業がない時間は、アルバイトするんだろ?」
 僕は、
「うん、そのつもりだけど、そんな時間ないかもしれない」
「うーん、勉強が忙しくてか? 因みにそのアルバイトで得たお金は、何に使うつもりだ?」
「小遣いにしようと思ってるけど」
 そこで父は、
「そこがそもそもの間違いなんだ」
 父にそう言われ、僕は何でだろうと思ったので訊き返した。
「何で間違いなの?」
 そう言うと父の表情が変わった。
「お前、そんなこともわからないのか。家の経済状態を知ってるだろ。決して裕福とは言えないんだから、アルバイトのお金は学費に回すんだ。足りない分は親が出すから。わかったか?」
 僕は腑に落ちない。
「じゃあ、僕の小遣いは?」
「それは、こっちからやるから。大した額じゃないけどな」
 うーん、そうかぁ、と思い更に質問した。
「小遣いはいくらくれるの?」
 すると父は母の顔を見て、
「それはこれから考えるから。でも、あんまり期待しないでよ」
 と母は言った。

 何だか大学生活は楽しいというイメージがあったが、どうやらそうじゃないらしい。お金がないからつまらないということかな。それならアルバイトの時間増やせるだけ増やそうかな。でも、疲れちゃうだろうか。勉学に響いても良くないし。無理はしない方がいいか。そう結論づけた。

 少し、奨学金について調べてみた。ネットで観てみると、社会人になって働いて返すらしい。もちろん、全額。いくら親が裕福じゃないと言っても、奨学金を返せない場合、親が払ってくれるだろう。まるで、赤ちゃんが親に甘えている甘えん坊のようだ。それは自覚している。

 例えば、僕が病気になっても、それでも働け! と言うだろうか。言わないだろう。もし、言うようならそれはあまりにも酷だ。まるで、病気になるかもしれないという事を前提としているようだ。良くない考えだろうか。

 まずは、勉強して空いた時間に少しアルバイトをしなければならない。学費に充てるために。父の言いつけではこうだ。足りない分は親が出してくれると言っていた。果たして小遣いはいくらもらえるのだろう。五千円とか一万円だったら話にならない。少なすぎる。でも、父や母の収入は給料がアップしない限り増えることはないと思う。二人がどれくらい給料をもらっているかは訊いたことはないけれど。訊いても教えてくれないだろうし。

 考えてばかりいても仕方ないから、実際にやってみよう。

 いろいろ悩んだが、とりあえず今日は日曜日。白鳥梓ちゃんとゆりと僕の三人で会う約束をしている。果たして僕のことを気に入ってくれるだろうか。逆に僕も梓ちゃんのことを好きになれるだろうか。それは実際会ってみないとわからない。

 そういうことを考えていると、元カノのあいのことが頭から少し離れていくのが実感できる。いい傾向だ。

 午前十一時過ぎになったので出掛ける準備を始めた。まず、湯舟にお湯を張った。今の季節は冬だからシャワーだけじゃ寒い。下着と、黄色いTシャツと、青いセーターと、ダメージジーンズを用意して、脱衣所に置いた。それと、自分の部屋からバスタオルも持ってきた。二十分くらい湯舟に浸かってから身体を洗い、洗髪もした。それからもう一度湯舟に浸かり身体を温めてから上がった。脱衣所で用意した衣類を着てもう一度自分の部屋に戻り黒と白の縞模様の靴下を履いた。本棚の上にドライヤーが上がっているのでコードをほどき、コンセントを電源に刺して髪を乾かした。僕の髪は男性にしてみたら長いほうだと思うので乾くまで時間がかかった。

 時刻は午後十二時十五分ころ。お昼ご飯を食べてからで行くでいいと思うが一応確認してみよう。前園ゆりにLINEを送った。
<こんにちは! 今日のことだけどお昼ご飯食べて行っていいよね?>
 ゆりからのLINEはすぐにきた。
<うん、一時半に待ち合わせだから食べて来てね>
<わかった、ありがとう>

 母は今日仕事で家にいない。でも、お昼のおかずは作ってある。それを食べよう。鮭の焼いたものと、味噌汁と、白米で食べる。全部、電子レンジで温めてから食べ始めた。うん、鮭も塩味が利いていて旨い。味噌汁は、豆腐とわかめが入っている。これも美味しい。

 外を見ると銀世界、雪景色。これはとてもじゃないが自転車では行けない。なので歩いて行くことにした。一応LINEを送っておくか。遅れるかもしれないから。
<ゆり、今日、雪積もってるから自転車じゃなく、歩いて行くわ>
 LINEはすぐにきた。スマホを弄っていたのかもしれない。
<わかった。気を付けてね!>
 雪の中を歩いてみると想像以上に深い。除雪がまだされていないようだ。今の時刻は早めに家を出たので午後十二時四十五分くらい。これじゃあ、歩くのもゆっくりかもしれない。なので、もう一度LINEを送った。
<もしかしたら遅れるかもしれない>
 と。ゆりとその友達の白鳥梓ちゃんも待ち合わせ場所の川沿いのコンビニまで歩きだろう。ちょっと危険かなと思った。もっと雪の少ない日にすればよかった。でも、約束した日だから仕方ないか。最悪タクシーに乗って移動する。

 ゆりからのLINEがなかなか来ない。大丈夫だろうか。少し心配。

 目的地に着いたのは午後一時四十五分ごろだ。二人はまだ来ていない。何かよくないことでもあったのだろうか。すると、見慣れない女の子が僕に向かってやって来た。そして話し掛けられた。
「道上修三さんですか?」
 僕は、
「はい、そうです。もしかして白鳥梓ちゃん?」
「そうです。ゆりさん、まだ来てないですね」
「そうなんだよね。雪が深くて遅れているのかも」
「それはあり得ますね」

 それから約十五分くらい無言のまま経過して、さすがに遅いと思いLINE通話にした。暫く呼び出し音を鳴らしてようやく繋がった。
「もしもし、ゆりか?」
『うん、歩道の雪が深くて。なかなか進まない。梓はもう来てるの?』
「ああ、少し前に来たところだ。ゆりがあまりにも遅いから電話してみたんだ」
『そっか、ごめんね。もう少ししたら着くから。あ、そこで待ち合わせしてそこからタクシーで移動しようか?』
「そうだな、そうするか。とりあえず待ってるから」
『わかった。ごめんね』
「いやいや、仕方ないさ。この雪じゃあ」
 そう言って通話を切った。

 僕は梓ちゃんにも話した。
「ゆり、この雪のせいで歩いて来てるんだけど、なかなか進まないみたい」 そう言うと、梓ちゃんは顔をしかめた。
「やっぱりそうなんですね」
 僕は頷き話しを続けた。
「ゆりがここに着いたら、タクシーで移動しようと話してたんだわ」
「あ、そうなんですね。その方がいいですね。歩道の雪は深くて歩きにくいから」

 慣れない女の子と二人きりでいて、なるべく沈黙は避けたいと思ったので思い付くことを次から次へと喋った。
 三十分くらい喋っていて、ああ、梓ちゃんはかわいい子だなと思った。そのとき、
「あ! ゆりさんだ!」
 と梓ちゃんは叫んだ。
 手を振りながら、
「大丈夫ですかー?」
 と叫んだ。
 ゆりも手を振りながら笑みを浮かべている。

 彼女が近くまで来て僕は、
「大丈夫か? 大変だっただろ」
 ゆりは息が上がっていて、上気している。
「はあ、はあ、疲れた。でも、来れてよかった」
 僕は、
「よし、タクシーを拾おう」
「うん、そうしよう」
 ゆりはその場にしゃがんだ。雪深いこの歩道を歩くのは大変だろう、ましてや女の子が。
 国道を走っているタクシーに手を振るが、先客がいるのかなかなか止まってくれない。

「大丈夫ですか?」
 と心配そうに梓ちゃんはゆりに声をかけた。
「ありがと、梓」
「ちゃんと来れるか心配だったんですよ」
「ごめんね、心配かけて。でも、大丈夫よ。ありがとう」

 僕は空車のタクシーを五台目で捕まえることができた。国道沿いで止まったタクシーは後部座席のドアを自動で開けた。ゆりと梓ちゃんは後部座席に乗り、僕は助手席に乗った。

 タクシーに乗って、
「どこまで行きますか?」
 と運転手に言われたので、とりあえず喫茶店に行くよう告げた。

 タクシーもこの雪でスリップし、走り辛そうだ。 それから十五分くらいかけて目的地に着き、僕が運転手に支払った。
「修三、ハイヤーの支払いごめんね。あとで三分割して梓と私の分を修三に払うから」
「いや、大した金額じゃないから別にいいよ」
 僕は思ってことを言った。お金があまりないのは事実だけど。

 喫茶店に入ると、中年のおじさんがカウンター越しに、
「いらっしゃいませ」
 と低い声で言った。
「お洒落なお店ね」
 ゆりがそう言うと梓ちゃんも、
「そうですね」
 店主が近づいて来て、
「何にしますか?」
 壁際にあるメニュー表を三人で見た。僕は一人で座り、ゆりと梓ちゃんは二人並んで座っているので、二人の方にそれを向けて見ている。
 ゆりは、
「カフェオレにする」
 梓ちゃんは、
「わたしは、カフェラテにします」
 僕は、
「えーと、パンケーキとカプチーノ」
 店主は、
「あとはいいかな」
 と言うので僕は、
「はい、いいです」
 そう答えた。店主は伝票を置いてカウンターの向こう側に行った。

 店内は数名のお客さんがいる。若いカップルと老夫婦、それから疲れた感じのサラリーマン風の男性がいる。少しして僕ら三人分の注文したものがきた。ゆりは、
「わー! 温まりそうだし、美味しそう」
 絶賛している。
 梓ちゃんも、
「ほんとですね! 修三さんのパンケーキ美味しそう」
 僕は、
「そうだね、少し食べる?」
 梓ちゃんに声をかけると、
「え! いいんですか?」
 本当は全部一人で食べたかったけど、仕方ない。ゆりにも一応、声をかけた。
「ゆりも食うか?」
「あ、じゃあ、少しだけ。これじゃあ、修三の分がなくなるね」
 僕は苦笑いを浮かべながら、
「大丈夫だよ、もう一枚あるから」
 と心にもないことを言った。
「修三さん、優しいですね! さすが先輩!」
 梓ちゃんにそう言われて正直嬉しかった。

 ゆりは僕を見て話した。
「もう元カノのこと忘れたんじゃないの?」
「そうだな~、でも、独りになった時はわからないわ」
 梓ちゃんは、
「元カノ?」
 と言うのでゆりは、
「今だから言うけど修三は彼女にフラれたの。その傷を癒して欲しくて梓を呼んだのよ」
 すると梓ちゃんは、
「そうだったんですね。それは知らなかった」
「でも、二人のお陰で気分は紛れたわ。ありがとな」
 ゆりは言った。
「いえいえ、それより修三と梓、LINE交換した?」
「いや、してないよ。今日会ったばかりだし」
「わたしは別に交換してもいいですよ」
 意外に積極的な梓ちゃん。
「もちろん、僕もいいよ」
 こうして僕は梓ちゃんとLINEを交換することができた。ゆりのお陰で。「これで私がいなくても二人で話せるでしょ」
「ありがとな、ゆり」
 僕がそう言うと梓ちゃんも、
「ゆりさん、ありがとうございます」
 これからは梓ちゃんと二人で会うことができる。楽しみだ。気分も紛れたし。すべてゆりのお陰だ。彼女に感謝しないと。
「ゆり、ありがとな。この恩は近い内にするから」
「何もいいのよ。これは友達のためにやったことだから」
 僕は言った。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
「もちろんよ。私を誰だと思っているのよ」
 ゆりがそう言うと僕は爆笑した。
 こうして先のことはわからないが、梓ちゃんと上手く付き合えたらいいな。そう思ってパンケーキを口に運んだ。
                               了