「ナタヌシャ」 

 玄関に明かりは぀いおなかった。い぀もなら迎えおくれる笑顔どころか気配さえない。矜田に着いた時に送ったショヌトメッセヌゞに返信がなかったのでおかしいずは思ったのだが、たさか家に蟿り着いた時にいないなんお考えもしなかった。

 リビングに入っお照明のスむッチを抌すず、テヌブルの䞊に眮かれたメモが芋えた。急いで手に取るず、その瞬間、目を疑った。あり埗ないこずが曞かれおいた。

『探さないでください』

 メモを持っおしばらく呆然ずしおしたったが、ハッずしおスマホの連絡先アむコンから劻の番号を衚瀺させ、それをタップした。

 しかし、応答はなかった。『おかけになった電話は電波の届かない堎所にあるか、たたは、電源が入っおいないためかかりたせん』ずいう録音メッセヌゞが流れおくるだけだった。
 その理由は2぀しか思い浮かばなかった。劻が故意に電源を切っおいるか、機内モヌドにしおいるか、そのどちらかだ。仕方がないので電話は諊めお劻の行動を掚枬するこずに切り替えた。このメモからするず日本にはいないず考えた方が間違いないだろう。

 ずするず、ロシアしかない。
 ずいうこずは、実家に垰ったのだろうか 
 でも䜕故 
 もしかしお䞡芪が病気になった 
 いや、そんなこずは聞いおいない。
 それに、芋舞いに行くなら『探さないで』ず曞くはずはない。
 では、なんだ

 考えたが、さっぱりわからなかった。心圓たりは䜕も無いし、倉な玠振りを感じたこずもなかった。どんなに考えおも思い圓たるこずはなかった。
   いや、そんなこずはない。あの日はおかしかった。元気がなさそうだったし、笑い方が倉だった。買い物から垰った時は元に戻っおいたのでそれ以䞊気にするこずはなかったが、明らかにおかしかった。
 それでも、だからずいっおそれがこのメモに繋がるずは思えなかった。ずいっお、他に原因があるずも考えにくい。喧嘩をしたこずもないし、トラブルに巻き蟌たれたこずもない。平凡だけど平和な毎日が続いおいたのだ。唯䞀の気がかりはロシアによるりクラむナ䟵攻だったが、それが家を出お行くほどの理由ずは思えなかった。

 うん、わからない。䜕もわからない。ただ、どういう理由であれ、どういう事情だずしおも、ロシアに垰るこず以倖にはあり埗ないだろう。

 だずすれば、もう既に飛行機に乗っおいるだろうか

 わからない。もしかしたら矜田か成田で搭乗埅ちの可胜性もある。しかし、モスクワぞの盎行䟿は運航停止になっおいるはずだ。ずするず、トルコ経由か そうだ、そうに違いない。

 珟圚トルコには枡航䞭止勧告は発什されおいないはずだず思っお調べるず、案の定、芳光、ビゞネス共に入囜可胜ずなっおいる。それにワクチンを3回接皮した人は隔離措眮の適甚もないずいうこずだから、ハヌドルは䜎い。

 早速、運行状況を調べるず、タヌキッシュ゚アラむンズが矜田から毎日運航しおいるこずがわかった。すぐに電話をしお搭乗者名簿の確認を頌んだ。
 しかし、本人以倖には教えられないず断られた。倫であるこずを䌝えたが、それでも答えおはくれなかった。個人情報保護や詐欺察策の面から厳しく運甚されおいるのだろう。これ以䞊粘っおも埒(らち)が明かないので電話を切ったが、スマホに衚瀺された時刻を芋お暗い気持ちになった。出発時間を10分ほど過ぎおいたのだ。劻はもう機䞭の人になっおいる可胜性が高いこずになる。

 たいった  、

 䞡手で顔を芆っお䞭指で䞡目頭を揉んだ。するず、頭の䞭が埌悔でいっぱいになった。行くんじゃなかった、ず北海道ぞの出匵を悔やんだ。

 氎産庁がロシアずサケ・マス亀枉を開始したこずを受けお北海道に出匵しおいたのだ。亀枉自䜓はりェブ䌚議方匏なのでわざわざ北海道ぞ行く必芁はなかったが、情報収集が必芁ず刀断しお珟地に飛んだのだ。

 予想はしおはいたが、厳しい珟状を目の圓たりにした。出持できないために陞揚げされた持船が倚数あり、持垫の焊りは半端なかった。サケ・マス持に出られなければ1隻(せき)圓たり6千䞇円から7千䞇円の収入を倱う。シヌズンは6月たでず決たっおいるから、あずから取り戻すこずはできない。いた持に出なければならないのだ。
 それに、圱響は持垫だけにずどたらない。卞や鮮魚店、鮚屋に和食料理店などすべおの関係者に及ぶのだ。それだけに持業や氎産業が基幹産業である地域のダメヌゞは倧きい。もしこのたた持ができなくなるず廃業や倱業ずいう問題が顕圚化(けんざいか)する。そうなるず地域から出お行く人が増える。廃(すた)れおいくのを止めるこずはできない。

 そんな珟地の厳しい珟状を目の圓たりにしお疲れ果おお東京に戻っおきたが、癒しを䞎えおくれるはずの劻は曞眮きだけを残しお消えおいた。

 どうしたらいいんだ  、

 䜕も考えられなくなった。ただ頭を抱えお苊悶するしかなかった。