もうそろそろ電話がかかってくるかもしれない……、

 倭生那は不安に襲われていた。義母からの電話を恐れていたのだ。仕方のないことだと自らに言い聞かせていたが、感染したという嘘を取り(つくろ)(すべ)はまったく思いついていなかった。

 こっちが倒れそうだ……、

 妻が消えた日から食欲がなくなり、睡眠も十分にとれなくなっていた。悪夢にうなされて夜中に何度も目が覚めるのだ。その度にハッとして隣を見るが、愛しい人の寝姿を見つけることはできなかった。

 今日で2週間か……、

 あの日からあっという間に日が経ってしまった。その間、電話がかかってくることはなかったし、電話をかけても応答はなかった。なしのつぶてなのだ。

 どこにいるのか……

 毎日何度も繰り返す疑問に答えてくれる人はいなかった。もちろん、ただ手をこまねいていたわけではない。あらゆる手を尽くしてナターシャの友人関係を当たった。中には電話をかけてくれた人もいた。自動録音メッセージに不安を覚えた人たちだ。しかし、手掛かりは一つも掴めなかった。誰も彼女の居場所を知らないのだ。

 なんでもいいから連絡をくれ、

 ビールグラスに向かって頼みごとをしたが、泡が一つ消えただけで、なんの返事も返ってこなかった。

 また長い夜になりそうだ……、

 3本目の缶ビールを開けてグラスに注いだ。しかし、それで終わりそうにはなかった。飲み潰れなければ眠れないのだ。

 何本飲むことになるのやら……、

 既に握りつぶした2本の缶を見つめながら、大きく息を吐いた。