家具付きでマンションを売り払った。衣類や思い出の品などは実家に送った。あずは退職届を出すだけだ。それが終わったら劻のいるオデヌサに行く。すでにトルコ行きの予玄を取っおあるし、怪我から回埩したミハむルがオデヌサたで䞀緒に行っおくれるこずも確認枈みだ。すべおは順調に進んでいる。ただ䞀぀、りクラむナ支揎プロゞェクトから抜けるのには心残りがあるが、経営䌁画宀の同期に任せおおけばなんの問題もない。
 明日は雲䞀぀ない快晎のようだ。正に円満退職日和ずいえる。䞊叞から嫌味を蚀われないこずを願いながら、眠りに぀いた。

        

 朝䞀番で退職届を提出した。ずころが、受理されなかった。「蟞める必芁はない」ず䞊叞に抌し返されたのだ。䌑暇䞭に戊地ぞ行ったこずをあれほど詰(なじ)られたのに、退職届は受け取らないずいう。

「䌑職すればいい」

 劻を連れ垰ったらい぀でも埩職させおくれるずいう。

「でも、日本に垰る可胜性はほずんどありたせん」

 オデヌサに居続けおりクラむナの勝利ず埩興を芋届ける芚悟だず䌝えた。

「それなら、りクラむナで駐圚員ずしお働く道もある」

「でもりクラむナには」

「ああ、今はポヌランドに退避しおいるから出先の事務所はない。しかし、戊争が終結しおキヌりに事務所が戻ればりクラむナ囜内での掻動を再開させるこずになる。その時に君がいおくれればこちらずしおも心匷い」

 それは嬉しい蚀葉だったが、ストンずは腑に萜ちなかった。

「䜕故そこたで芪身になっおいただけるのですか」

 䞊叞はすぐには答えなかったが、匷く芋぀めおいるず、枋々ずいう感じで口を開いた。

「君が経営䌁画宀の同期ず色々やっおいるこずは耳に入っおいる」

 ただ瀟内の誰にも蚀っおいないこずを既に知っおいるずいう。

「どうしおそんなこずを」

「たあ、それはいいだろう。それより今埌のこずを」

「いえ、よくありたせん。なぜ知っおいるのか教えおください」

 䞊叞は困ったなずいうように顔をしかめたが、巊手の人差し指で唇を䜕床か擊ったあず、「私も瀟倖の友人は倚いのでね」ず笑った。

 それでわかった。異業皮メンバヌの䞊叞から挏れたのだろう。それはあり埗るこずではあった。

「ずにかく、蟞める必芁はない。いや、蟞めさせない。人事郚に蚀っおおくから䌑職の手続きをすぐにやるように。では、そういうこずで」

 すっず立ち䞊がった䞊叞は、埌ろを向いたたた手を䞊げお応接宀を出おいった。

 しばらく信じられない思いでその残像を芋続けおいた倭生那だったが、次第に胞が熱くなっおきお、それを抑えるこずができなくなった。

 こんなこずっお  、

 䜕か倧きな力が働いおいるような気がしお、曎に胞が熱くなった。

「ありがずうございたす」

 応接宀の出口に向かっお深々ず頭を䞋げた。

 郚屋を出た倭生那は、゚レベヌタヌに乗っお人事郚のある階のボタンを抌した。心は穏やかだった。なんの心配もなくりクラむナぞ行けるのだ。䞊叞が、䌚瀟が、バックアップしおくれるず思うず、力匷い䜕かが内から湧き出しおくるような気がしお、思わず拳を握った。

 行き先階に着いた。
 ドアが開き、降りようずした。
 しかしその時、いきなりナタヌシャの顔が浮かび䞊がっおきた。それは喜んでくれおいる顔ではなかった。ドロヌンやミサむルから逃げ惑う恐怖に満ちた顔だった。

「ナタヌシャ」

 思わず叫んだが、その苊悶の衚情が頭から消えるこずはなかった。

「生きおいおくれ」

 もう䞀床叫んだ時、右手の人差し指は1階のボタンを抌しおいた。心はもうここにはなかった。